2025 年 67 巻 5 号 p. 1097-1098
症例は63歳女性.2020年9月,膀胱癌の膀胱全摘術施行時に右外腸骨静脈を損傷し人工血管を留置された.2022年5月,便潜血検査陽性のため当科を紹介受診.大腸内視鏡検査でS状結腸に分葉状の肉芽様構造が集簇した隆起性病変を認めた(Figure 1).近接観察において,表面構造の不規則性や異常血管像といった上皮性腫瘍に特徴的な所見は認められなかった.憩室炎などによる炎症性肉芽変化や,腸管外からの病変浸潤による転移性腫瘍の可能性が鑑別として挙げられた.生検の病理組織結果では,炎症性肉芽組織が確認され,経過観察とした.2022年11月の腹部造影CTでは人工血管周囲に軟部影と人工血管内部のairを認め(Figure 2),S状結腸への穿孔が疑われた.血管造影検査で人工血管の閉塞および発達した側副血行路を確認した.心臓血管外科と検討し,無症状で明らかな感染兆候がないこと,および右下肢静脈血は側副血行路を介して灌流されていたことから経過観察とした.2023年3月,大腸内視鏡検査でS状結腸の肉芽様病変内から腸管管腔内に突出する人工血管を認め,穿孔と診断した(Figure 3).感染兆候や腹腔内漏出,腸管と静脈の交通は認められず経過観察を継続.2023年9月の腹部CTでは人工血管を認めず,大腸内視鏡検査では肉芽病変部は再生性の白苔に覆われ人工血管はなくなっていた(Figure 4).人工血管は自然脱落し,経肛門的に排出されたと考えられた.

大腸内視鏡画像.S状結腸に立ち上がり急峻な肉芽組織を認める.

腹部造影CT画像.右腸骨静脈の人工血管周囲からS状結腸にかけて軟部影を認め,人工血管内部にairを伴う(点線丸印).

大腸内視鏡画像.外腸骨静脈に留置された人工血管の中枢側端がS状結腸内に穿孔している.

大腸内視鏡画像.S状結腸内に穿孔していた人工血管は脱落している.
人工血管腸管瘻(Graft Enteric Fistula:GEF)は,腹部大動脈・腸骨動脈領域の血行再建手術後に0.5-4%の頻度で発生し 1),そのうち30-70%が敗血症や消化管出血で死亡する致死的な合併症である 2).GEFの診断には腹部造影CTや血管造影検査が有用とされるが,確定診断率には33-80%とばらつきがあり,診断は容易ではないことが多い 3).
本症例において,大腸内視鏡検査は,GEFの早期発見,癌の合併除外,および術後合併症のモニタリングという3つの点で有用であった.大腸内視鏡検査によりS状結腸に分葉状の肉芽様隆起性病変が確認され,近接観察では上皮性腫瘍に特徴的な異常血管像や不規則な表面構造を認めなかった.これにより炎症性肉芽変化や転移性腫瘍が鑑別として挙げられ,生検の結果,炎症性肉芽組織であることが確認された.さらに,内視鏡検査は術後の長期の経過観察においても有用であった.CT検査で穿孔が疑われたものの,腸内容物の腹腔内漏出や感染兆候が認められなかったため,内視鏡で腸管内の状態を直接観察し,保存的加療の適応を判断できた.
術後吻合部や炎症性腸疾患,憩室炎などで一般的に見られる特徴的な所見を有する肉芽性ポリープが認められる 4).本症例では,人工血管が穿孔に至る過程で消化管内に肉芽性ポリープが形成され,その経過を内視鏡で観察することができた.
GEFの治療は通常,外科手術による解剖学的再建術が行われるが 5)~7),本症例では,人工血管の血栓閉塞と側副血行路の発達により,致命的な合併症を回避し,保存的治療が可能であった.最終的に人工血管は自然脱落し,経肛門的に排出されるという極めて稀な経過を内視鏡で確認することができた.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし