日本消化器内視鏡学会雑誌
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総説
咽頭癌と頸部食道癌の内視鏡治療
鈴木 晴久 河村 玲央奈木暮 宏史
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2025 年 67 巻 2 号 p. 105-115

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要旨

かつて咽頭・頸部食道領域の癌は,内視鏡観察が困難であるため,診断の遅れから侵襲的な治療が必要であることが多かったが,近年の画像強調内視鏡の導入と普及に伴い,早期発見が可能となり,低侵襲な内視鏡治療が提供できる時代になってきた.但し,この領域の内視鏡治療は,通常の消化管腫瘍の内視鏡治療と違い,狭い空間での処置となるため,全身麻酔・気管内挿管,耳鼻科のサポート下で喉頭展開し処置を行うなど,この領域に特化した治療戦略を講じる必要がある.治療後は食道・頭頸部領域に異時性癌の発症リスクが高いため,転移再発の検索も含めて,定期的なサーベイランスが重要であり,早期発見ができれば根治可能であることも多いため,適切なサーベイランス方法の確立が急務である.

Abstract

Because the area from the pharynx to the cervical esophagus is challenging to observe endoscopically, cancer in this area is easily missed. Advanced cancer in this region often requires invasive treatments such as surgical resection. However, recent advances in endoscopic diagnosis, such as image-enhanced endoscopy, have enabled the early detection of pharyngeal and cervical esophageal cancers. Many patients with superficial pharyngeal and cervical esophageal cancers can be treated with minimally invasive endoscopic resection (ER). However, performing ER is difficult owing to the narrow working space and poor maneuverability of the endoscope. Therefore, ER for pharyngeal and cervical esophageal cancers is performed with some ingenuity, such as general anesthesia with tracheal intubation and laryngeal exposure using a curved laryngoscope. After ER for pharyngeal and cervical esophageal cancers, appropriate surveillance is needed to detect lymph node metastasis and metachronous head and neck and esophageal cancers.

Ⅰ はじめに

咽頭・頸部食道領域は,内視鏡検査時に容易に咽頭反射を誘発しやすく,観察困難な部位であるといわれている.そのため,病変が見逃され,外科的切除や放射線治療,化学療法などの侵襲的な治療が必要な進行癌で発見されることも少なくはなく,クオリティ・オブ・ライフ(QOL)の低下や予後不良であることが問題であった.近年narrow band imaging(NBI)やblue laser imaging(BLI)などの画像強調内視鏡の普及により,この領域の癌が早期の段階で発見されるようになり 1,内視鏡治療をはじめとした低侵襲な局所治療が可能となってきた.

本稿では,咽頭・頸部食道癌の内視鏡観察・診断と治療について,現状に即し概説する.なお,咽頭癌については,日本頭頸部癌学会の「頭頸部表在癌取扱い指針」に従い,腫瘍が上皮内にとどまる上皮内癌と上皮下の浸潤を伴うものの固有筋層浸潤のない上皮下浸潤癌(頸部リンパ節転移の有無を問わない)を咽頭表在癌と定義した 2

Ⅱ 咽頭・頸部食道領域の内視鏡観察

まず,下咽頭と頸部食道の境界診断であるが,食道癌取扱い規約第12版では,頸部食道は「食道入口部より胸骨上縁まで」と定義され,食道入口部は輪状軟骨の下縁のレベルとされている 3.また,頭頸部癌取扱い規約第6版では,「喉頭展開時には輪状軟骨下縁を下咽頭と食道の境界」,「非展開時など確認できない場合には柵状血管の下縁をその境界」としている 4.但し,実臨床では輪状軟骨下縁と柵状血管の下縁が必ずしも一致しないことがあり,今後の検討が待たれる 5

次に,実際の咽頭・頸部食道の観察のおおまかな流れについて述べる.様々な観察方法があるが,筆者は過去の報告などを参考に観察方法を工夫している 5)~8.まず,食道にスコープを挿入前に咽喉頭領域を観察し,観察後に食道入口部を超えて頸部食道へスコープをゆっくりと挿入し,挿入後反射がある程度落ち着いたところで,スコープを頸部食道ぎりぎりまで送気下に引き抜きながら,おおまかに粗大病変がないか,頸部食道を観察する.食道以外の観察が終わったら,再度スコープ抜去時に頸部食道を観察するようにしている.

観察の詳細としては,咽喉頭領域のルーティーン観察は愛護的に行い,スコープのコンタクトで咽頭反射が起きないように注意する必要がある.具体的な手順としては,まず軟口蓋を確認し,口蓋垂を観察しながらスコープを進め,中咽頭の後壁と喉頭蓋,可能なら喉頭蓋谷および舌根部を観察する(Figure 1).次に,声帯を中心に喉頭,披裂および中・下咽頭後壁を全体的に観察し,さらに「イー」と発声させて喉頭を挙上し,左右の梨状陥凹に加えて,輪状後部および下咽頭後壁を可能なかぎり観察する.通常は輪状後部・下咽頭後壁の観察は困難であるため,Valsalva法を用いることも有用である 8),9.Valsalva法は,大きく息を吸った後,一気に息を吐きながら唇を結んで両頰を膨らませ続け,息を10秒程度こらえる方法で,この方法を用いると通常接着している下咽頭の輪状後部と後壁の接着が解除され,喉頭挙上により食道入口部までを一望できるようになる.咽頭は通常観察だけでは病変が十分に検出できないことが多いため,癌の拾い上げはNBI やBLI非拡大観察を基本とし,brownish area があれば拡大観察でType B血管の有無を評価する.

Figure 1 

咽喉頭観察.

a:軟口蓋.

b:口蓋垂.

c:右口蓋弓,中咽頭右壁.

d:左口蓋弓,中咽頭左壁.

e:中咽頭後壁.

f:喉頭蓋.

g:喉頭蓋谷.

h:喉頭声門周囲・披裂,下咽頭後壁.

i:右梨状陥凹.

j:左梨状陥凹.

頸部食道の観察の詳細としては,頸部食道は常時内腔が閉じているため,スコープを引き抜き,かつ送気しながら粘膜面との適正な距離を維持して観察する.繰り返しになるが,筆者は,頸部食道はスコープ挿入直後と抜去時に観察するようにしているが,門馬らは,頸部食道をスコープ挿入時に白色光でおおまかに観察し,抜去時にNBIで観察するとしていて,色調変化や凹凸の変化があるものは白色光で確認し,凹凸が軽微なものや存在部位により発見しにくいものはNBIで発見するという観察方法で,頸部食道癌の拾い上げ診断はある程度可能としている 6.この領域以外の胃の観察で時間を要する場合などで,抜去時に条件が不良となり,頸部食道を観察できなくなる場合があるため,挿入時にもある程度おおまかに観察しておくことが,病変の見逃しの予防になると考えている.

咽頭領域と頸部食道の観察には,キシロカインスプレーによる十分な咽頭麻酔と抗コリン薬による唾液分泌の抑制も有用である.精査で鎮静が必要であれば,咽頭領域や頸部食道の場合にはミダゾラムなどの鎮静剤ではなく,塩酸ぺチジンなどの鎮痛薬を選択し,検査中の発声や呼吸調整ができる状況にしておく.先端アタッチメントの装着はいずれの領域でも観察を容易にする.なお,特に咽喉頭領域の内視鏡観察は,咽頭反射が生じ苦痛を伴うため,被検者の忍容性も考えリスク群を絞り込んで検査する必要があると考える.特に,多量飲酒者,多量喫煙者,習慣飲酒者でフラッシャー(飲酒時の顔面紅潮反応),食道扁平上皮癌合併既往患者,頭頸部癌既往患者は高リスク群として,咽喉頭全域を詳細に観察すべきである対象であるといわれており,咽頭領域のルーティーン観察が必須と考えられる 10),11

Ⅲ 咽頭・頸部食道領域の内視鏡診断

咽頭の内視鏡による通常診断としては,隆起や陥凹,潰瘍,血管透見像の消失,色調変化などの所見に注目して行う.しかし,通常診断だけでは病変が十分に検出できないことが多いため,NBIやBLIを用いて病変を検出し,さらにNBIやBLIに拡大観察を加えることで,癌か非癌かの質的診断を行うことが可能となる.但し,正確には咽頭領域の拡大内視鏡診断の分類はなく,日本食道学会が定めた分類を準用している 12),13.具体的には,まず拡大のないNBIやBLIにて境界明瞭なbrownish areaを検出し,さらに同部位をNBIやBLIで拡大観察し,「拡張,蛇行,口径不同,形状不均一」の4徴を有する拡張した異型血管・Type B血管の増生を確認する.NBIやBLIにてbrownish areaとして診断されるものには,炎症やbasal cell hyperplasia,acanthosisなどが挙げられるが,咽頭癌ではbrownish areaと健常粘膜との境界が明瞭であり,異型な血管が密に増生し,かつその配列が不規則であることが鑑別となる.

深達度診断については,食道の層構造は上皮(epithelium:EP),粘膜固有層(lamina propria mucosae:LPM),粘膜筋板(muscularis mucosae:MM),粘膜下層(submucosa:SM),固有筋層(muscularis propria:MP)となっているのに対して,喉頭の層構造は上皮(EP),上皮下層(subepithelium:SEP),固有筋層(MP)となっている.そのため,日本食道学会分類において,Type B1 血管は深達度 T1a EP/LPM,Type B2 血管は深達度 T1a MM/T1b SM1,Type B3 血管は深達度 T1b SM2/SM3の扁平上皮癌に相当すると規定されている.しかし,この分類をそのまま咽頭の層構造にあてはめて,Type B1 血管が深達度 EP,Type B2 血管が深達度 SEP,Type B3 血管が深達度MPに相当するかどうかは明らかではない 12),13.飯塚らは,腫瘍の厚み1,000μmに注目し,Type B1 血管のみの場合には1,000μm以上である確率は低く,Type B3 血管が認められる場合には全例が1,000μm以上であったと報告している 14.田中らの検討でもType B2/B3 血管を認めたものは腫瘍が厚い傾向にあったとしており,今後の課題である 15

ヨード撒布については,咽頭表在癌に対しては誤嚥の危険性からヨードは通常観察時には撒布できないが,実際に咽頭表在癌を治療するに当たり,正確な範囲決定のためには依然として治療直前のヨード撒布が不可欠な現状にある.全身麻酔下・気管内挿管下に内視鏡治療を施行する際には,撒布チューブを用いてヨードを病変のみならず,咽頭領域全体に撒布し,術前に比べてより側方に病変が進展していないか,指摘できていない病変がないかを確かめる必要がある.但し,挿管下で誤嚥の可能性はないが,喉頭へのヨード撒布を避け,喉頭浮腫や喉頭痙攣を起こさないように必要最小限に撒布する必要がある.さらに,病変切除後には,チオ硫酸ナトリウムや生理食塩水でヨードを洗浄することも,喉頭浮腫の予防のためには必要である.

頸部食道の診断(通常診断と深達度診断)については,食道癌の診断学そのものが通じるため,本稿では詳細は割愛する.頸部食道へのヨード撒布も咽頭領域同様に誤嚥の危険性があるが,精査であれば先端アタッチメントを装着し,病変に接着させてヨードを少量ずつ滴下すれば染色が可能である 6

Ⅳ 咽頭癌の内視鏡治療の適応と手技

口から内視鏡や喉頭鏡,硬性内視鏡などを挿入して咽頭癌の摘出を行う経口的鏡視下手術には,内視鏡的粘膜切除術(EMR)や内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)の他に,transoral videolaryngoscopic surgery(TOVS),endoscopic laryngo-pharyngeal surgery(ELPS)など様々な術式が報告されている 16.今回は消化器内科医が実施するEMRとESDについて主に述べる 17)~29

咽頭癌の内視鏡治療の適応については,施設ごとで多少の違いはあるものの,病変がEPもしくはSEPまで浸潤をきたしているがMPへの浸潤がない表在癌で,CTなどの画像検査でリンパ節転移がないものを適応としていることが多い 17)~29.但し,同時多発病変の場合には,一度に切除する病変は狭窄をきたさない程度にして二期的な切除をする,左右の梨状陥凹の病変を同時に切除しないなど,切除後の通過障害を考慮した治療計画が必要である.さらにエビデンスはないが,リンパ節転移を有する病変に対して,内視鏡的な局所切除とリンパ節郭清を同時に行うとの報告もあるが 29,いずれにせよ内視鏡治療の適応についてのコンセンサスそのものがないため,消化器内科のみならず,耳鼻科や外科,放射線科,腫瘍内科などとの多職種で,各々の症例について適応を協議することが必要である.なお,内視鏡治療後の病理診断結果において,転移リスクが高い場合としては,脈管侵襲陽性や腫瘍の厚みが1,000μmを超えることなどが報告されている 30.しかし,これらの高リスク例に対して追加治療として外科手術や放射線療法,化学療法を行うかどうかについては,まだコンセンサスが得られておらず,現状では個々の症例ごとに決定されることが多い.咽頭領域は頸部リンパ節転移が明らかになってから郭清手術を行っても,しばしば根治可能であり,サーベイランスでリンパ節転移が明らかになってから追加治療を行う,いわゆるwatch and resectの治療戦略の有用性が報告されている 31

咽頭ESDの手技については,反射を抑え,誤嚥を予防するために,基本的に全身麻酔・気管内挿管下での治療が必要である 19),23),27),28.また,ワーキングスペースを確保するために,彎曲型喉頭鏡を経口的に挿入し喉頭挙上してESDを施行する.体位は仰臥位とする.具体的には,麻酔科医が気管内挿管を行った後,消化器内視鏡医がスコープで喉頭鏡の先端が声帯を損傷しないように確認しつつ,耳鼻科医が彎曲型喉頭鏡を声帯の直前に挿入する.治療の視野確保が十分にできるように,耳鼻科医に喉頭挙上・展開してもらい,術野が確定したところで喉頭鏡を固定する.なお,気管内挿管チューブは上口唇正中固定することが多い.治療の環境が整ったら,実際に咽頭ESDを開始する.右梨状陥凹の下咽頭癌ESD後の異時性下咽頭癌に対するESD症例を提示する(Figure 2).まずは,病変を白色光やNBI・BLIなどの画像強調内視鏡で非拡大および拡大観察し,さらにヨードを撒布し,病変部のみならず咽喉頭領域を全体的に観察し,病変の広がりやその他の病変の存在を確認する.基本操作は消化管のESDと同様であるが,ヨード撒布での範囲診断を基に,病変外側にデュアルナイフなどの先端系ナイフでマーキングを行う.少量のインジゴカルミンとエピネフリンを加えた生理食塩水やグリセオールなどの局注液を用いて,同部に局注を行うが,術後の喉頭浮腫を考慮し,過量の局注はなるべく避けるようにすることが重要である.マーキングのさらに外側を粘膜切開し,全周切開が完成したら局注をさらに追加し,先端系ナイフやITナイフなどで上皮下層を剝離する.消化管ESD同様に,先端アタッチメントや糸付きクリップ,喉頭鉗子などによるトラクションは有用で,しっかり剝離する上皮下層を確認しながら,極力少量の局注で剝離していく.病変の切除が完了したら,術後出血は再度全身麻酔・気管内挿管が必要となるため,予防のためにESD後の潰瘍底の血管を凝固しておく.また,食道入口部にかかる切除となった場合や切除範囲が広範となった場合には,狭窄予防のためにステロイド局注を行う.

Figure 2 

下咽頭癌に対するESD.

a:通常白色光像.

b:NBI非拡大像.

c:NBI拡大像.

d:ヨード撒布像.

e:マーキング後.

f:粘膜切開.

g:喉頭鉗子を用いて上皮剝離を施行.

h:ESD検体.

咽頭切除後のマネージメントとしては,内視鏡治療直後に耳鼻科や麻酔科医と協議し,喉頭浮腫が高度な場合は気管内挿管チューブを抜管せずに,overnightで挿管し,ステロイド投与にて喉頭浮腫が改善してから抜管することが必要である.喉頭浮腫が高度な場合は,予防的な気管切開を行うこともある.術後の飲水や食事の開始については,喉頭浮腫や咽頭部の局所の痛みが改善してから(喉頭浮腫の程度は耳鼻科医により喉頭鏡で確認),徐々に開始するのが誤嚥予防の観点から重要である.術後偶発症の中で最も重要なものの一つが出血で,この領域の後出血は窒息や気道閉塞の危険があり,場合によっては再挿管や気管切開のうえで,全身麻酔下に止血術が必要となる.そのため,消化器内科医(消化器内視鏡医)のみで咽頭癌の内視鏡治療をすべきではなく,耳鼻科と綿密に連携をとり内視鏡治療することが必須である.

Ⅴ 咽頭癌の内視鏡治療の短期成績と長期成績

咽頭癌の内視鏡治療の短期成績の報告を示す.全国27施設の頭頸部表在癌経口的手術例568例・575治療セッション・662病変の堅田らの報告では 32,まず病変ベースで,部位は78.4%が下咽頭で,その多くが梨状陥凹であった.治療法はEMRとESDが各々46.2%と39.7%で,一括切除は74.0%,病理学的な腫瘍サイズは中央値14mm(1-60 mm),深達度は上皮内57.4%,上皮下浸潤42.6%,リンパ管侵襲2.9%,静脈侵襲2.1%,側方断端陽性46.7%,直後の追加治療施行例3.0%であった.この研究対象には一部ELPSやTOVSを含んでいるが,EMRとESDを合わせて計85.9%の報告であり,ほぼ内視鏡治療例の切除成績と考えて良い報告である.575回の治療セッションベースでは,全身麻酔94.8%,治療時間中央値48分(2-357分),偶発症12.7%で,生命に関わる偶発症を0.5%に認めたが,治療関連死はなかった.主な偶発症の内訳は,喉頭浮腫5.7%,皮下気腫3.5%,誤嚥性肺炎2.4%,後出血1.9%であった.喉頭浮腫などを理由に8.5%に一時的な気管切開が行われた.

一方で,Faisal Kamalらは,過去の咽頭表在癌に対する内視鏡治療に関する論文の中から,詳細な記載がされているなどの条件を満たした10の文献の系統的なレビューとメタ解析を行っている 33.すべてアジアからのもので,ESDを施行した計917病変に対する検討結果の報告である.まず切除成績については,一括切除のpooled rates(95%信頼区間[CI])が94%(87%,97%),断端陰性一括切除は72%(62%,80%)であった.断端陰性一括切除についてはheterogeneityがあり,メタ回帰分析でそのheterogeneityは腫瘍の大きさによることが示された.偶発症は,pooled rates(95% CI)が10%(5%,17%)でheterogeneityがあり,メタ回帰分析で腫瘍の大きさ,EP(上皮内癌)とSEPによることが示された.喉頭浮腫は11%(7%,16%)であった.この報告は,堅田らの全国多施設登録の報告と比べて 32,偶発症全体の割合はいずれも10%ほどと大きな違いはなかったが,一括切除と断端陰性一括切除の切除成績が良好であった.その理由としては,この系統的レビューではESDに限って検討を行っていることが影響していると考えられた.実際に過去のEMRの報告では,一括切除率が38-60%,断端陰性一括切除率が26-29%とESDに比べて低値であった.以上から,咽頭癌に対する内視鏡治療,特にESDの切除成績は良好で,偶発症の発生率は10%ほどと低率であり,咽頭癌に対するESDの有効性と安全性が示された.

長期成績については,堅田らの多施設の報告では 32,観察期間中央値46.1カ月(範囲:1-113カ月)で,病変ベース(662病変)で局所再発率は8.0%であった.手技別では,EMR/ESD/その他=11.7%/2.7%/10.4%で,再度経口的手術例が行われたものは76.3%であった.症例ベース(568例)で所属リンパ節転移は4.6%,遠隔転移は0.5%であった.異時性頭頸部癌は23.2%にみられ,そのうち経口的手術例が行われたものは88.5%であった.また,3年全生存割合(95%CI)は88.1%(85.0%,90.6%)であり,3年疾患特異生存割合(95%CI)は99.6%(98.5%,99.9%),3年無再発生存割合(95%CI)は88.4%(81.0%,87.3%),3年喉頭温存生存割合(95%CI)は87.5%(84.3%,90.1%)であり,良好な長期成績であった.一方で,Faisal Kamalらの咽頭ESDのレビューでは 33,局所再発はpooled rates(95% CI)が1.9%(0.9%,4%)で,リンパ節転移は4%(2%,7%)であった.2つの報告で局所再発(ESDに限る)とリンパ節再発はほぼ同様の結果であった.以上のように,咽頭癌に対する内視鏡治療の長期成績は良好であり,有効で低侵襲な治療法であることが長期成績の点からも示された.

Ⅵ 頸部食道癌の内視鏡治療の適応と手技,偶発症

頸部食道癌の内視鏡切除の適応については,基本的には頸部食道以外の食道癌の内視鏡治療の適応と同様である 34.つまり,通常内視鏡診断やNBI・BLIの拡大観察による診断にて,臨床的にEPやLPMにとどまった病変が内視鏡治療の適応となる.但し,頸部食道では切除範囲が1/2周以上の場合は切除後の狭窄発生のリスクが高いため,バルーン拡張,ステロイド局注・内服などのESD後の狭窄予防を前提とした治療計画を立てる必要がある.なお,ESD後の病理学的な根治度評価とその対応についても,頸部食道以外の食道癌と同様で,病理学的(p)T1a-MM癌で脈管侵襲陽性の場合とpT1b-SM癌では,外科切除もしくは化学放射線療法による追加治療を行うことが推奨されている.

頸部食道癌のESDは,誤嚥予防の観点からも全身麻酔下・気管内挿管下で行うことが多い.また,食道入口部の病変や下咽頭まで伸展している病変では,下咽頭ESD同様に耳鼻科医によって喉頭展開を行い,ESDを施行するのが望ましい.実際のESD手技に関しては,頸部食道は管腔が狭く,送気しても視野を得にくく,ワーキングスペースの確保が困難であり,またスコープも抜けやすく,切除デバイスの操作性が非常に困難な部位であるため,頸部食道癌の内視鏡治療に特化したストラテジーで治療に臨む必要がある.門歯列19cm左壁の頸部食道表在癌に対するESD症例を提示する(Figure 3).まずは,条件の良い治療開始直後の段階で,口側の粘膜切開とトリミングを十分に行い,病変を肛門側へシフトさせておくと良い.また,左壁側は重力の影響で水が貯留し,視野が確保しづらくなるため,先に左壁側と肛門側をC字型に粘膜切開する.左壁の粘膜切開後は,同部を粘膜下層剝離してしまうと,今度は右壁のワーキングスペースの確保が困難になるため,先に右壁側の粘膜切開を行い,次いで左壁側をC字型に粘膜下層剝離していく.さらに右壁側の粘膜下層剝離を行うが,ワーキングスペースの確保が依然困難である場合には糸付きクリップを用いると,適切なカウンタートラクションのもとワーキングスペースを保ちながら粘膜下層の剝離が可能になる.病変は偶発症なく一括切除され,病理結果は20 mm,0-Ⅱc,pT1a-EP,ly0,v0,pHM0,pⅤM0であり治癒切除であった.本症例は狭窄症状を認めず,約1カ月後にESD後潰瘍の瘢痕治癒を確認した.

Figure 3 

頸部食道癌に対するESD.

a:ヨード撒布像(遠景).

b:ヨード撒布像(近景).

c:マーキング後.

d:口側の粘膜切開とトリミング.

e:左壁側をC字型に粘膜切開.

f:右側の粘膜切開.

g:粘膜下層剝離.

h:ESD後潰瘍.

i:ESD検体.

j:ESD後瘢痕.

頸部食道ESDについての既報は少ないものの,頸部食道癌に対するESDの有効性と安全性が幾つか報告されている 34)~41.一方で,Ando Yらは頸部食道に対するESDで粘膜欠損が1/2周性以上の場合に狭窄のリスクが高く,1/2周以上3/4周未満の場合にステロイド局注が狭窄予防に有効であるが,3/4周性以上の場合にはステロイド局注のみでは不十分であると報告している 38.さらに,Muroi Kらは,3/4周性以上の場合,ステロイド局注単独より経口ステロイドを併用した方が狭窄率は低かったとしている 37.そのため,頸部食道ESDでは切除範囲が1/2周以上の場合は切除後の狭窄発生のリスクが高いことを考慮し,ステロイド局注にて狭窄予防を必ず行い,さらに粘膜欠損の周在性が3/4周性以上より広範な切除の場合には,経口ステロイドを併用したインテンシブな狭窄予防が必要であると考えられる.

Ⅶ 咽頭・頸部食道癌の内視鏡治療後のサーベイランス

頸部食道癌のみならず,食道癌内視鏡治療後では異時性多発食道癌や頭頸部癌発症のリスクが高く,特に食道の背景粘膜のヨード不染帯が1視野あたり10個以上認められる症例,いわゆるまだら不染の場合や,フラッシャー,飲酒,喫煙,緑黄色野菜不摂取などの場合には,より癌発症のリスクが高率であることが報告され,定期的な術後の内視鏡によるサーベイランスが重要であることは既報の通りである 42.また,内視鏡治療後の病理評価がMM以深であった場合には,転移再発が高リスクであり,CTによる転移再発のサーベイランスが推奨されている(基本的に頸部食道以外の食道癌と同様であり,詳細は割愛する).

一方で,咽頭癌内視鏡治療後も同様に全身麻酔時に咽頭の背景粘膜にヨード不染帯が多発する場合には,異時性多発頭頸部癌が高率に発症することが報告されており,より厳重に半年から1年に1回の定期的な内視鏡による術後サーベイランスを施行することが望ましい 43)~45.転移再発については治療適応の項でも述べたが,内視鏡治療後の病理診断結果で,脈管侵襲陽性や腫瘍の厚みが1,000μmを超える場合が転移リスクが高いと報告されている.半年ごとにCTや頸部エコーを施行し,定期的に慎重に経過観察することが推奨されることが多いが,転移に関するリスク因子についてはコンセンサスが得られておらず,適切な転移再発のサーベイランス方法については今後の検討が望まれている.なお,咽頭領域は頸部リンパ節転移が明らかになってから郭清手術を行っても,しばしば根治可能であるため,転移再発のサーベイランスを慎重に行い,転移再発を早期に発見することが重要である 31.さらに,咽頭・頸部食道癌の内視鏡治療後には,食道や頭頸部だけではなく,例えば胃癌,大腸癌,肺癌などの他臓器における二次原発癌の発症にも注意し,経過観察することが必要である 46)~48

Ⅷ おわりに

咽頭・頸部食道癌の内視鏡治療について概説した.この領域の癌は診断が遅れると,侵襲の大きな治療が必要となることから,特に,多量飲酒者,多量喫煙者,習慣飲酒者でフラッシャー,食道扁平上皮癌合併既往患者,頭頸部癌既往患者など,咽頭・頸部食道癌の発症リスクが高い場合には,NBIやBLIを用いて病変を見逃さずに早期発見し,低侵襲な内視鏡治療を提供できるよう努めなければならない.内視鏡治療については,咽頭領域では治療適応や治療方法と偶発症対策,追加治療の基準,適切なサーベイランス方法の確立など,未だ解決すべきことが多いが,耳鼻科や放射線科,腫瘍内科,麻酔科,病理科など,多職種で慎重に協議のうえで患者により負担のない治療方法を体系化していくことが重要であると考える.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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