日本消化器内視鏡学会雑誌
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症例
再発の診断に難渋した単形性上皮向性腸管T細胞リンパ腫の長期生存の1例
後藤 哲 藤江 慎也河上 純彦中島 正人佃 曜子町田 卓郎宮下 憲腸岡本 宗則加藤 元嗣河原 崎暢
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2025 年 67 巻 7 号 p. 1272-1278

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要旨

症例は72歳の男性.単形性上皮向性腸管T細胞リンパ腫(monomorphic epitheliotoropic intestinal T-cell lymphoma:MEITL)の化学療法中に慢性下痢を発症し,精査目的で当科紹介となる.上部・下部内視鏡検査では診断できず,小腸ダブルバルーン内視鏡(double-balloon enteroscopy:小腸DBE)の初回病理評価でも診断はできなかった.最終的には経過中の病理所見を比較評価することでMEITLの再発の診断に至った.診断に難渋した点と,極めて予後不良な疾患の長期生存例である点,再発形態を内視鏡的に評価できた貴重な症例と考え,報告する.

Abstract

A 72-year-old man was referred to our clinical department with chronic diarrhea. The upper and lower gastrointestinal endoscopy results were normal. Middle gastrointestinal endoscopy revealed no significant findings, edema of the small intestinal mucosa, or villous atrophy. The pathological findings of the small intestinal mucosa did not lead to an accurate diagnosis. Here, the patient was diagnosed with monomorphic epitheliotoropic intestinal T-cell lymphoma by comparing past and present pathological findings; however, the symptoms and endoscopic findings are rare. Here, we report this case because long-term survival is rare and it is difficult to prove recurrence of the disease.

Ⅰ 緒  言

腸管症関連T細胞リンパ腫(enteropathy-associated T-cell lymphoma:以下EATL)は,セリアック病に関連のある大型細胞優位のⅠ型と,小型~中型細胞優位のⅡ型に分類されていた.しかし,2017年のWHO分類でⅡ型EATLが単形性上皮向性腸管T細胞リンパ腫(monomorphic epitheliotoropic intestinal T-cell lymphoma:MEITL)と再定義された.MEITLは極めて予後不良な疾患であり.全生存期間の中央値は10カ月,3年生存率は13~26%と報告されている.

本例は,最終的にMEITLの再発の診断に至ったが,自覚症状・内視鏡所見が典型的でなく,初回病理評価にても診断はつかなかった.過去の標本と比較評価することで診断できた,診断に難渋した点と,極めて予後不良な疾患の長期生存,再発形態を評価できた貴重な症例と考え,報告する.

Ⅱ 症  例

患者:72歳,男性.

主訴:慢性下痢.

既往歴:肺癌(両側).2016年外科手術→以後再発なし.

現病歴:2011年3月に,腹痛・嘔吐にて発症し,経口小腸内視鏡で空腸に不整な潰瘍性病変を認め,生検にて異型リンパ球の増殖と腫瘍細胞の高度な上皮内浸潤を認めた.免疫染色ではCD3(+),CD4(-),CD8(+),CD56(+)で,Ⅱ型EATLの診断となった.その後,CHOP(cyclophosphamide,doxorubicin,vincristine,prednisolone)療法を計8クール施行.2012年5月からDeVIC(dexamethasone,etoposide,ifosfamide,carboplatin)療法に治療を変更.2012年11月に腫瘍による小腸閉塞を合併し,小腸部分切除.2013年にS状結腸に同様に狭窄を伴う腫瘍を指摘され,外科的切除+人工肛門造設後.その後,術後化学療法をSMILE(dexamethasone,methotrexate,ifosfamide,L-asparaginase,etoposide)療法→Gemcitabine療法(以下GEM)と施行し,最終的にはGEMを2013年7月~当院初診時まで継続としていた.この間,画像上は寛解維持と判定されていた.

2018年12月,化学療法中に下痢を発症し当院消化器内科に紹介された.当初は過敏性腸症候群の診断で対症療法を施行されていた.内服薬は整腸剤,ロペラミドであった.

経過:上下部消化管内視鏡検査では有意な異常は指摘されなかった(Figure 1).小腸カプセル内視鏡では一部に絨毛の浮腫もしくは絨毛萎縮を認めたが,びらん・潰瘍などの粘膜障害は指摘されなかった(Figure 2).造影CT検査では,悪性リンパ腫の再燃所見と思われる所見はなく,その他の所見からも,慢性下痢の原因は指摘されず.GEMの副作用の可能性もしくは過敏性腸症候群として,GEMの休薬と,服薬調整を行いながら,経過観察を継続した.

Figure 1 

上部消化管内視鏡・下部消化管内視鏡検査.

a:食道.有意な異常所見なし.

b:胃.過形成ポリープを認めるが,ほかに有意な異常所見なし.

c:十二指腸.絨毛萎縮や浮腫を認めず.

d:大腸.有意な異常所見なし.

Figure 2 

小腸カプセル内視鏡検査.

正常な絨毛に混ざる形で,部分的な絨毛の浮腫・萎縮所見あり(黄矢頭).

その後,数カ月間,下痢の悪化・改善を反復した.しかし,2019年10月,下痢回数増加,味覚障害,全身倦怠感を認めたためポジトロン断層法(PET)検査・小腸ダブルバルーン内視鏡(double-balloon enteroscopy:小腸DBE)で精査の方針とした.

PET検査では,腸管への集積は生理的な範囲で,病的な集積は認めなかった.また,腸管外に腫瘍性病変を示唆するような有意な集積は認めなかった.小腸DBEでは空腸粘膜の浮腫と,絨毛の萎縮が広範囲に見られるものの,びらん・潰瘍・狭窄性病変は認めなかった(Figure 3).腸管癒着の影響もあり,小腸吻合部までは到達困難であった.萎縮粘膜から生検を行ったが,リンパ腫の再発を示唆する所見はなく,アミロイド沈着も認めなかった.好酸球をはじめとした炎症細胞浸潤の所見を認めるが,特異的な所見はなくセリアック病の可能性を考えた.

Figure 3 

小腸DBE.

a:下部空腸の広範囲に絨毛浮腫および萎縮により,絨毛構造が視認困難.

b:上部空腸では絨毛構造を視認可能(黄矢頭).

その後,粘膜萎縮と病理所見を根拠にセリアック病を想定し,HLA-DQ遺伝子解析を施行したところ,HLA-DQ6/7であった.また,グルテンフリー食を2週間程度試したが,明らかな改善はなし.血液検査では,腫瘍マーカー:sIL2レセプター:614→473に低下を認めていた.

この間も下痢症状は持続し,全身状態は徐々に悪化した.悪性リンパ腫再発の可能性が否定しきれず,2012年外科手術時の病理検体を取り寄せ,当院の病理組織を添付して北海道大学病院病理診断部に病理診断を依頼した.過去の病理検体と酷似する所見を認め,最終的にMEITLの再発の診断に至った(Figure 4).診断は確定したが,十分な病状説明の結果,積極的治療は希望されず,化学療法の再開は行わなかった.

Figure 4 

病理結果.原病と酷似するIELが目立つ.浸潤細胞の大部分はCD3(+)のTリンパ球で,かつそのほとんどがCD8(+)で,この点も原病と一致する所見であった.

Ⅲ 考  察

2008年に発表された造血器腫瘍のWHO分類第4版では,EATLは大型の腫瘍細胞優位に構成されセリアック病との関連があるⅠ型と,小型から中型細胞優位に構成されセリアック病との関連が乏しいⅡ型に分類されていた 1.2017年に刊行されたWHO分類改訂4版では,これまでEATLのⅡ型とされていたものが,MEITLと再分類された 2.本邦ではセリアック病の頻度が低いこともあり,これまでのEATLの多くはMEITLに分類されるものと推測される.

MEITLは疾患自体が稀なことに加え,一般的に潰瘍や腫瘍を形成し,腹痛や腸管穿孔,腸閉塞などの合併症を契機に診断されることが多いとされる.自覚症状という点では,岡田ら 3はEATLⅠ型は下痢・吸収障害の症状が多く,EATLⅡ型(MEITL)はむしろ腫瘍による腹痛,腸管穿孔をきたすことが多いと報告している.

内視鏡所見の報告は以前は少なかった 4が,近年の内視鏡診断の進歩により,MEITLの内視鏡所見の報告も散見されるようになってきた.石橋ら 5はMEITLの42例103病変をまとめて報告している.占拠部位としては空腸・回腸が多く,次いで十二指腸,結腸,直腸,胃,食道の順であったとしている.また,内視鏡所見としては浮腫状粘膜が最多で,次いで潰瘍,顆粒状粘膜,腫瘤,粘膜肥厚,狭窄の順であった.その他にも,河野ら 6は,内視鏡所見の特徴として,主病変とされる隆起性病変や潰瘍性病変に連続して広範な粘膜病変や粘膜の浮腫状変化,微細顆粒状の粘膜,散在する潰瘍などを報告している.

本疾患の内視鏡所見の記載のある本邦での報告例について,医学中央雑誌で「EATL」と「内視鏡」,「腸管症関連T細胞リンパ腫」と「内視鏡」,「monomorphic epitheliotropic intestinal T-cell lymphoma」をキーワードとして1983年から2022年の期間で検索したところ,会議録や内視鏡所見が確認できないものを除外すると,自験例を含めて20例であった(Table 1 4)~21

Table 1 

内視鏡所見の確認できた本邦におけるMEITLの症例と,治療内容・予後.

内視鏡所見では,潰瘍が18例と最も多く,腫瘤形成が12例,浮腫状粘膜が9例,狭窄が7例であった.本疾患の内視鏡所見の特徴として,主病変とされる隆起性病変や潰瘍性病変に連続して,びまん性の粘膜浮腫や微細顆粒状粘膜,絨毛萎縮,散在する潰瘍などが報告されている.

再発例が確認されたのは自験例を含めて3例のみであったが,自験例以外の例は腫瘤を形成するもしくは,潰瘍を形成→消化管穿孔の形で再発しており,自験例の様な,主病変を伴わず,びまん性の広範な粘膜浮腫・絨毛萎縮のみで再発している例は確認できなかった.

自験例においては,最終的にはMEITLの再発病変との診断には至ったが,自覚症状からは先述の如く,むしろMEITLとしては珍しく,下痢症状が主であった.そして,内視鏡上は絨毛萎縮と浮腫のみを呈し,びらん・潰瘍などの粘膜表層の障害は認めない形で再発していた.上述の所見と,初回の病理結果と照らし合わせても,当初はMEITLの再発を確定することができなかった.絨毛萎縮の所見はセリアック病,好酸球性胃腸炎,アミロイドーシスで主に認められるとされる 22.再発の診断がされていなかった時点においては,病理で否定的なアミロイドーシスを除き,セリアック病,好酸球性胃腸炎としても対応したが,いずれも効果不十分であったことが,病理所見再評価を依頼する契機ともなった.

以前の病理結果を比較読影していただくことで初めて確定診断に至る,診断困難な事例であった.

元々MEITLは非常に予後不良で,全生存期間の中央値は約10カ月とされている 23.治療としては殺細胞性の抗がん薬の多剤併用化学療法が行われるが,有用性が不明瞭で,標準治療は未だに確立されていない 24

予後の極めて不良な本疾患において,自験例は例外的に長期の予後が得られている.これは,初発時の腸閉塞を伴う小腸腫瘍の切除および,大腸への再発腫瘍の切除に引き続く化学療法が奏効し,残存した腫瘍増殖が緩徐であったため,非典型的な内視鏡所見を呈し,かつ長期の予後が確保されるに至ったと考えられる.

最終的な予後改善のためには早期診断によって全身状態が良好なうちに治療を開始するのが重要と考えられるが,特に再発時の内視鏡に関しては,前述の本疾患の予後不良もあり,内視鏡所見としては確立していない.故に内視鏡所見について症例蓄積することの重要性を認識することに加え,本疾患を想起することや,病歴上の疑いが強ければ複数の医療機関で病理評価いただくこともためらうべきではないと考えられる.

Ⅳ 結  語

特異的な画像所見を認めず,かつ初回の病理診断では確定診断に至らなかった,診断に難渋したMEITLの1例を経験した.

謝 辞

本例の病理診断にご協力いただきました,北海道大学病院病理診断科に深謝致します.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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