2024 年 66 巻 8 号 p. 1588-1595
食道良性狭窄は患者のQOLを著しく低下させる状態である.今回われわれは,複数回にわたるバルーン拡張術(endoscopic balloon dilation)も奏効せず,ステント留置を行うも逸脱を繰り返し,内視鏡治療に非常に難渋した術後良性食道狭窄症例を経験した.本症例は総拡張回数35回,ステント留置回数8回で,最終8回目にアンカバー自己拡張型メタリックステント内にフルカバー自己拡張型メタリックステントを重ねて留置するStent in Stent治療が奏効し,現在まで2年11カ月の経過が追えている.しかし複数回のステント留置術は本来は避けるべき治療であり,再手術等の他の治療を選択すべきである.本症例は患者背景による特殊な症例報告である.
Benign esophageal stenosis significantly impairs patientʼs QOL. Herein, we present a case of benign esophageal stenosis refractory to repeated endoscopic balloon dilation. Recurrent deviation was evident despite adequate stent placement, posing a significant challenge for further endoscopic intervention. Fortunately, good clinical outcomes were achieved in this case by utilizing the “stent-in-stent” technique, where a fully covered self-expandable metallic stent was placed within an existing, uncovered, self-expandable metallic stent.
外科手術のみならず,内視鏡治療などの進歩に伴い食道良性狭窄症例は後を絶たない.食道良性狭窄の治療はバルーン拡張術(endoscopic balloon dilation:EBD)が一般的であり,EBDの即時性成功率は80-90%とされているが 1)40%の患者はEBDを繰り返すとの報告もある 1).EBDを繰り返しても症状が改善しない場合には再手術や電気焼灼切開術(electrocautery therapy)が行われるが,再手術が不可能な場合や電気焼灼切開術の適応外症例であった場合には,次の治療として食道ステント留置術がある.悪性狭窄に対するステント留置術は一般的に行われているが,良性食道狭窄に対するステント留置術は本邦では保険適用外であり,海外の報告でも適応症例は限られ長期予後も不明である.今回われわれは,EBDが奏効しない良性食道狭窄に対しステント留置術を行い,約2年11カ月の長期経過を追うことが可能であった貴重な症例を経験した.この症例は内視鏡手技にも非常に難渋したため,治療時の工夫についても紹介する.
78歳,男性.既往歴は変形性頸椎症,胆囊炎,心膜炎,前立腺肥大症に対しタムスロシン塩酸塩,コハク酸ソリフェナシン内服中.家族歴は特になく,飲酒は純アルコール量で1日約53g,喫煙歴は20本/日×40年.
2017年11月に他院で施行予定であった胆囊炎の術前上部消化管内視鏡検査で発見された胸部中部食道癌(StageⅡB)に対し,2018年2月,開胸開腹食道亜全摘2領域D2リンパ節郭清,胸骨後再建,頸部食道-細径胃管吻合術,チューブ腸瘻造設術を施行されたが,術後7日目に頸部の発赤と圧痛を訴え,食道造影で高度の食道狭窄と造影剤の食道皮膚瘻への流出を確認した(Figure 1).術後縫合不全の診断でドレナージ術が施行されたのち,術後約3カ月目に上部消化管内視鏡検査を施行したところ,頸部食道に全周性狭窄と瘻孔を認めた(Figure 2).同日,食道狭窄の初回治療として透視下バルーン拡張術が施行されたが,ガイドワイヤーが食道皮膚瘻から体外へ出てしまうことを繰り返した.そこで新たに上腹部に小開腹下で胃瘻を造設後,胃瘻孔から経鼻内視鏡を挿入し逆行性にガイドワイヤーを口腔側へ誘導し(Figure 3)口側からのEBDが可能となった.狭窄長は約13mmで,その後は週1回,6週間EBDを繰り返したが症状の改善は得られなかった(Figure 4).再手術の必要性について複数回説明を行ったが,本人,家族ともに同意は得られなかった.EBDの効果が得られず手術も拒否されたため,十分な説明ののちにフルカバー自己拡張型メタリックステント(fully covered self expandable metallic stent:FCSEMS)を留置する方針となった(Figure 4).良性狭窄に対するステント留置に関して,1例のみの使用の際は当院倫理委員会の承認不要との確認を得てステント留置術を行った.

食道の高度狭窄(矢頭)と造影剤の食道皮膚瘻(矢印)への流出を認めた.

高度狭窄像(矢印)と瘻孔(矢頭)を認めた.

胃管側から逆行性挿入したガイドワイヤーをキャッチし口腔外へ誘導した.

術後経過.
本症例は変形性頸椎症による頸部食道の屈曲が強く,ステントデリバリーシステムが狭窄部を通過できなかった.そこで経口的に挿入されたガイドワイヤーを胃瘻孔から体外へ誘導し,体外部分のガイドワイヤーに両側から用手的にテンションをかけ,デリバリーシステムを胃管側に引っ張ることで狭窄部へのステント留置に成功した(Figure 5).

狭窄部へのステント留置像.
ステント留置後は食事摂取が可能となり食道皮膚瘻への食物流出もなく経過した.しかしFCSEMS留置から7週間後にステントの胃管側への逸脱を確認した(Figure 4).ステントを抜去し経過観察したが,数日後に再狭窄を確認した(Figure 6).逸脱を防止し,十分な留置期間を確保する目的でパーシャルカバー自己拡張型メタリックステント(partially covered self expandable metallic stent:PCSEMS)を留置し14週後に抜去したが,抜去後2週間で再狭窄した.再度EBDの方針となり,9週間で19回の拡張を行ったが症状の改善はみられなかった(Figure 4).それでも再手術は希望されなかったため再度ステントを留置したが,その後も逸脱と再留置を繰り返した(Figure 4).逸脱リスクが少なく,近位食道の術後吻合部狭窄への留置が推奨されているPCSEMSであるウルトラフレックスステント(ultraflex esophageal stent) 2)も使用したがそれも脱落した.経口摂取を強く希望する本人と家族の意思を汲み,十分な説明を行った後にアンカバー自己拡張型メタリックステント(uncover self expandable metallic stent:UCSEMS)を留置した.UCSEMS留置後は嚥下障害が改善し普通食も全量摂取可能となったが,10週後ステント内部に肉芽の増生を認めた(Figure 7).アルゴンプラズマ凝固法(argon plasma coagulation:APC)とスネアによる肉芽除去施行後に(Figure 8)抜去を試みたが,ステントと食道壁が強く固着しており抜去不可能であった.3週間後に肉芽による再狭窄を認めたため(Figure 4),すでに留置されているUCSEMSの内腔側にFCSEMSを留置した(Figure 9).2年11カ月経った現在,ステント逸脱や目立ったingrowthは認めず(Figure 10)嚥下障害や頸部痛などの有害事象もなく経過している.

肉芽による高度狭窄と瘻孔(矢頭)を認めた.

UCSEMS留置後,肉芽による高度狭窄を認めた.

UCSEMS内に増生した肉芽をAPCとスネアで除去したところ管腔が開存した.

UCSEMSの内腔側にFCSEMSを留置した.

2023年現在も管腔は開存している.
今回われわれは総拡張回数35回,総ステント留置回数8回という内視鏡的治療に苦慮した術後難治性良性食道狭窄症例を経験した.良性食道狭窄治療の第一選択はEBDであるが,治療を繰り返しても再発する難治性良性食道狭窄患者は40%いるとの報告もあり,決して少ない数ではない 1).欧米では難治性良性食道狭窄に対するステント留置術が薬事承認されており,以前われわれも個人輸入した自己拡張型プラスチックステント(self expandable plastic stent:SEPS)の使用経験を報告している 3).
狭窄長が2cm以上,強い屈曲,スコープ通過不可の高度狭窄を複雑性狭窄と定義し,これらは治療困難であり再発率が高い 2).さらに難治性良性食道狭窄とは,狭窄が適切なサイズまで拡張できない,短期間での再発,継続的な拡張が必要なものとされている 4).本症例の狭窄原因は食道亜全摘術後の血行不全と考えられ,狭窄長は13mm程であったが変形性頸椎症による頸部食道の強い屈曲を認め,経鼻内視鏡の通過も不可能な高度狭窄があり短期間の再発を繰り返していることから難治性複雑性良性食道狭窄の定義に当てはまる 4).
難治性良性食道狭窄の治療として,胃管介在を伴う難治性吻合部狭窄に拡張が著効しなかった場合,電気焼灼切開術(electrocautery therapy)がよいとの報告もある 5).しかし炎症が遷延する場合の切開術は推奨されておらず,術後縫合不全症例等の極めて硬い瘢痕組織や術後吻合部の高度な屈曲症例には適さない 6).本症例は頸部屈曲が強く食道皮膚瘻も残存している状態であり,これらの治療は適さないと判断しEBDを繰り返したがほとんど改善はみられなかった.2日に1回のEBDを繰り返すという選択もあったが,高齢のため頻回の通院は困難であり,負担が少なく長期効果を得る治療としてはステント以外考えられず,複数回にわたる話し合いの結果,食道ステント留置の方針となった.
著しい狭窄症例に対するSEMS留置の際は,咽頭,食道粘膜損傷の危険性があるため工夫が必要との報告があるが 7),本症例も頸部屈曲が強くステント留置に非常に難渋した.難治性複雑性良性食道狭窄に対する治療は,治療効果の有無だけでなく内視鏡手技自体も非常に難しいということを痛感した.ステントの種類やサイズ,狭窄の程度だけではなく,屈曲の有無も手技の難易度に影響すると考えられ,このような症例では,治療手技自体も個々の症例に応じた工夫が必要と考える.
食道ステントの逸脱率は14-38%との報告があるが 4),8),9),われわれの症例は8回中5回のステント逸脱を認めた(逸脱率62.5%).逸脱リスクが少なく,近位食道の術後吻合部狭窄への留置が推奨されているPCSEMSのウルトラフレックスステント(ultraflex Esophageal stent) 4)も使用したがそれも逸脱した.推測にはなるが,本症例の高度な狭窄は屈曲部の一点に集中しており,この極めて強い狭窄力がカバーステントの重心から少しでもずれてしまうことで頻回の逸脱が生じたと考えた.逸脱を防止するには,ステント中央の重心部を最も狭窄している部分にピンポイントで合わせて留置する必要があり,そのためには狭窄部とステントの重心を考慮し,的確な位置に留置するという繊細で高度な内視鏡手技が必要である.
逸脱防止のため,苦肉の策でUCSEMSを留置したが,今度はingrowthに悩まされることになった.Ingrowthによる再発性嚥下障害発生率はSEMS留置後17%との報告があり,さらにingrowthはステントサイズ,ステントの長期留置が原因である可能性が示唆されている 4).これらはFCSEMS,PCSEMS,SEPSでの報告だが,UCSEMSであればさらに頻度が上がるのは容易に想像がつく.われわれは焼灼除去を行い,一時的に狭窄が解除されたが長くはもたなかった.最終的にUCSEMSの内側にFCSEMSを留置することで嚥下障害がほとんどない状態で現在も経過している.食道良性狭窄にSEMS留置をされた患者の31%はステントを抜去せずに経過観察したという報告があり,留置期間は最長で35カ月間であった 2).われわれの症例は現在まで約35カ月であり,重篤な合併症もなく経過観察中であるが,ステント留置後の合併症は10-59%で発生し 10),中には大動脈瘻で死亡した症例 4)や,大量出血を来し死亡した症例 8)の報告もある.また,長期経過を追うにあたり異時性癌,異時性再発のリスクも出てくるが,本症例は食道内腔がステントで覆われており内視鏡的な発見は難しい.ステント留置後の長期的なフォローの方法としては,CTや超音波内視鏡検査による画像的フォローとランダム生検による病理学的フォローを施行するという報告がある 11).本症例に関しては,本人と家族へ異時性癌,異時性再発に対する十分な評価,対応が困難であることを説明し,可能な限りのフォローを行っていく旨をご理解いただいたうえで定期的なCTによる全身検索と肉芽の生検を行っているが,十分なフォローとはいえない.また,本人と家族の強い希望があったにしても今回のような複数回のステント留置は避けるべきであり,反省すべき点でもある.侵襲的な治療は希望されなかったこと,高齢者であること,摂食希望が強いことから,本人と家族の負担軽減を第一に考えた結果の選択であったが,本症例のようにステント逸脱を繰り返す場合には本来は再手術が適していると考えられる.ステント治療が選択されたとしても,抜去を前提としたFCSEMSを選択すべきでありUCSEMSの安易な留置は避けなければならない.生命予後が望める若年者であれば内視鏡的フォローの観点からも尚更慎重に対応すべきである.年齢や家族背景,生命予後など個々の症例に応じた治療の選択が重要である.今後再狭窄した場合には,内視鏡的肉芽除去術や手術で対応すべきであり,それでも改善しない場合や理解が得られない場合には,胃瘻管理も選択肢となる.
食道良性狭窄に対するステント留置の成功率は40%程度と報告されている 8).外科手術や内視鏡治療の進歩に伴い,今後も治療に難渋する食道良性狭窄症例は増加していくと予想される.食道良性狭窄に対する適切な拡張期間の検討や,ステント留置による部位別,原因別の効果,長期予後や合併症など,今後のさらなる検討により良性食道狭窄症例の治療方針が明瞭化され,SEPSや生物分解ステントなども含めたステント治療が選択肢の一つとして追加されることを期待する.
内視鏡治療に苦慮した難治性複雑性良性食道狭窄に対して,患者背景を鑑み,最終手段としてUCSEMSの内腔側にFCSEMSを留置した.結果的に長期的な嚥下障害の改善が得られたが,同治療は安易に行うべきではなく,患者と家族の個々の状況に応じた治療選択が必要と考える.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし