2026 年 68 巻 8 号 p. 1451-1483
日本消化器内視鏡学会は,EBMに基づいた「小腸内視鏡診療ガイドライン(第2版)」を作成した.カプセル内視鏡により全小腸の内視鏡観察が低侵襲に可能となり,バルーン内視鏡により観察のみならず生検・治療まで可能となった.両者の登場から20年以上が経過して小腸疾患の診療は大きく進歩してきたが,さらなる早期診断・治療をめざして適応判断と手技の標準化を進める必要がある.執筆はCQ(clinical question)形式とし,必要に応じてBQ(background question)・FRQ(future research question)を設けた.なお,一部のCQにおいては,レベルの高いエビデンスが少ないため,専門家のコンセンサスを重視せざるを得なかった.本ガイドラインは,適応,診断アルゴリズム,運用,治療の4項目を柱に構築し,現時点での指針とした.
バルーン内視鏡とカプセル内視鏡の登場から20年以上たったが,小腸疾患を疑うべき症候が見過ごされ,小腸疾患の診断が遅れる場合がある.特に小腸癌の多くは進行癌として診断され,早期診断される例が少ない.クローン病も発症から数年を経て診断される例が珍しくない.小腸内視鏡の適応判断の標準化と周知徹底により,適切なタイミングで小腸内視鏡を行い,小腸疾患の早期診断につなげる必要がある.これまでにスコープの先端アタッチメントの工夫や新たな視野確保方法が開発されてきたが,旧来の方法を継続している施設もある.また,急性膵炎やガス塞栓症など,重篤な有害事象の発生も報告されている.より低侵襲で安全な小腸内視鏡を多くの施設で受けられるように標準化する必要がある.
以上のような背景から,診断の遅れや不必要な検査の減少,診断率・有効率の改善,患者侵襲・術者ストレス・有害事象の低減をめざして,日本消化器内視鏡学会のガイドライン委員会は,2015年に「小腸内視鏡診療ガイドライン」を作成し,2021年には追補として「クローン病小腸狭窄に対する内視鏡的バルーン拡張術ガイドライン」を作成した.この両ガイドラインを統合し,新たな知見を加え,第2版を作成した.
小腸内視鏡には,消化管の蠕動運動と重力で運ばれながら画像撮影する小腸カプセル内視鏡(small bowel capsule endoscopy:SBCE)と,術者による操作が可能な内視鏡がある.後者にはプッシュ式小腸内視鏡とデバイス小腸内視鏡(device-assisted enteroscopy:DAE)があり,詳細な内視鏡観察や生検による組織学的診断に加え,各種内視鏡治療が可能である.
プッシュ式小腸内視鏡は,DAEが使えない状況で小児用大腸内視鏡やロングタイプの大腸内視鏡を用いる方法である.深部小腸への挿入は困難だが,深部十二指腸~上部空腸,下部回腸の内視鏡観察や生検による組織学的診断,内視鏡治療においては有用である.
DAEにはシングルバルーン小腸内視鏡(single-balloon enteroscopy:SBE),ダブルバルーン小腸内視鏡(double-balloon enteroscopy:DBE)を包括したバルーン小腸内視鏡(balloon-assisted enteroscopy:BAE)と,スパイラル小腸内視鏡(spiral enteroscopy:SE)が存在する.SEはスパイラルオーバーチューブを用いた小腸内視鏡(用手回転式SE)と電動回転式SEがある.用手回転式SEの経口挿入用スパイラルオーバーチューブEndo-Ease Discovery®SB,経肛門挿入用スパイラルオーバーチューブEndo-Ease Vista®は2025年現在本邦では未発売である.電動回転式SE(PowerSpiral®小腸鏡;オリンパス株式会社)は,2021年に本邦で認可されたが,2023年に全世界で製品回収となり現在まで販売中止となっている.
カプセル内視鏡は,長軸方向の片側にカメラを備えるものが本邦で広く普及しているが,長軸方向の両側にカメラを備え全消化管の観察を目的とするPillCamTM Crohnʼsが欧米では発売されている(2025年現在本邦では未発売).また,短軸方向の全周にカメラを配置したCapsoCam Plus®も2020年11月から本邦で販売されている.
本診療ガイドラインは,一次・二次・三次医療に携わる内科医・外科医・小児科医・小児外科医,小腸内視鏡に携わる内視鏡医を想定利用者とし,individual perspective(個人視点)で作成する.
本ガイドラインでは,小腸疾患に起因する症候に対する内視鏡検査,小腸疾患に対する内視鏡検査・治療,術後再建腸管を有する患者の内視鏡を対象とした.小児と成人では適応判断と診断アルゴリズムが異なるため,成人を対象とした.一方,個々の小腸疾患に対する内科的・外科的治療,術後再建腸管を有する患者の胆膵疾患,内視鏡中の鎮痛・鎮静は対象外とした.
DAEのうちSEはエビデンスの蓄積が不十分なうえ本邦では利用できないため本ガイドラインの対象外とし,本ガイドラインではBAEのみを対象とした.また,SBCEに関しては日本カプセル内視鏡学会が2025年に「カプセル内視鏡診療ガイドライン」を作成しており,内容の重複を避けるため本ガイドラインではBAEと関連する内容のみに限定した.
ガイドラインとはあくまで標準的な指針であり,個々の患者の意思,年齢,併存疾患,社会的状況などにより慎重に対応する必要があることを明記しておく.
本ガイドラインの内容は,一般論として臨床現場の意思決定を支援するものであり,医療訴訟等の資料となるものではない.
今回のガイドライン作成にあたっては,「Minds診療ガイドライン作成マニュアル2020 ver. 3.0」に準拠させ,evidence based medicineに基づいたガイドライン作成を行った(Table 1).執筆の形式はclinical question(CQ)形式とした.

推奨の強さとエビデンスレベル.
日本消化器内視鏡学会より,ガイドライン作成委員として消化器内視鏡医12名が作成を委嘱され,システマティックレビューを実施したうえで作成を行った.そして,作成委員会でその内容を十分に吟味し最終案を確定した.また評価委員として,消化器内視鏡医3名が評価を担当した(Table 2).

小腸内視鏡診療ガイドライン(第2版)構成メンバー.
(1)エビデンスの収集方法
「小腸内視鏡診療ガイドライン」(2015)および「クローン病小腸狭窄に対する内視鏡的バルーン拡張術ガイドライン(小腸内視鏡診療ガイドライン追補)」(2021)のステートメントに基づいて抽出されたCQ原案をベースに,委員から提出された意見を踏まえてCQ案の検討を進めた.適応,診断アルゴリズム,運用,治療の4項目に分類し,全体でCQ7,BQ3,FRQ4の合計14のクエスチョンを採択した.必要な論文を網羅するため各CQに対して系統的に文献検索を行った.不足あるいは検索漏れおよび検索期間外の文献に対してはハンドサーチにより適宜追加した.
(2)エビデンスタイプ
● 既存の診療ガイドライン,systematic review(SR)/meta-analysis(MA)論文,個別研究論文を,この順番の優先順位で検索する.優先順位の高いエビデンスタイプで十分なエビデンスが見出された場合は,そこで検索を終了してエビデンスの評価と統合に進む.
● 個別研究論文としては,ランダム化比較試験(RCT),非ランダム化比較試験(non-RCT),観察研究を検索の対象とする.稀な事例に関することは症例報告も検索の対象とする.
(3)データベース
BQは国際的にも既に確立された問題を扱うためPubMedのみから検索した.CQとFRQについては未解明な問題も残っており,PubMedと医中誌から検索した.
● 既存の診療ガイドライン:PubMed,医学中央雑誌
● SR/MA論文:PubMed,医学中央雑誌
● 個別研究論文:PubMed,医学中央雑誌
(4)検索対象期間
すべてのデータベースについて,2024年5月末まで
• 小腸内視鏡について:2014年6月〜2024年5月
• 内視鏡的バルーン拡張術(endoscopic balloon dilation:EBD)について:2020年1月〜2024年5月
(5)検索式
https://www.jges.net/wp-content/uploads/2026/03/enteroscopyGL2_searchterms.pdf
4.推奨の強さとエビデンスレベル,ステートメント文献検索した論文に加えて,以前のガイドラインで採用した論文と,必要に応じてハンドサーチした論文を採用した.これらにより各クエスチョンに対するステートメントと解説文を作成した.作成委員は各担当CQの各文献のエビデンスレベルおよびステートメントに対する推奨の強さとエビデンスレベルを「Minds診療ガイドライン作成マニュアル2020 ver. 3.0」 1)に従って設定した.作成されたステートメントと解説文を用いてCQ形式のガイドラインを作成し,ステートメント案に対して,作成委員長および作成委員12名,評価委員長および評価委員3名の計15名により修正Delphi法による投票を行った.修正Delphi法は,1-3:非合意,4-6:不満,7-9:合意,として中央値が7以上のものをステートメントとして採用した.記載した文献には研究デザインを付記した(Table 3).

研究デザイン.
各文献へは下記13種類の研究デザインを付記した.
完成したガイドライン案は,まず評価委員による専門的な評価を受けた後に,外部評価として協力機関に校閲を依頼した.さらに,本学会ガイドライン委員会および学会会員に広く公開しパブリックコメントを実施した.パブリックコメントの実施に際しては,本学会メールマガジンでの周知の他,協力機関の会員からもコメントを募集すべく,各団体に依頼した.それぞれの結果に関する議論を経て修正を加え,本ガイドラインを完成させた.

利益相反についての開示事項.
本ガイドライン作成に関与した各委員の利益相反に関して下記の内容で申告を求めた.
A.本ガイドラインに関係し,委員個人として何らかの報酬を得た企業・団体について:役員・顧問職の有無と報酬(100万円以上),株式の保有と利益(100万円以上,または5%以上の保有),特許権使用料(100万円以上),講演料等(50万円以上),原稿料(50万円以上),研究費(100万円以上),奨学(奨励)寄附など(100万円以上),企業などが提供する寄附講座(100万円以上),旅行,贈答品などの受領(5万円以上).
B.申告者の配偶者,一親等内の親族,または収入・財産を共有する者が何らかの報酬を得た企業・団体について:役員・顧問職の有無と報酬額(100万円以上),株式の保有と利益(100万円以上,または5%以上の保有),特許権使用料(100万円以上).
C.申告者の所属する研究機関・部門の長にかかるinstitutional COI(申告者が所属研究機関・部門の長と過去に共同研究者,分担研究者の関係にあったか,あるいは現在ある場合)について:研究費(1,000万円以上),寄附金:(200万円以上),株その他.報酬金額は年度ごとに対象とし,直近3年度についての利益相反について申告を求めた.
なお,ステートメント決定時の投票に際しては,本ガイドラインに関連する内容で,「個人的・組織的に経済的COIが基準額*を上回る場合」「経済的COI以外のCOI等(研究活動・キャリア・人間関係・利害競合等)が考えられる場合」の申告を求めたが,いずれも該当はなかった.
*:本学会COI指針第8条第7項により定められた診療ガイドライン策定参加者の議決権に関する基準額は以下のとおりである.講演料200万円,パンフレットなど執筆料200万円,受け入れ研究費2,000万円,奨学寄附金1,000万円.
本ガイドライン作成に関係した費用については,日本消化器内視鏡学会による資金提供を受けた.
本ガイドラインの発行後,日本消化器内視鏡学会総会においてガイドラインの普及および臨床的妥当性の検証等を目的としたプログラムを実施予定である.広く本ガイドラインに関する演題を募集し,推奨事項の普及状況や臨床現場における効果について多角的な検証を行う他,学会参加者との討論を経て得られた知見を次回改訂時に活かす予定である.
医学の進歩や社会情勢の変化に伴い,本ガイドラインの内容も随時見直しが求められることが予想されるため,今後もガイドライン委員会を中心として,概ね5年を目途に改訂予定とする.また,必要に応じて改訂時期を待たずに追補を発行することも検討する.

略語一覧.
BQ1:小腸内視鏡の適応は?
ステートメント:小腸内視鏡の主な適応は小腸疾患の診断・評価,およびその病態に対する内視鏡治療,小腸異物除去,術後再建腸管で通常の内視鏡では到達困難な部位の検査・治療などである.
解説:
小腸内視鏡の適応疾患としては,上部消化管・大腸内視鏡を実施するも出血源を同定できない顕性消化管出血もしくは慢性鉄欠乏性貧血,クローン病に代表される炎症性腸疾患やその類縁疾患(非特異性多発性小腸潰瘍症,腸管ベーチェット病など),慢性下痢症の原因疾患(蛋白漏出性胃腸症,消化管アミロイドーシス,好酸球性消化管疾患,薬剤性小腸炎,セリアック病など),腸管感染症や膠原病類縁小腸疾患(腸結核,IgA血管炎など),その他の小腸疾患(虚血性小腸炎,放射線性小腸炎など),先天性疾患(メッケル憩室,腸管重複症,遺伝性出血性末梢血管拡張症(Rendu-Osler-Weber病など)),小腸腫瘍,Peutz-Jeghers症候群(Peutz-Jeghers syndrome:PJS)や家族性大腸腺腫症(familial adenomatous polyposis:FAP)に代表されるポリポーシス症候群,小腸異物が挙げられる.また,手技的な適応としては術後再建腸管で通常の内視鏡では到達困難な部位の検査・治療などである.
顕性(overt)および潜在性(occult)の小腸出血(small bowel bleeding)およびその疑い(suspected small bowel bleeding:SSBB)は小腸内視鏡の最も一般的な適応である.米国消化器病学会(American College of Gastroenterology:ACG) 1)や欧州消化器内視鏡学会(European Society of Gastrointestinal Endoscopy:ESGE) 2)のガイドラインでもSSBBに対してはカプセル内視鏡(capsule endoscopy:CE)による精査が第一選択として推奨されており,報告により差はあるが約50~60%の診断率にて出血源の特定に至るとされている.出血源が特定された場合や検査結果が不十分な場合,もしくは特定されなくても出血が持続する場合はバルーン小腸内視鏡(balloon-assisted enteroscopy:BAE)を実施し,出血源の同定および内視鏡的止血術を考慮する 3).
クローン病においてはその初期診断,活動性評価,経過評価,短期および長期予後予測に関してCEの有用性が報告されている 4)~9).クローン病が疑われる患者において,特に上部小腸に小病変が縦走傾向に確認された場合にその診断率が高いことが報告された.また,臨床的活動性が落ち着いているクローン病患者および術後のクローン病患者においても,CEにて小腸に活動性病変が認められた場合に治療介入を行うことでその後の疾患活動性を改善することが報告されており,同疾患における小腸モニタリングの重要性が示唆されている.しかし,これらの報告はいずれもパテンシーカプセルにて消化管の通過性を確認された患者に関する報告となっている.このため,消化管に高度狭窄を有する患者においてはBAEによる疾患活動性評価が考慮される.臨床活動性が安定しているクローン病患者であってもBAEにて深部小腸に活動性所見を有している場合には予後不良となることが報告されており,狭窄を有するクローン病においてはCTやMRIなども併用したうえでのBAEによる小腸モニタリングも必要と考えられる 10)~13).また,詳細は別項に譲るが(CQ7参照),狭窄に対するBAEによる狭窄拡張術は手術回避率を向上させることも報告されている 14),15).
小腸の腫瘍性病変はSSBB患者の3~10%で認められるとされており,そのスクリーニング法としてはCEが有用と報告されている 16)~18).ただし,腫瘍の大きさや形態によってはカプセルの停滞の危険が約10倍に増加(最大20%)することが報告されているため 19)~22),事前に他のモダリティによる評価が推奨される.CEによる腫瘍性病変検出能に関してはBAEと同等であることが報告されているが,注意すべきは近位小腸における病変の見落とし率であり,最大20%程度と報告され,特に粘膜変化に乏しい消化管間質腫瘍(gastrointestinal stromal tumor:GIST)などの粘膜下腫瘍を見落としやすい.このためCEが陰性であってもCTなど他のモダリティで腫瘍が疑われる場合はバルーン内視鏡による検査を考慮する必要がある 23).また,粘膜下腫瘍の診断には超音波内視鏡の併用が診断能の向上につながると報告されている 24).
ポリポーシス症候群の中で,PJSでは小腸のサーベイランスが推奨されているが,FAPや若年性ポリポーシス症候群においてはいまだ明確な基準は定められていない 25),26).詳細は別項に譲るが(CQ4参照),PJSにおいては,症状がなくても8歳までに最初の消化管検査を実施し,ポリープが見つかった場合は1~3年ごとのサーベイランスが推奨されている.検査間隔は,ポリープの成長速度に基づいて決定する必要がある.外科的治療により術後癒着が生じると,深部小腸へのバルーン内視鏡の挿入が困難となるため,可能なかぎり内視鏡的治療を試みる 27),28).
滞留したCEを含む小腸異物に対しては異物の種類ごとに自然経過の安全性と合併症リスクを見極め,必要に応じてBAEによる除去を試みる.ESGEのガイドラインによると,胃や小腸内の電池,磁石,鋭利な先端を有する異物,直径5~6cmを超える大きな異物,食物塊は24時間以内の緊急内視鏡的除去を必要とするが,鈍的異物や5cm以下の異物は72時間以内に除去を検討するとしている 29).BAEの実施においては患者の全身状態,有効なデバイスの有無,処置時間,スコープの挿入経路を考慮する必要がある.回収率に関しては86~92%との報告があり,症状の存在が除去成功率に関与する因子となることが報告されている 30)~32).
BQ2:小腸内視鏡の禁忌は?
ステートメント:カプセル内視鏡の禁忌は,消化管の閉塞・高度狭窄を有する患者,およびパテンシーカプセルで消化管の開通性が確認されなかった患者である.なお,バリウムアレルギーを有する患者はパテンシーカプセルが禁忌である.
バルーン小腸内視鏡の禁忌は上部消化管・大腸内視鏡の禁忌に準じる.
解説:
カプセル内視鏡の特徴的な偶発症として滞留があるため,滞留を生じる危険性が高い症例,すなわち腸管閉塞や高度狭窄症例では禁忌とされる.なお,滞留時にカプセル内視鏡の回収が困難な患者は慎重に判断する.腸管狭窄が疑われる場合[クローン病患者,長期にわたる非ステロイド性抗炎症薬(nonsteroidal anti-inflammatory drugs:NSAIDs)使用患者や腹部への放射線照射治療歴を有する患者,腸閉塞を疑う臨床症状を認める患者,小腸切除後の患者など]は,消化管開通性評価用のパテンシーカプセルを用いて開通性が確認されればカプセル内視鏡が可能である 1).ただし,パテンシーカプセルは硫酸バリウムを含有するため,バリウムアレルギーがある症例では禁忌である.カプセル内視鏡のうち画像の送受信のため電波を発する機種では,ペースメーカーまたは他の医療用電子機器が埋め込まれている場合に正確な記録が実施できない場合があるため,禁忌ではないが慎重に適応を確認する[厳密にはPillCamTMSBは送信周波数434.1MHzのごく微弱な電波を発射するため,心臓ペースメーカーや植込み型除細動器(implantable cardioverter defibrillator:ICD)などの心臓デバイスが埋め込まれている患者には,現時点では本邦の添付文書上は禁忌とされている.ただし,これら心臓デバイス植込み患者にカプセル内視鏡検査を施行した735例のメタ解析では心疾患イベントの発生は皆無であったことや,その他にも安全性が示された複数の報告があることから 2),3),欧州消化器内視鏡学会(European Society of Gastrointestinal Endoscopy:ESGE)のガイドラインでは,心臓ペースメーカーやICD植込み患者に電波を発するカプセル内視鏡は禁忌でないとしている 4),5)].
妊婦に関しては安全性に関する報告が十分でないことから,適応に関しては慎重に判断する 6).妊婦を対象にした報告において検査後カプセルの停滞などの偶発症は認めていない 7),8).また,カプセルレコーダシステムの電磁場が胎児に害を及ぼすかどうかについてのデータはないが,妊婦において大きくなった子宮が消化管を圧迫するうえ,妊娠第2期と第3期には消化管通過時間が延長するため,カプセル内視鏡検査における偶発症発生の増加につながる可能性がある.また,嚥下障害を有する患者においては気管への誤嚥の危険性があり,適応に関して慎重な判断を要する.しかし,消化管通過に問題がなければ内視鏡補助下でカプセルを十二指腸まで挿入したうえでの検査も許容される 9).MRI検査に関しては,カプセル内視鏡は磁性体であるため消化管損傷の危険性があり,体外排泄が確認されるまでは施行してはならない.
バルーン小腸内視鏡(balloon-assisted enteroscopy:BAE)の禁忌は上部消化管・大腸内視鏡の禁忌に準じ,内視鏡の実施により生命の危険を生じる極めて全身状態が不良な状態とする 10).なお,以前はBAEの禁忌と考えられていた急性腹症や腸閉塞,消化管穿孔あるいは穿孔の高リスク状態,消化管に対する放射線治療後などの腸管の脆弱性が予想される患者,食道胃静脈瘤を有する患者,重度の血液凝固異常,循環動態が不安定もしくは高度な低下を認める患者に関しては,内視鏡実施の有益性が危険性を上回る場合にのみ施行を検討する.また,ラテックスアレルギーのある患者では,ダブルバルーン内視鏡のオーバーチューブバルーンとスコープ先端バルーンの一部はラテックス製であるため禁忌となる 11)が,シリコーン製のバルーンとオーバーチューブを選択すれば施行可能である.
BQ3:バルーン小腸内視鏡の挿入ルートと全小腸観察の必要性をどう判断するか?
ステートメント:臨床症状と各種検査所見(CT,MRI,小腸造影,カプセル内視鏡など)から挿入経路を決定する.責任病変が同定されれば必ずしも全小腸観察は必要ない.
解説:
バルーン小腸内視鏡(balloon-assisted enteroscopy:BAE)は侵襲が高いが,生検による組織学的診断に加え,各種内視鏡治療が可能である.BAEは経口,経肛門いずれかの挿入経路で施行するが,一方向からの全小腸観察率はダブルバルーン小腸内視鏡(double-balloon enteroscopy:DBE)で1.6% 1)と低いため,検査前に病変の局在を推定し適切な挿入経路を決定する必要がある.欧州消化器内視鏡学会(European Society of Gastrointestinal Endoscopy:ESGE)のテクニカルレビューでは,CTやMRI,小腸造影,カプセル内視鏡から病変部位を推定し,挿入経路を決定することを推奨している 2).
DBEの挿入経路決定に関する,カプセル内視鏡の有用性に関する論文7編によるシステマティックレビューでは病変の通過時間および,撮影画像枚数から算出した画像進捗率を参考に,カットオフ値を50~75%に設定し経口挿入を選択することで,病変到達可能率は78.3~100%と高いことが報告されている 3)~10).一方で,韓国からの報告ではBAEの挿入ルート決定に,CT所見の有用性が報告されている 11).実臨床ではCT所見およびカプセル内視鏡所見などを参考にしながら挿入ルートを決定する必要がある.
また,小腸の活動性出血例でデバイス小腸内視鏡(device-assisted enteroscopy:DAE)を施行する場合,まず経口挿入を選択する.経口挿入による小腸挿入長は,経肛門挿入の挿入長よりも有意に長いことが報告されており 12),13),経口挿入の方が深部小腸まで観察可能である.また,経口挿入では腸管洗浄剤が不要で絶食のみで検査が可能であり,スコープが出血部位に到達すると腸管内容物が血性に変化していくことで出血点の推定が可能になる.逆に経肛門挿入を試みた場合は,血液や凝血塊による視野不良や,BAEのオーバーチューブとスコープの間への血液や凝血塊の侵入による操作性低下が問題となる 2).
BAEの経口挿入と経肛門挿入を組み合わせた全小腸観察率はシングルバルーン小腸内視鏡(single-balloon enteroscopy:SBE)で21.9% 14),DBEで44% 1)と報告されており,必ずしも全小腸観察が可能なわけではない.一方向からの挿入で責任病変が同定できれば必ずしも全小腸観察は必須ではない.しかし,一方向からの小腸内視鏡で病変が同定できないが,小腸内に病変の存在が強く疑われる場合,もう一方向からの挿入で全小腸観察を試みるべきである.その際には,挿入最深部に点墨やクリップなどでマーキングして全小腸観察の目安とする.なお,小腸出血においてカプセル内視鏡とDBEの間隔が長期となるほどDBEでの出血源同定率が低下することが報告されており 15),別方向からのBAEはできるだけ早期に施行する.なお,経口挿入における急性膵炎の頻度はDBEで0.49% 1)とされ,経口挿入の際の検査時間 16)や挿入長 17)が検査後の高アミラーゼ血症と関連することが報告されており,膵炎リスクも高いと考えられる.全小腸観察を試みる場合,経肛門挿入で可能なかぎり深部挿入してから経口挿入を行うことで長時間の経口挿入を回避できる.
2.診断アルゴリズムCQ1:上部/下部消化管検査で原因が特定できない消化管出血[小腸出血疑い,suspected small bowel bleeding(SSBB)]の診断アルゴリズムは?
ステートメント:まず吐血・血便・下血の確認,問診を行った後に,胸部~骨盤部CT検査を行う.腎機能障害,造影剤アレルギー歴がない場合は造影CT(できればダイナミックCT)を行う.CT所見,患者の年齢,併存疾患,症候を考慮し,カプセル内視鏡,バルーン小腸内視鏡などを行い,出血源を診断する.
修正Delphi法による評価:中央値9,最低値7,最高値9
推奨の強さ:2,エビデンスレベル:B
解説:
カプセル内視鏡診療ガイドライン委員会と合同で作成した上部/下部消化管検査で原因が特定できない消化管出血(小腸出血疑い,SSBB)に対する診断アルゴリズム(Figure 1) 1)である.第1版で用いられた「原因不明の消化管出血(obscure gastrointestinal bleeding:OGIB)」の定義が小腸内視鏡の普及に伴って「上部/下部消化管と小腸を検査しても原因が不明である消化管出血」と変更されたため,このアルゴリズムの名称も変更された.日本は世界でCT保有台数が最も多く,また最もバルーン小腸内視鏡(balloon-assisted enteroscopy:BAE)を行っているため,SSBB診断アルゴリズムにおけるCTやカプセル内視鏡,BAEの位置づけは日本と欧米間で異なる 2)~8).

SSBBに対する診断アルゴリズム 1).
(1)顕性出血の確認・問診
診断アルゴリズムの前に,まず吐血の有無,便の色・性状・回数,腹部症状,既往歴・併存疾患,鼻出血の有無,家族歴,使用薬剤を問診することで,小腸出血の原因や部位をある程度推測することが可能である.検査・治療方針を立案するうえでも有用である 2),3).吐血はトライツ靱帯より口側の出血を示唆する有用な症候である.便の色(黒色,暗赤色,鮮血)は消化管通過時間によって変化するが,本邦におけるSSBBを対象としたダブルバルーン小腸内視鏡(double-balloon enteroscopy:DBE)の多施設共同研究では黒色便は上部消化管~回腸病変が多く,暗赤色~鮮血便は回腸~肛門出血が多かったと報告されている 9).ただ,十二指腸・空腸からの大量出血では鮮血便となる可能性があり,回腸からの微量出血で便秘の場合は黒色便になるので注意が必要である.薬剤使用歴は医薬部外品も含めて詳細に問診し,アスピリンを含む非ステロイド性抗炎症薬(nonsteroidal anti-inflammatory drugs:NSAIDs)やカリウム製剤,抗癌剤,免疫チェックポイント阻害薬,ミコフェノール酸モフェチルを使用している場合は薬剤起因性小腸傷害を疑う.遺伝性出血性末梢血管拡張症(hereditary hemorrhagic telangiectasia:HHT,別名Rendu-Osler-Weber病)を念頭に,鼻出血の頻度・家族歴の聴取も重要である.
Ohmiyaらは血管性病変と関連の深い併存疾患を解析し,また小腸出血の発症年齢が各疾患群で異なることから,年齢と基礎疾患を問診するのみで小腸出血の原因病変を予測し得ることを報告している 10).すなわち,併存疾患指数(Ohmiya index,Table 6)の合計点数が多くなるほど血管性病変の占める比率が高くなり,血管性病変を推測するカットオフ値は2点だった.発症年齢が50歳を境に疾患が分かれたことから,Ohmiya index 2点と発症年齢50歳を境界とする2×2分割表(Table 7)を作成し,小腸出血の原因疾患を予測し得ると報告した.

併存疾患指数 Ohmiya index(以下の合計点数).

発症年齢,併存疾患指数別の小腸出血性病変.
特に,年齢を問わずOhmiya indexが2以上の場合は血管性病変の頻度が高い.また,Ohmiya indexが1以下で50歳未満の場合はメッケル憩室やクローン病が出血源として最も多い.
(2)診断アルゴリズム
初版 3),4)同様,顕性出血・潜在性出血にかかわらず,第一選択として,胸部~骨盤部CTを撮影し,小腸壁および壁外情報,小腸外病変(肺病変,他臓器の腫瘍の有無等)を調べる 11),12).分解能が高く緊急検査が可能なCTは必須と言える.SSBBの原因に腸結核,転移性小腸腫瘍,遺伝性出血性末梢血管拡張症(Rendu-Osler-Weber病)等があるため,胸部CTも忘れずに撮影し,肺結核,肺癌,肺動静脈瘻の有無をチェックする.特に出血性腫瘍の一つである消化管間質腫瘍(gastrointestinal stromal tumor:GIST)などの粘膜下腫瘍をカプセル内視鏡では検出できない場合があるので,腎機能障害,造影剤アレルギー歴がなければ造影(できればダイナミックで動脈相も骨盤部まで)CTを行う.造影CTのメリットは造影剤の管腔内漏出により活動性出血の部位を指摘できる場合があること,小腸の壁内・壁外病変の分解能がさらに向上することが挙げられる.また,動静脈奇形(arteriovenous malformation:AVM)や小さな多血性病変,GISTはダイナミックCTでなければ指摘できない場合があるので,できればダイナミックCTを行う 2).CTのない施設ではカプセル内視鏡を先行してもよいが,その場合は後日胸部~骨盤部CT検査を行う.
CTで異常があればBAE,異常がなければカプセル内視鏡を行う.BAEは1回の検査のみでの全小腸観察は困難な場合が多く,侵襲的な検査でもあるので,CTで異常があっても,全小腸のスクリーニング目的でBAE前にカプセル内視鏡を行うのも有用である.カプセル内視鏡で異常があれば病変を診断し,近い経路からBAEによる精査や内視鏡治療,またはその他の治療・経過観察が推奨される.活動性出血例では,出血部より肛門側のカプセル内視鏡の通過速度が速くなるため,実際より出血部位を肛門側と誤る場合があるので,バルーン内視鏡の挿入ルートの選択には注意を要する.年齢を問わずOhmiya indexが2以上の場合は血管性病変の頻度が高く,カプセル内視鏡でスクリーニングを行い,その後にケルクリング襞裏や屈曲部の小病変を見落とさないようにスコープ先端に円筒形透明フードを付けて慎重にBAEを操作し,診断および内視鏡的止血術を行うことが勧められる.一方,造影CTで小腸管腔内に造影剤の漏出(extravasation)を有する活動性出血例でも,BAEが施行できない場合や施行しても出血源が不明な場合,もしくは癒着等で病変部まで到達できない場合は,血管造影下動脈塞栓術を行う.造影CTでextravasationを認めなくても内視鏡的緊急止血術を要する場合は,カプセル内視鏡をせずに緊急BAEを行ってもよい.CTで異常がなくてもOhmiya indexが1以下かつ50歳未満でメッケル憩室やクローン病が疑われる場合は,カプセル内視鏡をせずに経肛門的BAEを行ってもよい.
カプセル内視鏡で異常がなければ,通過の速い十二指腸と上部空腸の病変や憩室,粘膜下腫瘍が偽陰性になりやすいことを踏まえたうえで,精密検査の必要性を考慮し,必要性があればBAEやメッケルシンチ,必要性がなければ経過観察を行う.メッケルシンチは小児ではメッケル憩室の陽性率が高いが,年齢とともに陽性率が低下するので注意が必要である.血管性病変は自然止血することが多く,小さな潰瘍性病変も短期間で治癒する可能性があり,可及的速やかな検査が勧められる.また,SSBBであっても実は上部消化管病変,大腸病変のことがあるので,再度上部消化管・大腸内視鏡を行うのも有用である 2),13).
また,最終的にBAEを行って診断・治療をしても再出血する場合がある.特に血管性病変は異時性多発し,再出血の原因として最も多い 10).再出血時は改めてカプセル内視鏡や上部消化管・大腸内視鏡を行うことが勧められる.
FRQ1:人工知能に関する将来展望は?
ステートメント:人工知能導入により小腸内視鏡,カプセル内視鏡診断時間の短縮,人的負担の軽減が期待される.
解説:
小腸領域における人工知能(artificial intelligence:AI)を用いた自動画像診断システムは,特にカプセル内視鏡の分野での進歩が目覚ましく,2000年代の臨床導入当時から読影機能として一部備わっていたが,2019年からAIの研究報告が急速に増えている 1),2).カプセル内視鏡におけるAIの現状は,各疾患群における高精度での所見検出が中心である.当初は小腸病変の自動検出がターゲットであった.Aokiらはカプセル内視鏡10,440枚の検証用画像をAIにより233秒で解析し(44.8枚/秒),異常所見検出の感度,特異度,精度はそれぞれ88%,91%,91%であり,さらにAIは読影医が正常小腸と判断していた10,000画像のうち,3画像内にびらんを新しく検出した 3).以後もAIによる診断精度が専門医と同等であることが多く報告され,特定の病変(出血,潰瘍,腫瘍など)を検出するためのモデルが登場して各疾患群においても良好な成績を示してきた.カプセル内視鏡で見逃すことが多いとされる腫瘍の検出に関しては,隆起性病変の検出率が報告され,カテゴリー別にポリープ,結節,上皮性腫瘍,粘膜下腫瘍,および血管性病変の検出率は,それぞれ96.7%(29/30),100%(14/14),100%(14/14),100%(11/11),および100%(4/4)であった 4).Sofferらのメタ解析において潰瘍検出の感度および特異度は,各々0.95[95%信頼区間(CI),0.89~98]および0.94(95%CI,0.90~96)であった.出血病変検出の感度および特異度は,各々0.98(95%CI,0.96~99)および0.99(95%CI,0.97~99)であった 5).カプセル内視鏡では腸管洗浄度が診断に影響を与えることがあり,洗浄度を評価するAIも報告がある 6).ただし,洗浄度評価の実装は,カプセル内視鏡プラットフォーム間の技術的な違いを考慮する必要がある 7).以上,ディープラーニング技術を利用したAIシステムは,専門医に匹敵するレベルの精度で病変を検出することができ,診断時間の短縮と精度向上が期待されている.一方,バルーン内視鏡を用いた小腸病変診断におけるAIは報告が少ない.クローン病の潰瘍と狭窄についてAI診断の報告があり,潰瘍の評価には潰瘍表面,潰瘍サイズ,潰瘍の深さが含まれた.AIと内視鏡医との精度が同等であった 8).
進化するAI技術によりリアルタイムで画像を解析する技術や動画解析も導入されてきた.多くの良好な成績が発表されているカプセル内視鏡分野においては,AI技術が通常のカプセル内視鏡診断ソフトに機能として搭載されることが期待される.メドトロニック社はAIによる画像解析により患者主体の検査実施を容易にするPillCamTM Genius SBのシステムを発表し,2024年にアメリカ食品医薬品局(United States Food and Drug Administration:FDA)の承認を得ている.
今後AIの役割としては,カプセル内視鏡検査中に異常を検出し,活動性出血や緊急を要する病変の情報伝達により迅速な臨床対応が可能になることも期待される.また,AIが病変検出のサポートを行い,ダブルチェックにもAIを用いると人的負担が軽減される.患者の背景や他の検査データと統合され,AIが診断報告書を自動作成することにより,包括的な診断支援が可能になり得る.医師の役割としてはレポートの承認と調整の立場となり,患者マネジメント自体に今まで以上の時間を費やすことができるかもしれない.
3.運用CQ2-1:スコープの選択は?
CQ2-2:フードの選択(フード無し・短いフード・円筒形フード・キャストフードⓇ)は?
ステートメント(2-1):診断率や治療介入率,偶発症率に関してはダブルバルーン小腸内視鏡とシングルバルーン小腸内視鏡において同等であるが,全小腸観察を目的とした場合はダブルバルーン小腸内視鏡を用いることを推奨する.
修正Delphi法による評価:中央値9,最低値7,最高値9
推奨の強さ:1,エビデンスレベル:A
ステートメント(2-2):視野確保,出血点同定,深部挿入などの検査目的に合わせたフード(キャップ)の装着を提案する.
修正Delphi法による評価:中央値9,最低値7,最高値9
推奨の強さ:2,エビデンスレベル:C
解説:
現在,実臨床で使用可能なバルーン小腸内視鏡(balloon-assisted enteroscopy:BAE)にはダブルバルーン小腸内視鏡(double-balloon enteroscopy:DBE)とシングルバルーン小腸内視鏡(single-balloon enteroscopy:SBE)の2つの形式がある.DBEは2001年に 1),SBEは2007年に開発され 2),3),臨床の場で小腸疾患の診断と治療に日常的に使用されている.DBEと比較しSBEはスコープ先端バルーンがないため検査準備と検査手技が簡素化されており,スコープ先端バルーンによる小腸の保持機能はアングル操作と吸引操作によって代替している.挿入におけるlearning curveはDBEもSBEも15〜30例程度が必要である 4)~6)が,SBEはDBEよりも準備時間が短く 7)~9),特に経口挿入において検査時間が短いことが示唆されている 7),10)~12).全小腸観察率は,いくつかのメタ解析において,DBEはSBEより高率であることが示された 9),13),14).一方で診断率や治療介入率,偶発症率に関してはDBEとSBEにおいて同等であった 9),14),15).このため全小腸観察が望ましい場合はDBEが有利と考えられる.
病変が粘膜のひだや屈曲部の背後にある場合,描出困難となる可能性がある 8).初回検査で重要な小腸病変が可視化されない可能性が患者の少なくとも20%に経験されることが示されている 16).大腸において透明キャップはひだを押し下げ,ひだ裏の死角を減らせるため,病変の発見に役立つ 8),17).透明キャップはまた,良好な視野の維持を可能にする 18),19).SBEにおいて,透明な円筒形フードの装着により出血源である可能性が高い血管性病変が有意に多く同定され(14.8% vs. 0%,p=0.02),小腸挿入長が有意に長くなる(191.9±50.2cm vs. 156.2±78.2cm,p=0.01)ことが報告された 20).DBEにおいて,柔軟性の高いフードの装着がwater exchange法での視認性を向上させ,粘膜損傷リスク低減につながる可能性が報告された 21).また,クローン病のような小腸狭窄を有する症例に対してDBEを用いて内視鏡的バルーン拡張術(endoscopic balloon dilation:EBD)を行う際に目盛り付き先端細径透明フード(calibrated small-caliber-tip transparent hood:CAST hood,キャストフードⓇ,トップ社)を用いることは,狭窄部へのガイドワイヤーとバルーンカテーテルの挿入を容易にし,適切な拡張バルーンカテーテルの選択とEBD後の狭窄部通過を容易にすると報告された 22).一方で,狭窄部の通過性や,フード内への便の嵌まり込み回避を優先してフードを装着しない選択もある.
CQ3-1:挿入の工夫として二酸化炭素(CO2)送気を使用するか?
CQ3-2:挿入の工夫としてwater exchange法を使用するか?
CQ3-3:視野確保のためgel immersion法を使用するか?
ステートメント(3-1):挿入深度の向上と患者の検査時の痛みの軽減のために,二酸化炭素(CO2)送気を用いることを推奨する.
修正Delphi法による評価:中央値9,最低値7,最高値9
推奨の強さ:1,エビデンスレベル:A
ステートメント(3-2):全小腸観察率を向上させるために,二酸化炭素(CO2)送気よりwater exchange法を使用することを提案する.
修正Delphi法による評価:中央値7,最低値6,最高値9
推奨の強さ:2,エビデンスレベル:C
ステートメント(3-3):大量出血などで視野が濁った場合は,gel immersion法を併用することで視野を確保しやすくなる.
修正Delphi法による評価:中央値8,最低値7,最高値9
推奨の強さ:なし,エビデンスレベル:C
解説:
空気送気による消化管内視鏡検査では,検査後もかなりの量の空気が消化管内に残存し患者の苦痛を伴う 1).また,バルーン小腸内視鏡(balloon-assisted enteroscopy:BAE)における腸管短縮操作が困難となり,挿入深度や全小腸観察など,内視鏡検査の質に影響を及ぼす可能性が指摘されている 2).空気を使用した場合の全小腸観察率は,ダブルバルーン小腸内視鏡(double-balloon enteroscopy:DBE)では18~66%,シングルバルーン小腸内視鏡(single-balloon enteroscopy:SBE)では0~22%であると報告されている 3)~5).
空気の代わりに二酸化炭素(CO2)送気を用いると,CO2が腸壁から急速に吸収されるため,痛みや不快感が軽減され,大腸内視鏡,内視鏡的逆行性胆道膵管造影(endoscopic retrograde cholangiopancreatography:ERCP)後の不快感が有意に軽減されることが示されている 6)~8).
DBEの経口挿入においてCO2送気を使用した場合,空気送気と比較して挿入長が32%改善され 2),SBEでは順行ルート,逆行ルート共に挿入長が有意に改善し,全小腸観察率が向上することが確認された(37.4% vs. 19%;95% CI 5.9~30.9%,p=0.005) 9).
またDBEにCO2送気を用いることで絶対VASスコアは低い傾向を示し,検査中の激しい痛みの発生が減少したと報告されている 10).これらのことから空気送気と比較して,CO2送気を使用したデバイス小腸内視鏡(device-assisted enteroscopy:DAE)では挿入深度が深く,患者の痛みが少なく,鎮静剤の使用量も減少する 11).大腸内視鏡におけるCO2送気は既に一般化しており,BAEでもCO2送気の使用が望ましい.ただしCO2送気はCOPDの患者ではCO2の蓄積に留意してモニタリングする 12).
SBEでのCO2送気とwater exchange法の全小腸観察率を各群55例で比較する前向き研究において,CO2送気でも36%と比較的高かったが,water exchange法では58%と有意に高い全小腸観察率を達成した 13).一方で,DBEを用いたCO2送気とwater exchange法の比較研究でCO2送気の方がより深い挿入長を達成したとする報告 14)もあるが,主要評価項目が全小腸観察率ではなく,送気で過大評価しやすい挿入深度で,少数例の検討(各群23例)かつ腹部手術歴や適応,挿入経路についてCO2送気に有利な偏りがみられていた.両報告とも鉗子孔から送水ポンプで注水するため残存ガス・腸液の同時吸引が不可能な方法だが,前者の報告では吸引を優先したと記載されていた一方で,後者の報告では特に記載はなかった.内視鏡の送水ボタンを押して注水するminimal water exchange法 15)か,副送水路から注水する方法であれば,残存ガス・腸液の同時吸引が可能で,低い管腔内圧を維持しやすいと考えられる.Water exchange法で水を十分に回収できない場合には水中毒のリスクがあるため,生理食塩水の使用が望ましい.
さらに,water exchange法において内視鏡処置を行う際に血液などで水が濁り,視野を損なうことがあるが,gel immersion法を併用することにより視野を保持しやすくなる 16),17).
FRQ2:術後再建腸管の輸入脚におけるガス塞栓症を回避する方法は?
ステートメント:空気送気にかぎらず,二酸化炭素(CO2)送気であってもガス塞栓症の発症リスクがあるが,water exchange法はガス塞栓症リスクをさらに軽減できる可能性がある.
解説:
ガス塞栓症は,消化管と血管系との直接的な交通や消化管や胆管の内圧上昇によって,ガスが循環系に流入する結果として起こる,稀ではあるが潜在的に致死的な偶発症である 1),2).ガス塞栓症は,造影剤注入や送気に伴う内圧上昇や,胆道鏡検査を含めた内視鏡治療手技,腸管の炎症による脆弱性などの要因で生じることが報告されている 3)~6).患者が腹臥位から仰臥位に体位変換したときに突然低血圧または低酸素症を発症した場合,または処置後に患者に新たな神経症状が現れた場合は,ガス塞栓症を考慮する必要がある 2).ガス塞栓症の多くは内視鏡的逆行性胆道膵管造影(endoscopic retrograde cholangiopancreatography:ERCP)関連で報告され,頻度は2.4~10%の範囲であり 7)~9),ガイドワイヤーやステントなどによる胆管損傷,括約筋切開術によるものなどの報告がある 2),10).術後再建腸管を有する患者に対するERCPは通常の側視鏡では困難であり,バルーン小腸内視鏡(balloon-assisted enteroscopy:BAE)が用いられる 11).BAEのバルーンを輸入脚で膨らませると,輸入脚盲端とバルーンの間が閉鎖空間となり,腸管内圧を上昇させやすい.また,門脈は肝臓内で胆道系と平行に隣接して走り,加えて実質臓器である肝臓には消化管のようなチェックバルブ機能がないため,内圧が上昇した環境下において血管にガスが流入しやすい 11).さらに,ガイドワイヤーやバルーン拡張,ステントによる胆管の損傷や出血が生じることで門脈系へのガスの漏出が起こりやすくなる可能性がある 12)~14).ガス塞栓症の発症リスクを軽減する因子として生体吸収性の高い二酸化炭素(CO2)を送気に使用することが挙げられているが 2),CO2送気であったにもかかわらず,ステント抜去直後に発症したガス塞栓症も報告されている 15),16).このため特に術後再建腸管における処置では,ガス塞栓症のリスクを考慮する必要があり,経験が浅い場合などはハイボリュームセンターへの紹介も検討すべきである.残存ガス・腸液を吸引して水に置き換えるwater exchange法 17)~19)は,ガスのない状態と低い管腔内圧を維持できるため,ガス塞栓症リスクを低下し得る.一方で,water exchange法において内視鏡処置に伴う出血や腸液・胆汁・胆泥で水が濁り,視野を損なうことがある.この問題は内腔に透明ゲルを注入するgel immersion法 17)で,視野を保持しつつガス塞栓症リスクを低減できる可能性が報告されている.
4.治療CQ4:Peutz-Jeghers症候群の小腸ポリープに対する内視鏡治療の適応と方法は?
ステートメント:Peutz-Jeghers症候群の10mmを超える小腸ポリープは腸重積の原因となるため内視鏡治療[ポリペクトミー,内視鏡的粘膜切除術(endoscopic mucosal resection:EMR),内視鏡的阻血治療]を推奨する.
修正Delphi法による評価:中央値8,最低値7,最高値9
推奨の強さ:2,エビデンスレベル:C
解説:
Peutz-Jeghers症候群(Peutz-Jeghers syndrome:PJS)は食道を除く全消化管に過誤腫性ポリープが多発する消化管ポリポーシス症候群である.特に小腸にポリープが多発し,15mmを超える小腸ポリープは腸重積の誘因となるため,可能であれば10mmを超えるポリープは内視鏡もしくは外科切除が推奨される 1),2).PJSの過誤腫性ポリープに対して従来は内視鏡によるポリペクトミー,内視鏡的粘膜切除術(endoscopic mucosal resection:EMR)が施行されてきた.小腸の壁は薄くポリープの基部で切除をすると術中ならびに遅発性穿孔の原因となるため,なるべくポリープ頭部に近い部位で切除すべきである.PJSの小腸ポリープに対するポリペクトミーの報告では偶発症の発生率は4.4~10%と報告されている 3)~7).PJSの小腸ポリープは過誤腫性ポリープであり,ポリープ自体の癌化が稀であることから,サイズが小さいものではcold snare polypectomy(CSP)による加療が実施された報告もある 8).また,複数病変を切除した場合,病変すべてを回収し病理学的評価をすることは困難であることから,有茎性病変にはポリープ基部に内視鏡下にクリップ 9)もしくは留置スネア 10)でポリープを阻血,壊死・脱落をめざす内視鏡的阻血治療(endoscopic ischemic polypectomy:EIP)が考案された 11).本邦からの報告では従来のポリペクトミーと比較し,EIPでは偶発症発生率が有意に低く,患者あたりの治療病変数が有意に多いことが報告されている 7).両群間で観察期間中に腸重積は発症しておらず,EIPの安全性,有効性が報告されている 7).また,近年では浸水下内視鏡的阻血治療(underwater EIP)による治療例も報告されている 12).ただし,EIPは組織学的な評価が不可能であることに留意すべきであり,悪性を疑う病変に対してはポリペクトミーによる切除を施行し,組織学的評価を検討すべきである.また,PJSは生涯にわたりポリープによる腸重積を発症し手術を行う可能性があり,術後に腸管癒着を生じ小腸内視鏡による全小腸観察が困難となる例も少なくない.全小腸観察が困難な症例においては,手術時に術中内視鏡による内視鏡切除を併用することで,長期的なマネジメントができる可能性が報告されている 5).
FRQ3:家族性大腸腺腫症の小腸病変に対する内視鏡治療の適応と方法は?
ステートメント:家族性大腸腺腫症の小腸病変は,病変に応じて内視鏡治療[内視鏡的粘膜切除術(endoscopic mucosal resection:EMR),cold snare polypectomy(CSP),浸水下内視鏡的粘膜切除術(underwater EMR)など]を検討する.
解説:
家族性大腸腺腫症(familial adenomatous polyposis:FAP)は多発する大腸腺腫を特徴とする常染色体顕性遺伝性疾患であり,十二指腸を主体とする小腸病変の合併が知られている.本邦におけるカプセル内視鏡で小腸精査を施行したFAP患者41例の検討では,Spigelman分類のⅢ期もしくはⅣ期で空腸・回腸病変の検出率が高いことが報告されている 1).また,十二指腸病変に対してSpigelman分類のダウンステージングを目的として浸水下内視鏡的粘膜切除術(underwater EMR),cold snare polypectomy(CSP)によるintensive downstaging polypectomy(IDP)の有効性が報告されている 2),3).一方,十二指腸を除く小腸病変に対する内視鏡治療の有効性の報告は少なく,5mm以上の空腸病変に対してダブルバルーン小腸内視鏡下に内視鏡治療を施行したFAP患者8例1,237病変(総検査件数72件)の検討では切除された空腸病変はいずれも腺腫であり,偶発症として後出血を10%で認めたが,CSPのみで治療した群では後出血は一度も認めなかった 4).このことから十二指腸病変同様,FAPに随伴する小腸病変に対してもCSPは有用である可能性があるが,小腸病変に対してIDPを含めた積極的な切除をすべきか,その治療適応,治療法については今後エビデンスの集積が必要である.
CQ5:小腸出血に対する止血方法の選択は?
ステートメント:クリップ法やアルゴンプラズマ凝固法などの内視鏡的止血術を行うことを推奨する.内視鏡的止血術が困難な場合はinterventional radiology(IVR)や外科的治療を選択することを推奨する.
修正Delphi法による評価:中央値8,最低値7,最高値9
推奨の強さ:1,エビデンスレベル:B
解説:
血管性病変 1)の他,露出血管を伴う潰瘍・腫瘍・憩室からの出血は内視鏡的止血術 2)の適応となる.内視鏡的止血術を行う際には,gel immersion endoscopyが視野確保に有用と報告されており,視野確保用のゲルであるビスコクリア®を用いることで,出血点を容易に同定することができる 3)~5).内視鏡的止血術の方法には,機械的止血術(クリップ法,結紮法 6),バルーン圧迫法),熱凝固法(アルゴンプラズマ凝固法 7),ヒートプローブ法,高周波凝固法),局注法(ポリドカノール法 8),9),ヒストアクリル法 10),高張Naエピネフリン法,純エタノール法),薬剤塗布法[トロンビン,吸収性局所止血材(ピュアスタット®)など]がある.病変の種類や用意できる処置具により止血方法を選択するが,小腸壁は他の消化管に比較して薄いため,処置に伴う穿孔には注意が必要である.そのため,原理的に広く浅く焼灼できるアルゴンプラズマ凝固法と,機械的圧迫により止血するクリップ法が多く用いられている 11).出血の原因となるangioectasiaに対しては,凝固を用いないコールドスネアによるangioectasiaの切除とその後のクリップによる止血も報告されている 12).出血性ポリープからの出血の場合には,内視鏡的粘膜切除術(endoscopic mucosal resection:EMR)・ポリペクトミーや留置スネア等で血流を遮断することで止血できる.出血を伴う大きな脂肪腫では,endoscopic unroofing techniqueにより安全に脂肪腫を切除できる可能性がある 13).
ただし,内視鏡的止血術が困難な場合や,静脈瘤,大きな動静脈奇形については,外科的治療もしくはinterventional radiology(IVR) 14),15)の適応となる.筋層以深に占拠する良性腫瘍,粘膜下層以深に浸潤する悪性腫瘍,憩室 16)は外科切除が根治的治療である.
大動脈弁狭窄症に伴う消化管出血はHeyde症候群と呼ばれているが,重症大動脈弁狭窄症で小腸の血管性病変からの出血を繰り返す症例では,大動脈弁の治療(大動脈弁置換術など)も選択肢となり得る 17),18).
CQ6:内視鏡的バルーン拡張術の適応は?
ステートメント:内視鏡的バルーン拡張術は主に良性狭窄を対象とし実施する.クローン病の小腸狭窄における内視鏡的バルーン拡張術の適応は狭窄長5cm以下の狭窄とし,深い潰瘍・瘻孔・膿瘍・強い屈曲・腸管の脆弱性を伴わないものとする.
修正Delphi法による評価:中央値8,最低値7,最高値9
推奨の強さ:2,エビデンスレベル:C
解説:
小腸に狭窄を来す病態として,クローン病,NSAIDs起因性小腸病変,術後吻合部,腸結核,虚血性小腸炎,放射線性小腸炎,cryptogenic multifocal ulcerating stenosing enteritis(CMUSE),非特異性多発性小腸潰瘍症(chronic enteropathy associated with SLCO2A1 gene:CEAS),悪性腫瘍などがある 1)~7).内視鏡的バルーン拡張術(endoscopic balloon dilation:EBD)は主に良性疾患に対して実施されており,放射線性小腸炎など腸管の脆弱性が疑われる症例における報告はない.一方,悪性疾患であっても化学療法などの加療により寛解と判断される場合は拡張術を行うことも容認される 7),8).
EBDの適応となる狭窄として良性疾患,有症状などを前提としているものが多く認められる 4),9)~11).クローン病の小腸狭窄における適応として,Hiraiらの症状の原因となる狭窄であること,狭窄長5cm以下,瘻孔や膿瘍がない,深い潰瘍でない,屈曲が強くない 12)などの条件や,Sunadaらの内科的治療後の症候性の線維性狭窄もしくは無症状であっても口側拡張を有するものを適応とし,狭窄長が5cmを超えるもの,屈曲の強いもの,筋層に及ぶ深い潰瘍,膿瘍形成を伴うもの,悪性腫瘍に伴う狭窄などを除外要因とする 10)などを基に作成された前版の「小腸内視鏡診療ガイドライン 11)」や「クローン病小腸狭窄に対する内視鏡的バルーン拡張術ガイドライン(小腸内視鏡診療ガイドライン追補) 13)」における適応は広く受け入れられている.
その他に用いられているEBDの適応として,Klagらの適応 14)がある.Klagらは耐術能があることを前提に,軽微な炎症にとどまる4cm未満の短い狭窄で,悪性やhigh grade dysplasiaが除外されており,狭窄が直線状で腸管内腔と一直線上にあり,瘻孔より少なくとも5cmを超えて距離があり,膿瘍がないこととしている 14).
クローン病における狭窄病変の長さはEBDの一つの重要な適応判断因子となる.2019年の英国のガイドライン 15)では2016年に報告されたNavaneethanらのメタ解析 16)のデータを引用し,小腸と大腸の狭窄病変を含めた解析で4cm未満の狭窄に対するEBDにて手術率が低下することを引用している.また,2016年に欧州クローン病・大腸炎会議(European Crohnʼs and Colitis Organisation:ECCO)のコンセンサス 17)では5cm以下の狭窄ではEBDにて手術率が低下すること 18)が引用されている.2020年のBettenworthらのメタ解析では解析症例のうち狭窄長が5cm以下のものが99.6%であったことが示されており 19),狭窄長5cm以下がEBDの適応として広く受け入れられている.報告によりカットオフ値の設定が異なるため,明確に設定することができないが,狭窄長が1cm長くなるごとに8%手術率が上昇することが報告されており 18),狭窄長は短い方がEBDの有効性が得られやすい.
腸管の脆弱性の定義は難しいが,クローン病の場合,未治療もしくは治療経過が短い症例では,炎症や浮腫による内腔の狭小化の影響を考慮する必要があり,また,深い潰瘍も同様に腸管の脆弱性が想定される因子となる.
瘻孔や膿瘍に関して,2016年のECCOのコンセンサスでも瘻孔や膿瘍を伴う狭窄やhigh grade dysplasiaを含む悪性狭窄はEBDの禁忌としており 17),Sunadaらの内瘻を伴う狭窄が予後不良である報告 10)などを踏まえても除外することが望ましい.ただし,膿瘍治癒後の狭窄はEBDの禁忌ではない.
癒着を伴う強い屈曲に関しても適応外とする報告が多く 10)~14),20),拡張バルーンは拡張時に硬度が増し,5cmを超える長径を有するため狭窄部だけでなく狭窄の前後で穿孔を来す可能性があり,狭窄前後にセーフティーマージンが取れない場合は適応外と考えるべきである.以上より,安全性の観点から深い潰瘍,瘻孔,膿瘍,強い屈曲,腸管の脆弱性を伴う場合はEBDを控えることが望ましい.
症状の有無については症候性のものを対象とする報告が多いが,一方で症状の有無にかかわらず,口側拡張を有する場合やスコープが通過しない場合に拡張を行う報告 20),21)もあり一定しない.原則的には有症状の症例に行うが,より深部の小腸に存在する病変の観察・治療のためスコープやオーバーチューブを挿入する場合には,対象の狭窄が無症候性であってもEBDを行うことがある.この臨床的判断には明らかなエビデンスはなく,施設や医師によって判断されるのが現状である.詳細はFRQ4を参照いただきたい.
CQ7:内視鏡的バルーン拡張術の適切な拡張径は?
ステートメント:有効性の観点からは当初の目標径を12〜15mmとするが,狭窄径に応じて調整する.
修正Delphi法による評価:中央値8,最低値7,最高値9
推奨の強さ:2,エビデンスレベル:C
解説:
小腸狭窄に対する内視鏡的バルーン拡張術(endoscopic balloon dilation:EBD)の報告の中で,拡張径について詳細な検討がなされたものはクローン病を対象とした研究がほとんどであり,それらを基に本ステートメントを作成している.Hiraiらはクローン病の小腸狭窄を対象とした前向き研究において8〜10mmのバルーンカテーテルを使用した場合,症状の改善がみられない可能性が高くなることを報告 1)しており,症状改善には少なくとも12mm以上の拡張が望ましいと考えられる.一方で,小腸に限定した後方視的研究において15mm以上の拡張で腸管切除回避率が上昇することが単変量解析にて示されている 2).また,小腸病変だけでなく大腸病変も含めた後方視的研究では12〜15mm以上の拡張でアウトカムが改善することが報告されている 3)~6).大腸内視鏡を用いた小腸と大腸病変を含んだ後方視的研究において,EBDの拡張径の比較において,14〜15mmと16〜18mmでは手術リスクに差を認めなかったが,16〜18mmの拡張径を選択した群では拡張間隔の延長がみられたと報告されている(平均240±136.7日 vs. 456±357.3日,p=0.023) 5).以上より,症状改善,あるいは拡張間隔の延長など有益なアウトカムを得るために12〜15mm以上の拡張径が望ましいと考えられる.
一方で,拡張径が大きくなると穿孔などの偶発症の増加が懸念される.Gustavssonらは回腸大腸吻合部狭窄が77%を占めるコホートにおいて25mmで拡張した症例で有意に高い偶発症率を認めたと報告している 7).拡張径が大きくなると穿孔のリスクは上昇するが,15mm未満の拡張であっても穿孔を来したとする報告も散見される 3),6),8),9).よって,安全性を担保できる拡張径の設定は難しく,拡張前の狭窄径や狭窄の状態に応じて内視鏡医が適切に判断する必要がある.
安全性の観点から小さな拡張径から開始し,徐々に拡張径を大きくする手法が報告されている 3),6),8),9).2020年に報告されたシステマティックレビューにおいて,段階的な拡張の効果はワンステップでの拡張と比較して短期的な臨床的有効性が高い一方で,EBD実施後の再発リスクが高いことが示されており,効果には一定した傾向は示されていない 10).また,安全面では段階的拡張では3.2%に,ワンステップでの拡張では0.7%に出血や穿孔,拡張手技に関連する外科的手術などの合併症を認め,2群間に有意差を認めなかった(p=0.246) 10).拡張径は段階的拡張を行った症例群ではワンステップでの拡張を行った群と比較し,小さい拡張径が選択されていた(15.8mm vs. 17.2mm,p<0.001) 10).EBDの偶発症は発生率が数%程度と低く,十分な症例数でのさらなる検討が必要である 10).これらの結果を踏まえ,狭窄が高度である場合は12mm以下の拡張径から開始する段階的な拡張も一つの選択肢であることを考慮に入れるべきであろう.拡張径の選択は患者背景,狭窄の状態などからリスク・ベネフィットを考慮して決定されるべきである.
研究結果の解釈において,以下の点に留意する必要がある.ほとんどの研究が後方視的研究であり,様々なバイアスの影響を受けている.例えば,バルーンカテーテルの拡張径の選択は術者の裁量に依存しており,EBD前の狭窄径と選択された拡張径の間に一定の相関関係がある可能性が否定できない.また,アウトカムが手術である場合,症状の改善を認めていないにもかかわらず,患者希望により外科手術が選択されていない可能性がある.さらに,拡張デバイスや拡張時間などが研究によって異なり,拡張径のみの要因で有効性や安全性を解析できていない可能性が否定できない.このようなバイアスを念頭に置き,拡張径に焦点を当てた前向き試験の実施が望まれる.
FRQ4:スコープが通過しない小腸狭窄は無症状でも内視鏡的バルーン拡張術を実施するか?
ステートメント:無症状例に対する内視鏡的バルーン拡張術の有効性のエビデンスは不足しているが実施を妨げるものではなく,十分なインフォームドコンセントのもとに実施する.
解説:
クローン病における内視鏡的バルーン拡張術(endoscopic balloon dilation:EBD)は主に有症状例や無症状であっても口側拡張を有する症例を対象に実施されている 1)~4).しかし,口側拡張がなくてもスコープが通過しない症例において実施される場合もあり 5)~7),有症状であることや口側拡張を有することは条件の一つではあるが必要条件ではない.また,Global Interventional Inflammatory Bowel Disease Groupからのガイドラインでは「無症候性あるいは偶発的に発見された狭窄は有益性が危険性を上回れば,EBDでの治療は可能である.狭窄を内視鏡が通過できなければEBDは実施可能である.内視鏡検査同意書に無症候性あるいは偶発的に発見された狭窄に対してEBDを実施する可能性について記載するべきである.」などのステートメントが記載されている 8).
スコープが通過しない狭窄であれば今後,有症状となる可能性が想定され,狭窄症状を未然に防ぐ可能性において効果が期待できることや,スコープが通過しないことにより観察できない部位の観察が可能となり,再燃や腫瘍の有無を確認でき治療方針に影響を与える可能性もある.また,症状を有する症例やより強い症状を有する症例でEBDへの反応性の低下や手術が必要となるリスクが高いことが示されており 9),10),早い段階での治療介入は予後を改善する可能性がある.現時点では無症状例に対するEBDの有用性に関するエビデンスは不足しているが,無症状例に対するEBDを妨げるものではない.今後,厚生労働科学研究費難治性疾患政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」(久松班)にて臨床研究が行われる予定である.
一方で,無症状の症例に対してEBDを実施する場合,患者への丁寧な偶発症に関する説明と事前同意が必須となる.2020年に報告されたシステマティックレビューにおいて,小腸狭窄に対するEBDによる出血や穿孔,拡張手技に関連する外科的手術などの偶発症の発生頻度は概ね5.3%と報告されており 11),十分なインフォームドコンセントのもとで実施されるべきである.