2024 年 66 巻 9 号 p. 1683-1688
症例は75歳女性.主訴は心窩部不快感で,十二指腸に落下した胃石と診断された.内視鏡的除去は困難であり,イレウス管を用いて胃石の小腸への落下を防止しつつコーラ溶解療法を行い,軟化させたのちに内視鏡的に破砕,摘出することに成功した.胃石が小腸へ落下すると摘出のために手術が必要となる場合が多いが,われわれの報告した手法を用いることで,より安全・確実に十二指腸胃石の除去が可能となることが期待される.
A 75-year-old woman presented to our hospital with epigastric discomfort and was diagnosed with a duodenal bezoar. Due to endoscopic fragmentation failure, we treated the bezoar with cola dissolution using an ileal tube while preventing it from advancing into the small intestine. Finally, the softened bezoar was successfully crushed and endoscopically removed. Surgery is often required to remove bezoars that have advanced into the small intestine, and the duodenal bezoar removal method described herein offers a safer and more reliable intervention.
胃石に対する内科的治療としては,内視鏡による破砕術やコーラによる溶解療法が行われているが 1)~3),胃石が十二指腸に存在する場合は,内視鏡の操作性が悪く治療に難渋することがある 4)~6).また,縮小した胃石が小腸へ落下し腸閉塞をおこすことが報告されており注意を要する 4)~6).われわれは内視鏡的に破砕困難であった十二指腸胃石に対し,イレウス管を用いることで落下を防止しながらコーラ溶解療法で胃石を軟化させ,内視鏡的に破砕,摘出することに成功した1例を経験したため報告する.
患者:75歳,女性.
主訴:心窩部不快感.
既往歴:子宮頸癌放射線化学療法,右大腿骨頭壊死,化膿性脊椎炎,閉塞性動脈硬化症,黄斑円孔.
薬物:アスピリン,プラスグレル塩酸塩,ランソプラゾール,デュロキセチン塩酸塩,アムロジピン,メコバラミン,カリジノゲナーゼ.
アレルギー:なし.
生活歴:飲酒なし,喫煙なし.柿の摂取なし,紅茶(市販のティーバッグ)を毎日飲用する.
現病歴:2022年12月,かかりつけ医で貧血精査目的の上部消化管内視鏡検査(以下EGD)を施行され,十二指腸に胃石を指摘された.内視鏡的に破砕・摘出を試みられるも困難であったため,治療目的で当院へ紹介となった.当院初診時,心窩部不快感があり,固形物の摂取が困難となっていたため,即日入院となった.
現症:身長 143cm,体重 34.1kg,血圧 93/67 mmHg,脈拍 106回/分・整,体温 36.0℃.眼瞼結膜に軽度貧血あり,眼球結膜に黄疸なし.頸部・胸部に異常所見なし.腹部は平坦,腸蠕動音正常,軟,圧痛なし.四肢に異常なし.
血液検査所見:赤血球 364万/μL,ヘモグロビン 10.2g/dL,ヘマトクリット 31.5%,MCV 86.5fLと軽度の貧血を認めた.炎症反応の上昇は認めなかった.
腹部単純CT:十二指腸下行部に5×3cm大の境界明瞭な含気性の腫瘤を認めた(Figure 1).
腹部単純CT所見.
十二指腸下行部に5×3cmの境界明瞭な含気性の腫瘤を認めた(矢印).
入院後経過:第2病日にEGDを施行したところ,食道裂孔ヘルニア,逆流性食道炎(ロサンゼルス分類グレードB),萎縮性胃炎closed type(C-3),幽門輪開大,十二指腸球部前面に潰瘍(Stage A2)および潰瘍瘢痕を認め,さらに十二指腸下行部に巨大な胃石を認めた(Figure 2).鰐口鉗子で把持を試みたが,胃石を正面視することが難しく,また胃石が硬く鉗子が滑るため,内視鏡的胃石除去は困難であった.内視鏡からコーラを注入し胃石を溶解する方法を検討したが,縮小した胃石が肛門側へ移動して小腸閉塞をきたす可能性が考えられたため,イレウス管を用いて胃石の落下を防止しながらコーラ溶解療法を行う方法を考案した.まず,内視鏡を経鼻用の細径スコープに交換したところ,胃石の横を通過して十二指腸水平部まで挿入することができた.続いてガイドワイヤーを用いてイレウス管(ワンステップイレウスⓇSBカワスミ株式会社)を十二指腸水平部まで挿入し,固定用バルーンに蒸留水を注入して拡張させ,胃石が肛門側へ移動しないようにした(Figure 3-a).コーラ溶解療法について本人と家族に十分な説明を行い,書面による同意を得た.イレウス管を用いることについては,胃石による十二指腸閉塞に対する減圧目的として問題ないと考えた.また,食品であるコーラの使用についても,安全性および倫理的に問題はないと判断した.第4病日にX線透視下でイレウス管の吸引用コネクタから造影剤を注入し,バルーンの手前(口側)に設けられた側孔から造影剤が流出しちょうど胃石に当たる位置にイレウス管の長さを調節した.続いてコーラ(Coca-ColaⓇZERO SUGAR)100mLを注入し,腹痛や腹部膨満感などの症状が生じないことを確認した.以後,連日ベッドサイドで1日3回イレウス管よりコーラ100mLを注入した.第9病日(溶解療法6日目)のX線透視では,胃石の全体的な大きさは変わらなかったが,口側の一部が崩壊し形状が変化していた(Figure 3-b).これまでの治療で胃石が軟化していることが期待されたため,内視鏡的胃石除去を試みることとした.イレウス管を留置したまま,経口的に十二指腸球部まで内視鏡を挿入し,バルーンを拡張させたままイレウス管を少し手前に引いたところ,胃石が口側へ移動し正面視できるようになった.胆管造影用カテーテルを用い胃石に直接コーラを注入していくと,胃石の内部にカテーテルの先端が挿入され,胃石はかなり軟化した状態であると考えられた.そこで,鰐口鉗子とポリペクトミースネアを用いて胃石を少しずつ破砕し,胃内へ移動させた後,回収ネットを用いて可及的にすべて摘出した(Figure 4).最後にイレウス管を抜去して終了した.回収された胃石の中心部は硬かったが,スネアで削り取られた断片は軟らかく,容易に崩壊した.食事摂取を開始しても問題がないことを確認し,第11病日に退院した.結石分析の結果は,「成分の特定はできないがタンニンに似た吸収を示す」と報告された.
EGD所見.
a:上十二指腸角に胃石の一部を確認した.
b:鰐口鉗子を用いて破砕を試みたが,胃石を正面視しにくく,表面も硬いため,破砕は困難であった.視野を広く保つためにあえてアタッチメントは使用しなかった.
X線所見.
a:イレウス管を十二指腸水平部まで挿入し,固定用バルーンを拡張させ,胃石(矢印)が肛門側へ移動しないようにした.
b:コーラ溶解療法6日目,胃石の口側の一部が崩壊し形状が変化していた(矢頭).
EGD所見.
a:イレウス管を手前に牽引することで胃石が口側へ移動し正面視できるようになった.
b:鰐口鉗子とスネアを用いて胃石を少しずつ破砕した.
c:スネアで胃石を把持して胃内へ移動させた.
d:回収ネットを用いて胃内から体外へ胃石を摘出した.
胃石症は,EGDの0.07~0.4%に認められる比較的まれな疾患である 1),2).胃石は,食物や異物が胃液などの消化液により胃内で難消化性の結石を形成したもので,植物胃石,毛髪胃石,薬物胃石,乳胃石などに分類されるが 1)~3),本邦では植物胃石の頻度が多く,中でも柿胃石が最多で約70%を占めている 7).柿胃石の成因として,柿に含まれるタンニンが胃酸と反応して不溶性の複合体を形成する機序が考えられている 8).タンニンとは蛋白質や塩基性物質,金属イオンと難溶性の沈殿を形成する植物起源のポリフェノールの総称で,柿以外にもワインや茶などに含まれている 9).本症例では,結石分析の結果,タンニンに類似した成分が検出されたが,柿の摂取は認めなかった.代わりに紅茶を毎日飲用しており,紅茶に含まれるタンニンが胃石の生成に寄与した可能性がある.これまでに緑茶の摂取が原因と考えられる胃石の報告 10)はあるが,紅茶が胃石の原因となった報告は検索しえた範囲ではなかった.また,胃石の形成には胃内容排出遅延が関与するとされており,胃部分切除術後や糖尿病性神経障害などが一因となるとされているが 1),2),本症例においては該当する病態は認めなかった.
胃石症は,腹痛や嘔気,食欲不振,体重減少などを訴えることがあるが,無症状のこともある.また,合併症として胃潰瘍,腸閉塞をきたすことがある 1),2).胃石による粘膜の圧迫が胃潰瘍の原因と考えられており,胃潰瘍に伴う消化管出血や貧血の合併も報告されている 2).本症例においては,胃石が存在した十二指腸に潰瘍を認めており,貧血の原因となっていた可能性がある.幽門側胃切除術後の胃石症例で胃から小腸への落下による腸閉塞の報告が多いが,正常胃の報告も少なからずある 11).胃石が小腸に落下して嵌頓し腸閉塞を発症した症例では,保存的治療では効果が得られにくく,小腸穿孔をきたす可能性もあることから,外科手術の適応となることが多い 12)~14).
胃石の治療法としては,内視鏡による除去,コーラによる溶解療法,開腹手術および腹腔鏡手術が選択肢となる 2).胃石が十二指腸に存在する場合は,内視鏡の操作性が悪く治療に難渋することがある 4)~6).コーラによる溶解療法は,2002年にLadasらによって初めて報告され 15),本邦でも広く行われるようになった.コーラにより胃石が溶解される機序としては,炭酸とリン酸を含有するコーラはpH 2.6と酸性でありこれが正常な胃酸分泌状態にある胃内の環境に近いこと,二酸化炭素の微小な気泡が胃石表面に浸透し不溶化したタンニンの格子となっている繊維質の軟化につながること,などが推測されている 3),15).ただし,コーラ溶解療法だけでは胃石の完全な除去は得られないことが多いため,内視鏡による破砕術と組み合わせて用いられている 1).コーラ単独での溶解療法の成功率は50%であるが,内視鏡手技を加えることにより90%以上の割合で胃石除去に成功したと報告されている 3).Ladasらの報告 3)では,コーラ1回500~3,000mLを24時間~6週間かけて飲用する方法や,コーラ3,000mLを用いて12時間かけて胃洗浄する方法が紹介されている.ただし,これらは胃内に存在する胃石に対する使用法である.胃石による小腸イレウスに対してイレウス管からコーラを注入する場合は,1回300mLの注入でイレウスが増悪したとの報告 12)があるため,今回は既報 4)を参考に1回100mLを繰り返し注入することによって胃石溶解を試みることにした.胃や十二指腸の胃石に対し内視鏡的破砕術やコーラ溶解療法を行った際に,小さくなった胃石が小腸へ落下して腸閉塞をきたした報告 4)~6)があり,注意が必要である.本症例では,胃石が幽門輪を超えて落下し,十二指腸下行部で停留していた.胃石は十二指腸で発生することもあるが,多くは胃内で発生する 2).本症例も幽門輪開大がみられたことから,胃内に発生した胃石が十二指腸へ落下したものと考えられた.EGDを行ったが胃石を処置具で固定・把持することが難しく,内視鏡的に除去することが困難であった.汎用内視鏡を用いた砕石術が困難な場合に2チャンネル内視鏡があれば施行可能であったとする報告 16)があるが,破砕された胃石が落下して腸閉塞をおこす可能性があることを考慮し,今回はイレウス管を用いたコーラ溶解療法を行った.検索しえた範囲では,イレウス管を用いて胃石の落下を防止するという方法は過去に報告はなかった.コーラ溶解療法のみでは胃石は除去できなかったが,イレウス管を牽引することで胃石が口側へ移動し正面視することが可能となり,軟化した胃石を内視鏡的に破砕し,最終的にすべての胃石を摘出することができた.イレウス管を用いることの効用として,側孔の位置を調節することで効率的に胃石にコーラを散布することが可能となり,また,縮小した胃石が肛門側へ移動してしまうことをバルーンによって防ぐことが可能である.さらに,今回行ったようにバルーンを牽引することで胃石の位置を移動させ,内視鏡的に操作がしやすくなることが期待できる.イレウス管留置に伴う合併症としては,消化管の閉塞や潰瘍形成,出血,穿孔などがあり,その頻度は4%程度と報告されている 17).加えて胃石症例では,イレウス管の操作に伴い胃石が移動して落下・嵌頓する可能性があり,またイレウス管や胃石が消化管や十二指腸乳頭を圧迫することにより潰瘍形成,腸管損傷,胆管炎あるいは膵炎の原因となることなども考えられ,患者の状態を観察しながら注意深く手技を行う必要があると考えられる.
内視鏡的に摘出が困難であった十二指腸胃石に対し,イレウス管を用いることで小腸への落下を防止しながらコーラ溶解療法を行い,軟化させたうえで内視鏡的に破砕,摘出することに成功した1例を報告した.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし