日本消化器内視鏡学会は,内視鏡診療ガイドライン作成作業の一環として,消化器内視鏡の洗浄消毒標準化にむけたガイドラインを作成した.内視鏡の適切な洗浄消毒は,内視鏡診療において非常に重要であり,被検者間感染の防止・医療従事者の感染予防において欠くべからずプロセスである.今回の改訂では,「Minds診療ガイドライン作成マニュアル2020 ver.3.0」に従い,EBMに基づいた「ガイドライン」を作成した.文献的裏付けがあるものについてはステートメントを作成し,エビデンスレベルと推奨度を記載した.第1版発行後,新たなエビデンスの集積がみられるものの,本邦からの論文が少ないのも特徴であり,本邦からのエビデンスの創出に今後も期待したい.
日本における消化器内視鏡診療は,診断から治療に至るまでその役割が拡大し,国民の健康維持に不可欠な医療技術として定着している.内視鏡検査・治療件数は年々増加の一途を辿り,それに伴い内視鏡の洗浄消毒に関する重要性はますます高まっている.内視鏡の不適切な取り扱いは,患者間での感染伝播リスクを高めるだけでなく,医療従事者への曝露リスク,さらには環境汚染を招く可能性も指摘されている.
本学会は,このような状況を踏まえ,2018年に「消化器内視鏡の洗浄消毒の標準化にむけたガイドライン」を策定した 1).しかし,その後の約5年間で,内視鏡関連感染に関する知見は進歩し,新たな課題も浮上してきた.例えば,内視鏡の構造が複雑化するにつれて,洗浄消毒の難易度が増していること,特定の多剤耐性菌によるアウトブレイク事例が報告されていること,さらには新型コロナウイルス感染症の世界的流行により,感染対策全般に対する意識が大きく変化したことなどが挙げられる.
さて,本改訂版は,初版の基本的な枠組みを踏襲しつつ,以下の6つの項目に沿って構成されている.
① 医療器具分類・医療器具管理の原則:内視鏡を含む医療器具の感染リスクに応じた分類と,適切な管理の原則を提示する.
② ベッドサイドおよび用手洗浄の重要性と重視すべきポイント:自動洗浄消毒機を用いる前段階としてのベッドサイドおよび用手洗浄の重要性と,その確実な実施のためのポイントを解説する.
③ 自動洗浄消毒機の重要性と使用方法・各消毒薬の特徴:自動洗浄消毒機の適切な使用方法と,消毒薬の特性に基づいた選択基準について詳述する.
④ 処置具の再生処理とディスポーザブル製品の推奨:内視鏡処置具の再利用の可否,適切な再生処理方法,およびディスポーザブル製品の活用について考察する.
⑤ 標準的な感染予防策:内視鏡診療全般における標準的な感染予防策の徹底を促す.
⑥ 教育:医療従事者に対する継続的な教育の重要性を強調する.
また,本ガイドラインは,消化器内視鏡の洗浄消毒に関する多岐にわたる疑問に対し,最新のエビデンスに基づいて回答することを目的としている.そのため,質問形式で構成されており,以下に示す3種類のクエスチョン形式を導入している.
クリニカルクエスチョン(CQ):日常臨床において遭遇する頻度の高い,重要な疑問点に焦点を当て,推奨度とエビデンスレベルを提示し,具体的な対応策を提示する.
バックグラウンドクエスチョン(BQ):洗浄消毒の基礎となる知識や概念に関する疑問を扱い,基本的な理解を深めることを目的とする.
フューチャーリサーチクエスチョン(FRQ):既存の研究で解決されていない問題や,新たな視点から研究を進めるための質問など,今後の研究において探求すべき課題や疑問を指す.
これらのクエスチョン形式の導入により,読者は自身の疑問や関心に応じた情報を効率的に参照できる構成となっている.
消化器内視鏡に関連する感染事例は,全世界的に報告されており,特に十二指腸スコープを用いた内視鏡的逆行性胆管膵管造影(endoscopic retrograde cholangiopancreatography:ERCP)後の多剤耐性菌感染は,大きな社会問題となった.これは,内視鏡の複雑な構造,特に鉗子起上装置が,洗浄消毒が困難な領域となりうることを浮き彫りにした事例である.Muscarellaらの報告では,十二指腸スコープを介した多剤耐性菌のアウトブレイクが,酸化エチレンガス滅菌によって終息した事例が紹介されているように,従来の洗浄消毒プロセスの限界と,より高度な対策の必要性が認識されている 2).
また,洗浄消毒プロセスの有効性は,医療従事者の手技や自動洗浄消毒機の性能に大きく左右されることも指摘されている.Ofsteadらの研究では,内視鏡再処理における人的要因と自動化の影響について前向きに検討し,洗浄消毒プロセスの標準化と自動化の重要性を示唆している 3).さらに,洗浄の確実性を評価するためのアデノシン三リン酸(adenosine triphosphate:ATP)バイオルミネッセンス測定のような,新たな評価方法の導入も進められている 4).これらの知見は,単に手順を規定するだけでなく,その手順が適切に実施されているかを客観的に評価するシステムの導入が不可欠であることを示している.
さらには,今回の改訂にあたっては,以下の点を特に重視した.
第一に,最新の科学的根拠に基づいた洗浄消毒手順の提示である.国内外の関連学会や公衆衛生機関が発表している最新の知見,研究報告を綿密に検討し,エビデンスレベルの高い推奨を策定した.今回の改訂では,「Minds診療ガイドライン作成マニュアル2020 ver. 3.0」 5)に従い,EBMに基づいた「ガイドライン」を作成した.例えば,米国消化器内視鏡学会(American Society for Gastrointestinal Endoscopy:ASGE)などが発表している「Multisociety guideline on reprocessing flexible GI endoscopes and accessories 2021」 6)などの国際的なガイドラインも参考にし,日本の医療現場の実情に合わせた最適な実践法を提案している.
第二に,医療従事者の安全確保である.洗浄消毒作業は,消毒薬への曝露リスクや,感染性物質との接触リスクを伴う.そのため,本ガイドラインでは,個人防護具(手袋,マスク,ガウン,眼の保護具など)の適切な使用,作業環境における充分な換気の確保,消毒薬の安全な取り扱いと廃棄方法など,医療従事者の健康と安全を守るための具体的な対策についても詳細に記述した.
第三に,環境汚染対策である.使用後のスコープの再処理までの各段階での対応,内視鏡の再処理エリアのゾーニング(汚染区域,清潔区域の明確な区分け)など,内視鏡施行区域全体での感染管理体制の構築を促す内容となっている.
第四に,トレーサビリティの確保である.各内視鏡の使用履歴,洗浄消毒履歴を詳細に記録することの重要性を明記した.具体的には,使用した内視鏡の識別番号,洗浄消毒実施日時,担当者,使用した自動洗浄消毒機の状況,消毒薬の種類とロット番号,交換時期などの情報を記録することを推奨している.これは,感染経路の特定と,将来的な感染拡大の防止に不可欠な要素である.
また,初版では,本邦と諸外国との比較による現状の課題として,①消化器内視鏡施行時の洗浄消毒の位置付けは罰則のない努力目標である.②海外では地域・国ごとに消化器内視鏡施行時の洗浄消毒に関して詳細なガイドラインが策定されている.③消化器内視鏡を施行するにあたっては洗浄消毒に関する責任者をおき,検証可能な体制を整えることを推奨する.日本消化器内視鏡学会指導施設においては申請時の代表者を管理責任者とする.④消化器内視鏡施行時の適切な洗浄消毒により患者および医療従事者への感染を予防できる.⑤消化器内視鏡施行時に,内視鏡を媒体とした交差感染が発生した場合は管理責任を問われる.の5項目が述べられていたことをここに追記する.
最後に,本ガイドラインは,日常の消化器内視鏡診療に携わる医師,看護師,その他の医療従事者が,安全かつ効率的に内視鏡の洗浄消毒を行うための実践的な指針となることを目指している.また,医療施設の管理者や感染制御担当者にとっても,内視鏡関連感染対策を推進するための重要な参考資料となることを期待する.本ガイドラインに沿った適切な洗浄消毒が普及することで,被検者はもとより,医療従事者にとってもより安全な医療環境が提供され,ひいては消化器内視鏡診療全体の質の向上に寄与するものと確信している.本ガイドラインの作成にあたり,多大なるご尽力を賜った各委員の皆様,関係学会,関連企業に深く感謝申し上げる.また,各委員の献身的なご協力に感謝する.本ガイドラインが,消化器内視鏡診療における感染制御のさらなる発展に貢献することを切に願う.
なお,本ガイドラインの内容は,一般論として臨床現場の意思決定を支援するものであり,医療訴訟等の資料となるものではない.
本ガイドラインは,2018年に刊行した「消化器内視鏡の洗浄・消毒標準化にむけたガイドライン」初版を踏襲し,患者,医療従事者に内視鏡診療による感染事故や薬剤曝露被害を防ぐための必須事項として,前述のように,①医療器具分類・医療器具管理の原則を取り上げた.また,本邦の現状に照らし,実際の内視鏡洗浄消毒の具体的指針として,②用手洗浄の重要性と重視すべきポイント,③自動洗浄消毒機の重要性と使用方法・各消毒薬の特徴,④処置具の再生処理とディスポーザブル製品の推奨,を取り上げた.さらに,COVID-19関連を含めた⑤標準的な感染予防策の項目,⑥教育の項目を新たに設けた.なお,初版に掲載した「2.日本の現状と世界との比較」については序文で触れるに留めた.それぞれの項目について必要なCQを作成し,ステートメントを作成委員が作成し,評価委員により合意が得られたステートメントが採用された.ステートメントを分かりやすくするため,消化器内視鏡再処理の簡潔な流れとステートメントとの対応をFigure 1のフローチャートに示した.

スコープ再処理のフローチャート(ステートメントBQ1,BQ4).
今回,提唱したCQについては,遡及可能な限り古い年代から2023年12月31日までの期間で,系統的に文献検索を行った.不足した文献に対してはハンドサーチも採用した.検索した文献を評価し必要な文献を採用し,各クエスチョンに対するステートメントと解説文を作成した.作成委員は各担当CQの各文献のエビデンスレベルおよびステートメントに対する推奨の強さとエビデンスレベルを「Minds診療ガイドライン作成マニュアル2020 ver. 3.0」 7)に従って設定した(Table 1).作成されたステートメント案に対しては,Table 2に示す作成委員,評価委員により,修正Delphi法による投票を行った.Delphi法は,1-3:非合意,4-6:不満,7-9:合意とした.オンラインでの投票後コンセンサス会議で充分に議論を行ったうえでステートメントを確認・修正し,再度投票を繰り返すことで,Delphi法にて合意の水準に達したものを最終ステートメントとして採用した.作成されたステートメントと解説文を用いてCQ形式のガイドラインを作成した.完成したガイドライン案は学会会員に公開され,パブリックコメントを求めたうえで,その結果に関する議論を経て本ガイドラインは完成した(Table 3).

推奨の強さとエビデンスレベル.

消化器内視鏡の洗浄消毒標準化にむけたガイドライン作成委員会構成メンバー.

クエスチョン,ステートメント,推奨・エビデンス一覧.
本ガイドライン作成に関与した各委員の利益相反に関して下記の内容で申告を求めた.
A 本ガイドラインに関係し,委員個人として何らかの報酬を得た企業・団体について:役員・顧問職の有無と報酬(100万円以上),株式の保有と利益(100万円以上,あるいは5%以上の保有),特許使用料(100万円以上),講演料等(50万円以上),原稿料(50万円以上),研究費,助成金(100万円以上),奨学(奨励)寄付など(100万円以上),企業などが提供する寄附講座(100万円以上),旅費,贈答品などの受領(5万円以上).
B 申告者の配偶者,一親等内の親族,または収入・財産を共有する者が何らかの報酬を得た企業・団体について:役員・顧問職の有無と報酬額(100万円以上),株式の保有と利益(100万円以上,または5%以上の保有),特許権使用料(100万円以上).
C 申告者の所属する研究機関・部門の長にかかるinstitutional COI(申告者が所属研究機関・部門の長と過去に共同研究者,分担研究者の関係にあったか,あるいは現在ある場合)について:研究費(1,000万円以上),寄附金:(200万円以上),株その他.
報酬金額は年度ごとに対象とし,直近3年度についての利益相反について申告を求めた.作成に携わった委員の企業との経済的な関係につき,申告を得た企業名をTable 4に示す.すべての申告事項に該当がない委員については,表末尾に記載した.

利益相反についての開示事項.
本ガイドライン作成に関係した費用は,日本消化器内視鏡学会によるものである.
本ガイドラインの発行後,日本消化器内視鏡学会総会においてガイドラインの普及および臨床的妥当性の検証等を目的としたプログラムを実施予定である.広く本ガイドラインに関する演題を募集し,推奨事項の普及状況や臨床現場における効果について多角的な検証を行う他,学会参加者との討論を経て得られた知見を次回改訂時に活かす予定である.
医学の進歩や社会情勢の変化に伴い,本ガイドラインの内容も随時見直しが求められることが予想されるため,今後もガイドライン委員会を中心として,概ね5年を目途に改訂予定とする.また,必要に応じて改訂時期を待たずに追補を発行することも検討する.
BQ1:軟性内視鏡の消毒薬に対する適切な分類は?
ステートメント:軟性内視鏡の消毒レベルは,Spauldingの医療器具分類に従って処理することが合理的である.軟性内視鏡はsemi-critical器具に分類され,滅菌または高水準消毒が行われている.
解説:
適正な再生処理の機器分類に関しては,滅菌・消毒においてSpaulding分類が広く用いられている 1)~3).これはSpaulding分類が合理的で分かりやすいため,提案した米国だけでなく,本邦や欧州でも感染管理の基本的な考え方になっている.
消化器内視鏡すなわち軟性内視鏡においてもSpaulding分類に準じて洗浄消毒を行うべきである.
無菌の組織や血管に挿入するものとして,手術用器具,循環器または尿路カテーテル,移植埋め込み器具,針などはcriticalに分類され,滅菌が必要とされている.一方,軟性内視鏡は,粘膜または健常でない皮膚に接触するものとして呼吸器系療法の器具や麻酔器具,喉頭鏡,気管内挿管チューブと同様にsemi-criticalに分類され,芽胞以外の病原体の殺滅を目的として,滅菌または高水準消毒が推奨されている.
BQ2:無菌の組織や血管内に使用する機材の適切な再生処理方法は?
ステートメント:局注針や生検鉗子など無菌の組織や血管内に使用するものはcritical機器に分類され,感染リスクとしては高リスクに分類されるため,滅菌またはディスポーザブル製品の使用が必要である.
解説:
局注針や生検鉗子など無菌組織または血管に挿入する可能性があるものは,Spaulding分類のcritical器具に分類される 1).芽胞を含む病原体に汚染された内視鏡処置具は感染伝播の高リスクとなるため,ディスポーザブル製品を用いるか,生存可能な微生物が存在しないと定義される滅菌が必要である 2).ディスポーザブル製品は耐熱滅菌などを前提とされておらず,日本においてはディスポーザブル製品の再使用はしないよう薬機法(旧薬事法)に定められており 3),使用後は速やかに廃棄する.リユーザブル製品においても,滅菌手順による影響だけでなく,複数回の使用で摩耗する可能性があることに留意する.ディスポーザブル製品とリユーザブル製品のどちらを選択するかは,コスト,安全性,機能の一貫性,および施設管理の利便性によって考慮されるが,近年は感染制御のため単回使用医療機器化が進んでおり 4),5),欧州消化器内視鏡学会(European Society of Gastrointestinal Endoscopy:ESGE)および欧州消化器病看護師協会(European Society of Gastroenterology Nurses and Associates:ESGENA)は可能な限りディスポーザブル製品を使用することを強く勧めている 6).
BQ3:滅菌の方法にはどのようなものがあるか?
ステートメント:消化器内視鏡分野における滅菌の方法には,高圧蒸気滅菌,酸化エチレンガス滅菌,過酸化水素低温ガスプラズマ滅菌,過酸化水素ガス低温滅菌,低温蒸気ホルムアルデヒド滅菌がある.
解説:
滅菌とは無菌性を目的としたすべての微生物を殺滅・除去する行為であるが,臨床では滅菌した医療器材に微生物が生存する確率が1/100万以下の状態と定義されている.内視鏡分野における滅菌法の種類としては高温滅菌と低温滅菌(ガス滅菌)に大別されている(Figure 2) 1),2).ただし,医療機器(内視鏡を含む)は機種により適合する滅菌法が異なるため,必ず各機器メーカーの取扱説明書に従い滅菌法を選択する 3).

滅菌法の種類.
高圧蒸気滅菌:高熱によりタンパク質を変性させ,生物としての機能を失活することで滅菌を行う.滅菌剤である飽和蒸気のコストの安さ,毒性がないこと,高い熱伝導率により短時間で微生物を殺滅可能であり病院内で行うことができる滅菌法の中では信頼性が高い.しかし,非耐熱性の医療用器材には不適当であることより軟性内視鏡本体の滅菌は不向きである.内視鏡機器としては送水タンク,各種チューブ類などが本滅菌法の適応である.
低温滅菌は主に・酸化エチレンガス滅菌・過酸化水素低温ガスプラズマ滅菌・過酸化水素ガス低温滅菌・低温蒸気ホルムアルデヒドガス滅菌である.熱に弱い医療器具・機器が滅菌対象である.
酸化エチレンガス滅菌:酸化エチレンガスにより微生物を構成するタンパク質のアルキル化を起こすことで菌を死滅させる方法である.滅菌剤の浸透性の高さが特徴であり,70年に及ぶ歴史を有する確立された低温の滅菌法である.耐熱性や耐湿性の低いカテーテル類,スコープなどが適合となる.一方,滅菌工程で生じる有毒残留ガスを除去するエアレーションに時間を要すること,強い毒性のため作業環境濃度の管理,一般健康診断や滅菌作業記録の保管あるいは,排出規制などが各法令において義務付けられている.
過酸化水素低温ガスプラズマ滅菌:高真空状態のもと,過酸化水素にエネルギーを加えることで過酸化水素ガスプラズマができる.このプラズマ化により生成されたラジカルが微生物を死滅させる 4).滅菌時間が短いこと,エアレーション不要,約50℃での低温滅菌処理,電源のみで稼働などが特徴である.高圧蒸気滅菌器での処理が難しい電子部品やプラスチックなどを含む軟性内視鏡や超音波装置のプローブなど様々な医療機器の滅菌に用いられている.
過酸化水素ガス低温滅菌:減圧沸騰によりガス化することで強い酸化作用を得た過酸化水素で微生物を殺滅する方法である.本滅菌法は短時間で滅菌可能,そして過酸化水素の分解により生成される副産物が水と酸素であることから安全である.2009年に本邦に導入された医療機器である.金属,非金属(プラスチック,電子部品などを含む医療機器)を滅菌処理することが可能なことに加え,管腔構造を有した消化器内視鏡等(スコープ)も滅菌処理することができる.
低温蒸気ホルムアルデヒド滅菌:1966年にエチレンオキサイド滅菌の代替えとして開発されたものの被滅菌物からのホルムアルデヒドの残留除去という問題のためEU諸国での発展の後,本邦での導入は2011年となった.低温の蒸気にホルムアルデヒドを添加することで酸化エチレンガス滅菌と同様,アルキル化により微生物を殺滅させる.高圧蒸気滅菌に比べてはるかに低い温度で作用するため,熱によって変質しやすい蒸気滅菌に不向きな器材が滅菌対象とされる.軟性内視鏡も滅菌可能である.
以上の各種滅菌法の特徴を理解したうえで,滅菌対象となる器材の材質・構造や施設の運用に応じて適切な滅菌法を選択することが重要である 3).その際には、内視鏡機器メーカーの取扱説明書に記載された適応および滅菌条件を遵守する 4).
BQ4:軟性内視鏡の適切な洗浄消毒の方法は何か?
ステートメント:軟性内視鏡の洗浄消毒には,医療用で低発泡性の,非酵素系または酵素系の中性洗剤を用いたベッドサイド洗浄および用手洗浄の後に,高水準消毒もしくは滅菌を行う.
解説:
消化器内視鏡すなわち軟性内視鏡においてもSpaulding分類に準じて洗浄消毒を行うべきである 1)~3).粘膜に触れるものとして軟性内視鏡はsemi-criticalに分類され,芽胞以外の病原体の殺滅を目的として,高水準消毒(high-level disinfection:HLD)が推奨されている.消化管内視鏡は徹底的に洗浄することが必要であり,高水準消毒は内視鏡自動洗浄消毒機で実⾏する必要がある 4)~11).また,滅菌については,アウトブレイク以外の状況では,十二指腸スコープの細菌汚染率は,高水準消毒と比較して低下しないことが,限定的なデータから示唆されている 12).他のすべての内視鏡デザインモデルについては,滅菌と比較したデータが不充分であり,現時点では,通常の軟性内視鏡に対しては適切な洗浄後に高水準消毒を確実に行うことが最も重要であり,すべてのスコープに対して滅菌処理を常時実施することは推奨されない.
BQ5:Non-critical器材の適切な消毒方法は?
ステートメント:Non-critical器材には清拭および中・低水準消毒を行う.
解説:
Spaulding分類では患者組織への接触レベルに基づいて医療機器をcritical,semi-critical,non-criticalに分類し,必要な消毒または滅菌のレベルを指定している 1).
このうちnon-critical器材には,健康で創傷のない正常皮膚に接する可能性のある内視鏡ユニット,高周波発生装置,生体モニターなどの医療機器や,内視鏡室等のコンピュータ端末,ベッド,床などが含まれる.これらは内視鏡施行時に被検者の体液や血液の飛散により汚染されることがあるため,適宜,清拭および中・低水準消毒を行うことが推奨される 2)~4).
なお,中水準消毒には次亜塩素酸ナトリウムや消毒用エタノール,ポピドンヨードが用いられ,結核菌・栄養型細菌・ほとんどのウイルスや真菌の殺滅が可能である.一方,低水準消毒には第4級アンモニウムやグルコン酸クロルヘキシジン,両性界面活性剤が用いられ,ほとんどの栄養型細菌およびある種のウイルスや真菌を殺滅することができる.
CQ1:内視鏡ユニットの適切な消毒方法は?
ステートメント:内視鏡ユニットは血液や体液によって汚染されることもあるため,定期的に中・低水準消毒を行うことを推奨する.
Delphi法による評価 中央値:9 最低値:7 最高値:9
推奨の強さ:1,エビデンスレベル:C
解説:
内視鏡ユニットは,内視鏡トロリーおよび観測装置全体を指す.内視鏡ユニットはnon-critical器具にあたり,Spaulding分類によるnon-critical器具に対する処理を行う.医療関連微生物[クロストリディオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile:CD),バンコマイシン耐性腸球菌(vancomycin-resistant Enterococcus:VRE),メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus:MRSA)など]は数日間持続するため,他の患者への伝播の可能性がある 1)~7).また,B型肝炎ウイルス(hepatitis B virus:HBV)は乾燥した環境でも1週間生存し,感染能力があり 6)~8),中・低水準消毒を行うことを推奨する.様々な消毒方法が新型コロナウイルス(sever acute respiratory syndrome coronavirus 2:SARS-CoV-2)を含むコロナウイルスを効果的に不活化する可能性も報告されている 9).また,新たな消毒方法の有用性も報告されている 10),11).
BQ6:送水ボトルの消毒あるいは滅菌は必要か?
ステートメント:送水ボトルの消毒あるいは滅菌による管理は必要である.
解説:
送水ボトルに関しては,水に由来してPseudomonas 属をはじめとした細菌が増殖し感染源になることが報告されている.そのため,感染経路を遮断するために送水ボトルならびに接続チューブは消毒あるいは滅菌により管理することが推奨される.頻度に関しては,欧米の文献では高レベル消毒あるいは滅菌処理を毎日行うべき,と推奨しているものが多い 1)~5).さらに踏み込んで,ボトル内には滅菌水を用いるべきとしている.本邦においても,少なくとも毎日送水ボトルと接続チューブを水道水にて洗浄,乾燥すること,ならびに最低週1回は滅菌処理を行うことで感染経路を遮断することは必須である.送水ボトルの滅菌ができない場合は希釈した次亜塩素酸ナトリウム液による消毒を毎日行う 6).次亜塩素酸ナトリウムは細菌に対し即効的に作用し,かつタンパク質と反応すると食塩に変化するため残留性が低い 7).
CQ2:スコープの保管について適切な方法は?
ステートメント:保管前のスコープは表面とチャンネルおよび管路内をしっかりと乾燥させ,付属品を外した状態で専用保管庫に保管することを推奨する.
Delphi法による評価 中央値:9 最低値:8 最高値:9
推奨の強さ:1,エビデンスレベル:B
解説:
乾燥
保管前のスコープは適切な高水準消毒を行った後,スコープ表面とチャンネルおよび管路内を乾燥させる必要がある.不適切な乾燥は残存水分の中に微生物の発生を招き,感染のアウトブレイクを招く可能性がある 1)~3).実際にスコープの消毒後の不完全な乾燥が,バイオフィルム形成に関連している可能性が指摘されている 4),5).乾燥の方法として消毒後のスコープ表面は清潔な布で水分をふき取る.チャンネルおよび管路に関しては,内部への強制送気を行うことで乾燥させることが推奨されている 2),3),6),7).送気する方法は自動洗浄消毒機の乾燥機能の使用,卓上乾燥プロセッサー,乾燥機能つきキャビネットなど様々な機器がある.また,送気する空気の種類もフィルターろ過空気,圧縮空気などの種類はあるが,方法・空気の種類ともに定まったコンセンサスはない.チャンネル内の完全な乾燥には,10分以上の乾燥時間を推奨している報告もある 2),3),7).
アルコールフラッシュはチャンネルおよび管路内の水蒸気の蒸発促進や,アルコール自体の抗菌特性による効果が考えられているが,その効果に対する明らかなエビデンスは乏しい.逆にアルコールはタンパク質を固定する作用もあるため,汚れがある場合管路内に固着を促し微生物を残留させるリスクが指摘されている.そのため海外のガイドラインではアルコールフラッシュを使用することは強く推奨されておらず,メーカーの取扱説明書に従うこととされている 2),3),7).プリオン病の発生地域ではアルコールフラッシュを推奨していない場合もある 6).本邦の以前のガイドライン 8)~10)はアルコールフラッシュを推奨していたが,今後の使用に関しては施設内の感染対策集学的チームで検討が必要である.他の乾燥方法としてスコープを垂直に吊るすだけでは,充分な乾燥が得られないことが報告されている 11)~13).強制送気ピストルによる手作業での乾燥も不充分である 12),14).スコープの乾燥作業に関しては施設によるばらつきが大きいとされるが,感染のアウトブレイクを防ぐためにもスコープの乾燥方法の確立が求められている.
スコープを短い間隔で使用する場合でも多くのガイドラインで完全な乾燥が求められているが,すぐに次の患者に使用する場合はスコープのチャンネルと外表面から主要な水滴を除去するだけで使用可能としている場合もある 6).しかし,次の患者に使用するタイミングはずれることもあるため,できるだけ完全な乾燥作業を行うことが望ましい.
保管方法
消毒後のスコープは清潔な手袋をして扱い,送気・送水ボタン,鉗子栓などを外した状態で,安全な部屋に置かれたスコープ専用の保管庫に保管する.保管庫はスコープを安全に保管できる充分な高さ,深さ,幅が必要であり,保管方法に関してはメーカーの取扱説明書に従う.保管庫には乾燥機能付きのタイプがあり,スコープのチャンネルに強制換気のコネクターを装着し,送気を行うことでチャンネル内を完全に乾燥させることができ,緑膿菌の増殖を抑えることができたという報告もある 11)が,コンタミネーションを起こさないようにするための重要性は充分に解明されていない 11),15).
保管方法には,垂直方向および水平方向に保管する方法がある.保管前にしっかりと乾燥を行えば,保管する方向に関わらずチャンネルおよび管路内の液滴に差はないことが報告されている 12).管路内の水分が感染源になるのを考慮し,垂直に保管することを推奨しているガイドラインもある 6).垂直に保管する場合はキャビネットの底部や他のスコープに触れないように注意し,スコープはなるべくまっすぐになるようにする 3).スコープ同士の接触が交差感染をもたらすというエビデンスは存在しないが,感染管理の面からはスコープ同士が接触しないように注意すべきである.保管時はスコープの操作チャンネルをフリーの状態にしておく.垂直に吊るすのが難しいロングスコープの保管方法に関しては各メーカーの取扱説明書に準拠する.水平に置く場合も同様にきつく巻いたり鋭角にならないようにしたりして,他のスコープとの接触に気を付ける 2).スコープの保管は故障と汚染から保護することが重要である.
保管期間
適切に洗浄消毒,乾燥,保管されたスコープの最大保存期間を提案するだけのエビデンスは不充分である.実際に欧米のガイドラインでは長期間の保存期間が患者の有害転帰の危険因子であるというエビデンスが不足しているため,最長の保存期間を提案していない 2),6).
保管されたスコープが再処理されるべき期間に関しての小規模な調査がいくつか報告されている.保管期間が7日未満と7日以上のスコープでは,7日未満のほうが細菌汚染率は低く,保管期間が短いほうが細菌汚染の割合は低いと考えられている.しかし,7日程度の保管で最も検出されたのは皮膚常在菌である非病原性黄色ブドウ球菌であり 16)~18),病原性細菌の汚染に関しては7日未満と7日以上の保管期間で差は認めなかった 2).また,適切な洗浄消毒や保管が行われていれば,7日までは汚染率が低く保管が可能であるという報告がある 19).米国のガイドラインでは56日までの保管期間はおそらく安全であろうとしているが,その根拠を示すデータは不足している 2).スコープの最適な保管期間に関しても有益性とリスクに関する評価を行い,施設内で検討する必要がある.
FRQ1:内視鏡自動洗浄消毒機とスコープはどのメーカーでの組み合わせでもよいのか?
ステートメント:スコープと自動洗浄消毒機の組み合わせ適用に関しては,内視鏡・洗浄消毒機メーカーともにその組み合わせで洗浄消毒できるかのバリデーションデータを確認することを提案する.
解説:
自動洗浄消毒機を用いたスコープの洗浄消毒プロセスに対するバリデーションでは,臨床使用後に付着した汚染物質(タンパク質やヘモグロビンなど)や使用される消毒剤の残留が規定レベルであることが確認されている 1)~3).洗浄消毒の際には,スコープと内視鏡部品を自動洗浄消毒機に配置し,自動洗浄消毒機および内視鏡メーカーの指示に従い,すべてのチャンネルコネクターを取り付けたのちに,スコープ内部表面が高水準消毒液に浸されるようにし,承認されたコネクターのみを使用する必要がある 4).スコープと洗浄消毒機の組み合わせ適用に関しての明確なエビデンスはないが,同一メーカーであってもスコープが適切に再生処理できているかの確認は,各施設が責任を持って行うべきである.また,洗浄チューブの端のカプラーや金具の付け替えにおいて内視鏡メーカーでも保証を行っていない場合は,施設の責任下で行うことが求められる.そのガイダンスは医療機器メーカー,研究者,規制当局のバリデーション経験を使用して作成されているが,地理的な場所,地域の要件,ユーザーまたは規制当局の経験,洗浄用化学物質や機器の可用性などに応じて,各地域,各施設で異なっているのが現状である 5),6).今後は,医療従事者が洗浄消毒機メーカーと内視鏡メーカーとともに協力して,様々なスコープと自動洗浄消毒機の組み合わせ適用が可能かどうか相互検証する仕組が望まれる.
BQ7:洗浄消毒の履歴管理は必要か?
ステートメント:適切な感染管理・トレーサビリティのために,洗浄消毒の履歴管理を行う.ただし,その保存方法は各施設に委ねる.
解説:
感染事故などが起きた際に対応するため,洗浄消毒の履歴管理を行うことが望ましい 1)~6).
少なくとも,①年月日,時刻,②患者氏名,ID,③スコープ番号,④洗浄担当者,⑤洗浄消毒機番号,⑥消毒薬濃度を記録する.
CQ3:スコープの定期培養検査は必要か?
ステートメント:スコープの定期培養を行うことを提案する.
Delphi法による評価 中央値:9 最低値:7 最高値:9
推奨の強さ:2,エビデンスレベル:B
解説:
スコープの定期培養検査は,現在の⽶国の基準では推奨されていないが 1)~3),いくつかの国際機関の再処理ガイドラインでは,品質保証⼿段としての監視培養が推奨されている 4).また,培養検査は,施設内でスコープを介した感染の発⽣が疑われる場合や感染が確認された場合に推奨されることがあるが 2),監視培養は⼗⼆指腸スコープにほぼ限定されている.
スコープの培養を用いたスコープ再処理工程の適切性を検証する研究は,培養するスコープの種類,培養を⾏う頻度,培養技術,得られたサンプル数,および陽性培養の定義(識別された微⽣物の種類[病原性 vs. ⾮病原性/環境性],必要なコロニー形成単位の数)によって⼤きく異なる.さらに,⼗⼆指腸スコープによる感染の発⽣が知られているいくつかの施設において,関与した⼗⼆指腸スコープから感染した微⽣物を培養することができなかったという報告もある 5).最近,米国食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA),米国疾病管理予防センター,および⽶国微⽣物学会で,⼗⼆指腸スコープの監視サンプリングと培養プロトコルについて,詳細なガイダンスが提供された 6).限界はあるものの,スコープの定期培養検査は,再処理されたスコープの残留汚染の最も信頼できる指標であり,再処理の適切性を評価することが可能である.
適切な再処理を評価するためのいくつかの代替指標が提案されているが,臨床で広く適⽤されていない 7)~10).高水準消毒の前に,ATP残留物を検査することは,そのような指標の1つであり,ATPを用いた適切な用手洗浄の評価について報告されている 11)~13)が,使⽤される検査機器によって,検査方法や,閾値が異なっているという問題点がある.さらに,⼗⼆指腸スコープの用手洗浄後に実施されたATP検査の感度と特異度は,高水準消毒後の培養検査と⽐較し,それぞれ30%と53%との報告もある 14).その後の系統的レビューでは,⼗⼆指腸スコープの監視における細菌培養の代替としてATPを使⽤することは⽀持されなかったものの,用手動洗浄の適切性を評価するための有⽤なツールである可能性があることが⽰唆された 15).現在,FDAは,ATP検査を⼗⼆指腸スコープの監視⽅法として使⽤しないよう勧告する通知を発⾏しており 6),ATPによるバイオバーデンの評価は,用手洗浄の適切性を評価するためのツールとして提案されている 16)~18).
CQ4:休日や夜間などの診療時間外でもスコープ洗浄消毒を行うべきか?
ステートメント:休日や夜間などの診療時間外の緊急内視鏡においても,速やかにスコープ洗浄消毒を行うことを推奨する.
Delphi法による評価 中央値:8 最低値:2 最高値:9
推奨の強さ:1,エビデンスレベル:C
解説:
近年,消化器内視鏡診療の高度化と複雑化が進む中,スコープの洗浄消毒を専門に行う医療従事者を配置する施設が増加している.一方で,医師の働き方改革の影響により,休日や夜間など診療時間外に行われる緊急内視鏡では,限られた医療従事者で対応せざるを得ない状況もある.そのため,診療時間外に使用したスコープの洗浄消毒は,それに不慣れな医療従事者が対応することが多いと考えられる 1).
スコープ洗浄が遅れると,スコープ表面や鉗子チャンネル,ボタン装着部にタンパク質や血液が残存し,これがバイオフィルム形成や病原体繁殖の原因となる可能性がある 2)~4).実際,不充分な洗浄や洗浄までの遅延が原因で感染症が発生した事例が報告されている 1),5)~9).したがって,診療時間外であっても,内視鏡メーカーが推奨する方法に従い,迅速にスコープ洗浄を行う必要がある 2),10)~12).
スコープ使用後から洗浄開始までの時間と感染リスクに関する高いエビデンスは存在しない.しかし,各国のガイドラインでは具体的な推奨時間が示されている.例えば,英国消化器病学会(British Society of Gastroenterology:BSG)ガイドラインでは使用後3時間以内,ASGEガイドラインでは1時間以内,ヨーロッパのESGE/ESGENAガイドラインではベッドサイド洗浄後30分以内の用手洗浄を推奨している 2),6),10)~13).特に胆道系の内視鏡診療では感染リスクが高いため,ERCP用の十二指腸スコープやコンベックス型EUSスコープのような鉗子起上装置があるスコープでは,その部分を含めた用手洗浄が重要である 2),5),14)~20).
スコープ再処理にはベッドサイド洗浄,用手洗浄,自動洗浄消毒機による高水準消毒,乾燥といった過程が含まれるが,診療時間外にどこまで行うべきかについての明確なエビデンスは存在しない.ただし,用手洗浄まで行うことで病原体を99.9%以上減少できることが示されている 1),7),10),11).
医療従事者不足で緊急内視鏡が続く状況では,洗浄開始までに時間を要することがある.このような場合,スコープを酵素洗浄液に浸漬する方法があるが,浸漬時間が長すぎるとバイオフィルム形成やスコープ損傷のリスクがある.したがって,やむを得ず浸漬をする場合には可能な限り短時間とするべきであり 1),4),9),20),各施設では洗浄が遅れた際の対応方法をあらかじめプロトコルとして定めておく必要がある 21).
本CQにおいて,ガイドライン作成委員の間では「強い推奨」とすべきか「弱い推奨」とすべきかで意見が分かれた.この背景には,診療時間外における使用後のスコープの洗浄消毒体制が充分に整備されていない施設が多い現状があり,医師の働き方改革によりその傾向はさらに顕著になっている.診療時間外での使用後のスコープが不充分な洗浄状態のまま放置されることが懸念され,翌日に熟練した医療従事者による再洗浄および自動洗浄消毒機による高水準消毒を行う必要がある場合もある.したがって,各施設において,診療時間外のスコープ洗浄消毒方法を明確に定めるとともに,定期的な教育を実施することが重要である 1),9),14),20).スコープの品質の担保は,消化器内視鏡診療を提供する施設の責務であり,夜間診療においても適切にスコープが洗浄消毒される体制作りが必要である.
以上の議論を踏まえ,休日や夜間など診療時間外の緊急内視鏡においても,使用したスコープを可能な限り迅速に洗浄消毒することを推奨する.ただし,自動洗浄装置による高水準消毒が困難な場合でも,最低限ベッドサイド洗浄と用手洗浄を実施すべきである.
2.ベッドサイド洗浄および用手洗浄の重要性と重視すべきポイントBQ8:スコープのベッドサイド洗浄(予備洗浄)は必須か?
ステートメント:スコープのベッドサイド洗浄(予備洗浄)は必要である.
解説:
使用後のスコープ内外には粘液・血液などの汚染が付着しており,これらを除去することにより汚染度を減らしてから次工程に移すことができる 1)~3).スコープ外表面をガーゼで拭い,吸引する洗浄剤にはスコープの材質に影響を与えない中性またはアルカリ性の酵素洗浄剤を用いる.また,吸引チャンネルの洗浄には200mL以上の洗浄剤の吸引を行う 4)~7).一部メーカーでは,清潔な水の吸引で可としている.スコープ内外の汚染物が乾燥してしまうとその後の洗浄効果が落ちてしまうため,ベッドサイド洗浄は手技終了後速やかに行う必要がある 1),2),7).使用後速やかに行う点が重要であることから,手技終了後すぐに洗浄消毒室で洗浄剤の吸引が行える環境下では「ベッドサイド」という用語に拘泥せずともよい可能性が示唆される.
BQ9:スコープの自動洗浄消毒機による高水準消毒前に用手洗浄を行うべきか?
ステートメント:使用されたスコープは,自動洗浄消毒機による高水準消毒前に,必ず用手洗浄を行う.
解説:
スコープ使用後は,速やかにベッドサイド洗浄を行った後,内視鏡室と離れた場所に存在する洗浄室にスコープを適切に運搬し,漏水チェックに引き続き,自動洗浄消毒機による高水準消毒を行うが,その前に必ず用手洗浄を行うべきである 1)~8).自動洗浄消毒機による高水準消毒前に用手洗浄を施行した群と施行しなかった群のATP値や細菌培養に関するエビデンスの高い比較研究はみられない.しかし,自動洗浄消毒機による高水準消毒だけでは,スコープ表面,チャンネル内,ボタンや鉗子栓装着部の洗浄が不充分である.用手洗浄をしない場合,タンパク質がスコープ表面や鉗子チャンネルなどに固着してしまい,バイオフィルム発生の原因となり,スコープを介した感染伝播につながるリスクがある 2),9)~11).一方,充分な用手洗浄を行うことで,ATP値が著明に低下し,病原体の量を99.9%以上減少できるとされており,スコープ洗浄の過程において,用手洗浄が最も重要であるともいえる 1),2),6),12)~14).また,用手洗浄を行うことで,自動洗浄消毒機による高水準消毒も有効になる 15).スコープ使用後から洗浄までの時間も短いほどタンパク質や病原体を減らす効果があるとされ,用手洗浄までの時間は1時間以内 1),2),ベッドサイド洗浄から用手洗浄までの時間は30分以内 3)が望ましいとされている.
用手洗浄は,適切な広さと深さと性能を有した洗浄室の洗浄シンク内で,内視鏡メーカーが作成した取扱説明書や洗浄プロトコルに従って行う 1),3),6),7),16).まず,スコープの付属品である送気・送水ボタン,吸引ボタン,鉗子栓をスコープから取り外し,それらを洗浄剤で洗浄することに始まる 5),16).次に,酵素系洗浄剤を用いて,スポンジやガーゼなどの柔らかいものでスコープ全体を洗浄する(清拭洗浄) 5).特にスコープの操作部から挿入部と先端部を入念に洗浄する.ERCPで使用される十二指腸スコープやEUS-FNAで施行されるコンベックス型(リニア型)EUSスコープのように,先端にキャップや鉗子起上装置があるスコープは複雑な構造であり,洗浄も不充分になりがちである 1),7),17)~23).実際,これらのスコープを介した重篤な感染症発生が世界的に報告され,問題視されている 24)~28).したがって,それらのスコープ先端の洗浄は,専用の小型ブラシを使用してより丁寧に行うべきである(ブラッシング洗浄).十二指腸スコープでは,先端キャップを必ず取り外して洗浄を行う 5),21).近年は先端キャップがディスポーザブルである十二指腸スコープが開発されているが 19),23),それでも先端構造が複雑であることに変わりはなく,用手洗浄の方法や回数の工夫 29),使用するブラシの改良 30)が必要と考えられている.
次に,すべてのチャンネルを,適切な長さとサイズのチャンネル専用洗浄ブラシでブラッシング洗浄を行う 6).ブラシには,単回使用(シングルユース)のものと再使用可能なもの(リユース)があり,通常の洗浄作業では,いずれを用いてもよい.しかし,再使用可能なブラシを使う場合には,破損や屈曲がないものを使うべきである 5),31).また,ERCP用スコープでは単回使用ブラシの使用が推奨されている 7),18),30).そのうえで,ブラシに粘液や血液などの汚れがつかなくなったことを目視で確認できるまで,繰り返しブラッシングを継続する 5),31).副送水管路があるものは,専用のアダプターで洗浄を行う.さらに,送気・送水ボタン,吸引ボタン,鉗子栓装着部,鉗子挿入口から鉗子チャンネル分岐部までは,チャンネルブラッシングで使用したものと異なる小型の専用ブラシで洗浄を行う 5),6).洗浄後は流水でよくすすぐ.特に鉗子栓は汚れが落ちにくいため,充分な洗浄が必要である 5).しかし,用手洗浄後に自動洗浄消毒機による高水準消毒を行っても,ATP高値や病原体培養陽性となる研究結果も報告されている 17),32)~34).したがって,使用後速やかに用手洗浄を行うことを前提としながらも,治療で長時間使用されたスコープや鉗子起上装置があるスコープでは,さらに丁寧な用手洗浄が要求される可能性がある 29).
なお,スコープ使用終了後から洗浄開始が遅れてしまった場合には,内視鏡メーカーが推奨した方法で洗浄を行う 6),11),35).用手洗浄は,洗浄を担当する医療従事者に感染リスクがある点も問題である.この改善策として,用手洗浄用の自動機器が開発されている 36).また,鉗子チャンネル内の洗浄効果や損傷を観察できる超細径スコープ(borescope)も開発されている 2),33),37)~39).しかし,それらの有効性は今後の検証が必要である.
BQ10:使用後のスコープに毎回漏水テストは必要か? 漏水が確認された場合はどうするのが適切か?
ステートメント:ベッドサイド洗浄後に毎回漏水テストを行う.また,漏水が確認された場合には,使用せず修理に出す.
解説:
漏水テストはベッドサイド洗浄の後,用手洗浄中にスコープを洗浄剤に浸す前に実施する 1).漏水テストによる故障の発見率は0.14〜0.16%と低いが 2),スコープ内への水侵入による故障,高額修理を回避するためには毎回のテストによる早期の故障発見が重要である 3),4).漏水が確認された場合には,そのスコープは使用せずに速やかに修理に出す必要がある.ベッドサイド洗浄,および内視鏡チャンネルおよび管路全体の洗浄とブラッシングを伴う手動の洗浄は,残渣,血液,体液を除去するための最も重要なステップである 5).洗浄後に残存したタンパク質は,乾燥や不適切な化学薬品の使用によって固定化される可能性がある.洗浄とすすぎのステップが正しく行われなかった場合,バイオフィルム形成の可能性がある.グラム陰性菌の中には20~30分ごとに細胞分裂を繰り返すものもあるため,細菌の増殖や残渣が表面上で乾燥し始め,バイオフィルムの形成を促進する前に,すべてのスコープ洗浄を迅速に完了することが不可欠である 6).また,多くのアウトブレイクにおいて,スコープ内部の小さな亀裂がメンテナンスや修理に出された際に確認された 7)~9).ガラスレンズの裏側や起上鉗子装置の周囲に小さな欠陥が確認され,これらが細菌の侵入口となり,その後のバイオフィルム形成につながった可能性がある.漏水テストは重要であり,特にスコープの先端に潜在的な小さな欠陥や微小損傷がないか,目視検査を全洗浄終了後に行うことが推奨される 5).微小損傷による危害を防ぐために,内視鏡メーカーは定期的なメンテナンスと特定の部品の定期的な交換を推奨しており,ESGE/ESGENAガイドラインでは,3カ月ごとの定期的な微生物学的サーベイランスを推奨している 10).スコープの漏水テストは,感染伝播や患者傷害の予防に役立ち,修理費用の削減やスコープの寿命延長に役立つとされる 11).医療従事者が漏水テスト手順を熟知し,実践することとともにスコープの定期検査,メンテナンスを行うことが重要である.
BQ11:送気・送水ボタン,吸引ボタン,鉗子栓は毎回スコープから外して洗浄する必要があるか?
ステートメント:送気・送水ボタン,吸引ボタン,鉗子栓などの洗浄は毎回それぞれスコープから外して行う.ディスポーザブル製品に関しては,検査後に廃棄して新しい製品を装着する.
解説:
送気・送水ボタン,吸引ボタン,鉗子栓などの内視鏡付属品は,使用後はスコープから外し,体液や付着物が器具に乾燥して固着するのを防ぐため,速やかに手動で洗浄する 1).手動洗浄時は製造元の推奨事項に従い正しく分解し,スポンジやブラシを用いて外部表面を清掃する.複雑な付属品は特に徹底したブラッシングが必要である.ボタンや鉗子栓はブラシを用いて穴の部分まで洗浄し,鉗子栓は蓋をあけてブラシで洗浄した後に,充分に揉み洗いをする必要がある 2),3).
近年は鉗子栓などディスポーザブル製品も使用されており,これらは検査後速やかに廃棄し,新しい製品を装着する.
CQ5:吸引・送水シリンダー,チャンネルの適切な洗浄方法は何か?
ステートメント:専用の洗浄ブラシを用いてすべてのチャンネルをブラッシングした後に自動洗浄消毒機を用いることを推奨する.
Delphi法による評価 中央値:9 最低値:8 最高値:9
推奨の強さ:1,エビデンスレベル:C
解説:
ブラッシングを行う部位は,吸引ボタン取付座から吸引口金までと,吸引ボタン取付座から鉗子出口まで,鉗子挿入口から鉗子チャンネル分岐部までの3カ所である 1).副送水口や2チャンネルスコープなど特殊管路を持つものは,使用に関わらず洗浄消毒する必要がある.スコープのブラッシングは洗浄剤浸漬下で行い,シリンダーや鉗子口をシリンダー用洗浄ブラシで洗浄する.チャンネル専用ブラシによる洗浄は,スコープ・チャンネルのサイズとタイプに適合した長さと直径のブラシを選択し,先端から出たブラシに汚れが付着していないことを目視で確認できるまでブラッシングを行う必要がある 1).また,ブラッシング時には,洗浄ブラシが挿通できず,スコープや洗浄ブラシが故障または損傷する可能性があるため,各内視鏡メーカーが定める取扱説明書に従い 2),3),スコープの挿入部が丸まらないように留意し,ブラシをまっすぐゆっくり挿入し引き抜く.
洗浄ブラシにはリユーザブル製品とディスポーザブル製品があり,ディスポーザブル製品にはブラシ型,スポンジ型,球状型など様々な形状の製品が上市されている.ブラシ型には片端チャンネルブラシと両端チャンネルブラシがあり,両端ブラシは引き抜くことで片端ブラシを2回通した場合とATPによる検討で有意差はなかったと報告されている 4).ブラシ型はチャンネルに対して毛がチャンネル内のすべての表面に接触するように洗浄する必要があるのに対して,スポンジ型は内腔に対して面として洗浄可能であり,チャンネルを傷つけにくいのが特徴である.また,カートリッジ内の多孔質繊維構造体の球状ブラシを吸引しスコープ内部を洗浄する球状型も販売されており,チャンネル内面を傷つけにくいだけでなく洗浄手技による影響を受けにくいとされる 5).
ディスポーザブルブラシは,毛が損傷していないため遺残組織がなく,安定した洗浄が可能なことから,欧州および各国のガイドラインでは,ディスポーザブル製品の使用が推奨されている 6)~8).一方,リユーザブルブラシは,毛が充分に洗浄されていない可能性や,損傷したブラシによってスコープの内面を損傷する可能性がある.これらによる交差汚染を避けるため,リユーザブルブラシは使用後の充分な超音波洗浄および滅菌が重要である.また,スコープ洗浄時に別の破損した洗浄ブラシ片がチャンネルに遺残していた事例や,術中にチャンネルから洗浄ブラシ先端部が患者体内に脱落した事例も報告されており,洗浄ブラシの使用前後に毛抜けやブラシ部の屈曲,先端部の脱落などの異常がないこと,ブラッシングの度に洗浄ブラシに異常がないことを確認するよう,医薬品医療機器総合機構から注意喚起がなされている 9).
BQ12:十二指腸スコープの先端キャップは外して洗浄消毒する必要があるか?
ステートメント:十二指腸スコープは先端キャップが外れるタイプを用い,外して洗浄消毒する必要がある.
解説:
1980年代からERCP後の多剤耐性腸内細菌のアウトブレイクの報告があったが 1)~3),2010年代になり十二指腸スコープが持つ鉗子起上装置などの複雑な先端構造に起因することが指摘され 4),2015年にはFDAが十二指腸スコープに関する安全情報を報告した 5).その中で通常の洗浄法では十二指腸スコープの先端部の洗浄消毒が不充分であることから,鉗子起上装置やその周辺はブラシで用手洗浄を行うことが推奨されている.近年,日本および海外で流通している機種では,先端部のキャップを取り外せるようになっており,洗浄消毒に関して有利である 6).
FDAの報告を受け,本邦でも厚生労働省から,十二指腸スコープ洗浄消毒には先端キャップを取り外し,専用のブラシを用いて丁寧に洗浄するよう注意喚起が行われている 7).また,消化器内視鏡の感染制御に関するマルチソサエティ実践ガイド 8),9)でも十二指腸スコープの洗浄に際しては先端キャップを外した洗浄を強く推奨している(推奨度Ⅰ;必須の要件).
また,自動洗浄消毒機で洗浄消毒を行う際にも,鉗子起上装置が洗浄剤に充分浸かるように半起上状態とすることで,より消毒効果の向上が期待できる.副送水管は用手洗浄ができない部位で,十二指腸スコープにおいては鉗子起上装置につながる経路であり,酵素洗浄剤による充分な洗浄が強く望まれる.取扱説明書ではベッドサイド洗浄の送液を推奨している.
最近は鉗子起上ワイヤーが内装化された機種が発売され,これにより鉗子起上ワイヤー管路が廃止され送液作業が不要となった 10).洗浄の際には専用の先端送液アダプターにより鉗子台周りに直接アルカリ洗剤と過酢酸消毒液が送液される.また,着脱式の先端キャップもシングルユースのものが発売されている 11),12).このように,スコープおよび周辺機器の再処理作業の効率化,簡素化が図られ,感染予防に少なからず貢献していると考えられる.
以上を踏まえ,十二指腸スコープの洗浄消毒は,内視鏡メーカーや内視鏡洗浄消毒機メーカーによる取扱説明書に記載の手順に従って行うことが必要である.
3.自動洗浄消毒機の重要性と使用方法・各消毒薬の特徴BQ13:スコープの洗浄消毒には,自動洗浄消毒機を用いるべきか?
ステートメント:スコープの適切な洗浄消毒工程には,自動洗浄消毒機を用いる必要がある.
解説:
消毒薬の効果は有効成分の濃度,接触時間,温度の三要素によって大きく影響を受ける.規定濃度への希釈,規定温度,規定時間での適切な消毒工程のためには,自動洗浄消毒機を用いる必要がある.不適切な洗浄,消毒による感染事例が報告 1)されており,WGO(World Gastroenterology Organization)は自動洗浄消毒機の使用を推奨している 2).また,2021年のASGEおよび関連学会による「軟性消化器内視鏡および付属品の再処理に関するマルチソサエティガイドライン」でも,高水準消毒は自動洗浄消毒機を使用して行うことが強く推奨され 3),前版に相当する「軟性消化器内視鏡の再処理に関するマルチソサエティガイドライン」 4)に比し強い勧告となっている.
用手による消毒と比較した自動洗浄消毒機を用いた消毒の利点として,①洗浄消毒ステップの自動化,標準化,②不可欠な工程の省略リスク低減,③スコープの消毒およびすすぎが確実かつ安定的に行われること,④すべてのチャンネルに適切に注水されること,⑤洗浄剤・すすぎ液の単回使用,消毒薬の適切な使用により,他のスコープへの交差感染を回避できること,⑥消毒薬の眼,皮膚,気道への曝露が減少すること,などが挙げられ,洗浄消毒の均一化,人体への消毒薬曝露防止,作業量の軽減などが期待できる 5),6).
一方,内視鏡自動洗浄消毒機を用いない場合は,洗浄消毒後,スコープ外表面,チャンネルおよび管路内のすすぎを充分に行う必要がある.グルタラール,フタラール,過酢酸を用いた消毒後のすすぎが不充分な場合,残留したこれらの高水準消毒薬によって有害作用が生じる.チャンネル内のグルタラール残留によると考えられる直腸結腸炎 7)や過酢酸残留によると考えられる大腸炎の報告 8),さらにフタラールについては,膀胱鏡後のアナフィラキシー症状 9)や経食道心エコープローブ等の医療機器を使用した患者における口唇・口腔・食道・胃等への着色,粘膜損傷,化学熱傷等の症状出現 10)といった報告がみられる.また,フタラールは有機物と強固に結合する性質を持つため,洗浄が不充分なスコープをフタラールで消毒すると,すすぎを行っても消毒薬がスコープに残留する危険性がある.また,充分なすすぎを行うことに加え,過敏症の既往がある患者にはその消毒薬で消毒した医療器具を使用しないように注意する必要がある.
標準的な再処理に準拠することで,スコープを介した感染伝搬はほぼないとされるが,十二指腸スコープに関しては,自動洗浄消毒機を用いても効果的に消毒できない部分が存在する.特に先端キャップが外れない十二指腸スコープが主体であった米国では2014~2015年にかけて,カルバペネム耐性腸内細菌科細菌によるアウトブレイクが相次いで報告された 11)~14).十二指腸スコープは先端のキャップを取り外してのブラッシングと,鉗子起上ワイヤー管路や副送水管路洗浄が必要であり,適合した自動洗浄消毒機を使用する必要がある.
医療機器の適正使用と機能維持は,施設の責任であり,機器の日常点検および自己消毒(管路内消毒)を実施する必要がある.自動洗浄消毒機の欠陥による感染のアウトブレイクが報告されている 15),16)ように,適切なメンテナンスがされなかった場合,感染や機器の破損につながるおそれがあるだけではなく,機能の確保ができない.使用する機器の『取扱説明書』に記載された点検項目を定期的に点検し,消耗品(接続チューブ,フィルターなど)を適切に交換することが重要である.各メーカーで機器の耐用期間が設けられているが,使用頻度などの諸条件により異なるため,業者による定期保守点検を必ず受けることが求められる.装置内部・管路を清潔に保つため,給水管路の消毒および水フィルターの定期交換も推奨される.
BQ14:高水準消毒薬として使用可能な薬剤は何か?
ステートメント:高水準消毒薬には,過酢酸,グルタラール,フタラールの3種類が適合し,取り扱いには各々の特性を理解して充分に注意する必要がある.
解説:
スコープに関連する微生物として,ヘリコバクターピロリ菌,サルモネラ菌,緑膿菌,病原性大腸菌による感染例やHBV,C型肝炎ウイルス(HCV)の感染が報告されている 1).グルタラールはアルデヒド系消毒薬でアルデヒド基が菌体成分のSH基またはNH2基と反応し,また,微生物のタンパク質合成・DNA合成を阻害することにより殺菌効果を示す.芽胞形成菌を含むすべての微生物に有効である 2)~4).有機物存在下でも不活性化されにくく,材質を傷めにくいという利点を持つ.枯草菌に対する殺芽胞効果は,60分以内に生存芽胞を著しく減少させる.フタラールはグルタラールと同じアルデヒド系消毒薬である 5).物質適合性に優れるが,有機物の付着があるとタンパク質を凝固させ黒く変色させる.枯草菌の芽胞の殺滅に48~96時間が必要になるため,本薬の芽胞形成菌に対する使用は勧められない 6),7).過酢酸は最も強力な抗菌効果を示す消毒薬である.すべての微生物に有効であり,ウイルスや結核菌を5分間,枯草菌の芽胞を10分間以内という短時間で殺滅できる.ヒドロキシルラジカルの生成による細胞のタンパク質変性と輸送の阻害,代謝の必須酵素の不活化,細胞膜とその透過性の破壊,核酸の変性・破壊などにより殺菌効果を示す 8).グルタラールやフタラールと異なりタンパク質を凝固させないため,バイオフィルムの形成は生じないが,強力な酸化剤であるため金属腐食性が高い(Table 5).プリオンに対してはこれまで内視鏡を介したプリオンの感染事例の報告はないが,現在の技術では殺滅する方法はない.プリオンに感染した症例に用いた内視鏡機器は,再処理するのではなく焼却処分する必要がある 1).

高水準消毒薬の特徴.
高水準消毒薬は刺激性や毒性が強く,付着や蒸気曝露に充分注意する 9)~12).過酢酸,グルタラールおよびフタラールが皮膚に付着すると,皮膚炎や化学熱傷が生じる.フタラールが皮膚に付着すると皮膚表面のタンパク質と反応し皮膚着色が生じる.過酢酸は,マウスの皮膚に適用した非臨床試験において,弱い発がん物質であるとの報告がある 13).また,高水準消毒薬の蒸気は,眼,鼻,咽頭,呼吸器等の粘膜を刺激して,結膜炎や鼻炎などの原因になるため,換気のよい場所で,手袋,ガウン,マスク,保護メガネを着用して取り扱う必要がある.特に薬液交換時や自動洗浄消毒機の蓋の開閉時および侵漬作業時には丁寧に扱うことが必要である 14).洗浄消毒時は,換気装置や窓の開放などにより充分な換気を行い,排気先は人体や植物から充分遠ざけることが望ましい.内視鏡自動洗浄消毒機を用いても,消毒薬の蒸気曝露を避けることはできず,換気対策が必要である.特に,グルタラール使用の際は,曝露限界値0.05ppmを超えないような作業環境曝露対策が必要である.フタラールはグルタラールに比べて蒸発しにくく,刺激臭が少ないという利点がある.過酢酸溶液は酢酸様の強い刺激臭を有する.なお,いずれの薬剤も蒸気での比重は空気より重い.このため,排気口は蒸気の発生源のできるだけ近く,洗浄装置の上縁より下側に設置し,空調の流れを利用したプッシュプル換気が望ましい 14).高水準消毒薬は使用期限と保管温度を守り,実用下限濃度以上で使用する.たとえ高水準消毒薬であっても,温度,濃度,時間が満たされていなければ充分な消毒効果は期待できないため,適切な管理と運用を実施することが求められる.
CQ6:機能水(強酸性電解水・オゾン水)をスコープの洗浄消毒に用いる場合の注意点は?
ステートメント:機能水でスコープの洗浄消毒を行う場合は,適切なベッドサイドおよび用手洗浄の実施,自動洗浄消毒機の管理,作業環境を遵守することを推奨する.
Delphi法による評価 中央値:9 最低値:7 最高値:9
推奨の強さ:1,エビデンスレベル:C
解説:
機能水とは『人為的な処理によって再現性のある有用な機能を付与された水溶液の中で,処理と機能に関して科学的根拠が明らかにされたもの(および明らかにされようとしているもの)』と定義されている 1).強酸性電解水は,水道水に塩化ナトリウムを0.2%以下の濃度で添加し,陽極と陰極の間が隔膜で仕切られた二室型電解槽で電気分解することによって生成される殺菌活性の高い強酸性の水溶液である 2),3).オゾン水は,酸素分子に高電圧などのエネルギーを加えることによって生成するオゾンを水に溶け込ませ,高い殺菌・不活化活性を利用している 4).機能水は,有芽胞菌 3),抗酸菌 5)~7)や新型コロナウイルス 8),さらにHBV 2),9),ヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus:HIV) 10)などの消毒に有効である.しかしながら,機能水をスコープの洗浄消毒に用いる場合には必ず医療機器として認可されている自動洗浄消毒機を使用し,殺菌効果および安全効果を得るために各メーカーの定める使用方法・定期メンテナンスを遵守することが重要である.また,以下の点には特に注意する.
ベッドサイド洗浄および用手洗浄方法
有機物の多い環境下では,強酸性電解水は残留塩素濃度の低下,オゾン水は溶存オゾン濃度が低下するため,殺菌活性が容易に不活性化される.その限界は0.1%濃度の有機物であることが確認されている 11),12).そのため,スコープを機能水にて消毒するにはガイドラインに準じた適切なベッドサイド洗浄および用手洗浄を行う必要がある 13).
自動洗浄消毒機の管理
機能水は,生成直後のものを使用することが基本である.そして使用される原水の性状や自動洗浄消毒機の状態に注意し常に規定範囲の機能水が供給されるように管理する必要がある.強酸性電解水ではpHと残留塩素濃度,オゾン水では溶存オゾン濃度を使用前後で測定し,使用機種の規格値の範囲内であることを確認しなければならない.
作業環境
強酸性電解水からは塩素ガス,オゾン水からはオゾンガスが発生する.自動洗浄消毒機にはガスを除去する装置が内蔵されてはいるが,長期間の使用で金属腐食,ゴムや樹脂の劣化による有毒ガスの漏れの可能性があることを常に念頭におき,部屋の換気が必要である.そしてガス除去性能を常に維持するために各種メーカーの指示に従い,フィルター等の交換を必ず行う.
機能水による内視鏡機器の殺菌効果に関する検証として,『機能水による消化器内視鏡洗浄・消毒のあり方に関する調査委員会』や各医療メーカーによる洗浄後のスコープの洗浄後調査や消毒後のスコープの微生物学的評価(消毒評価)がなされており,消毒効果が示されている 1).
BQ15:高水準消毒薬の定期的検査は必要か?
ステートメント:有効成分の最小有効濃度を維持するために定期的検査が必要である.最小有効濃度未満であった場合には溶液を廃棄する.
解説:
高水準消毒薬は使用期限と保管温度を守り,実用下限濃度以上で使用する.たとえ高水準消毒薬であっても,温度,濃度,時間が満たされていなければ充分な消毒効果は期待できないため,適切な管理と運用をすることが望まれる.汚染されたスコープが自動洗浄消毒機と乾燥のサイクルを繰り返されると,バイオフィルムが蓄積する可能性があるとされており 1),バイオフィルムは,微生物が自動洗浄消毒機を生き延びるための保護環境を提供するため,自動洗浄消毒機にかける前にスコープの汚染を評価することが大切である 2),3).高水準消毒薬だけが適切な管理ができていたとしても汚染されたスコープが自動洗浄消毒機にかけられるリスクがあるため,欧州ガイドラインでは,3カ月ごとの定期的な微生物学的サーベイランスを推奨しており 4),高水準消毒薬においても定期的な検査を行い,結果を明文化することが重要である.
グルタラールは2%以上の濃度で使用し,10分以上浸漬する 5).フタラールは0.3%以上の濃度で使用し,10分以上浸漬する.フタラール,グルタラールの消毒時間は添付文書のそれとは異なっているが,英米での現状を勘案した消毒時間が示されている 5),6).過酢酸は20℃に加温してから0.2%以上の濃度で使用し,5分以上浸漬する.緩衝化剤を添加したグルタラールは経時的に失活するため,自動洗浄消毒機で3.5%製品を用いる場合は28日間もしくは50回が使用の目安となり,装置によって使用回数を確認することが必要である.フタラールは緩衝化剤の添加が不要であるため,グルタラールのような経時的分解は生じない.そのため,水による希釈(使用回数)のみを考慮すればよく,自動洗浄消毒機では30〜40回を使用の目安とする.緩衝化剤を添加した過酢酸は経時的に分解するため,自動洗浄消毒機では使用日数と水による希釈(使用回数)とを考慮して,7〜9日間もしくは25回を使用の目安とする 7).最小有効濃度未満であった場合には溶液を廃棄することが重要である.
4.処置具の再生処理とディスポーザブル製品の推奨BQ16:再使用可能な処置具の洗浄滅菌や再使用時の注意点は?
ステートメント:再使用可能な処置具は,洗浄滅菌の方法を正しく理解したうえで使用し,劣化を認めた場合は速やかに廃棄する.
解説:
感染リスクならびに性能劣化の懸念から,近年の消化器内視鏡処置具の多くは単回使用製品(シングルユース)が採用されている.しかし,現在でも生検鉗子,把持鉗子,クリップ鉗子,ポリペクトミー用スネア,切開ナイフ,ERCPカテーテル,パピロトームなどで再使用可能なものが販売されており 1),2),単回使用製品によるコストや医療廃棄物の増加の観点から使用されている 3)~5).しかし,再使用可能な処置具も,洗浄や滅菌に要する環境整備,コストや時間,耐用年数などの問題があり 3),5),6),BSGガイドラインでは単回使用処置具が使用できない場合に限定して再使用可能な処置具を使用すべきと述べている 7).
生検鉗子のような粘膜を通過して無菌組織に入る処置具は感染リスクが高く,Spaulding分類ではcritical器具に分類される 1),2),8),9).実際に,生検鉗子の不適切な再生処置による感染事例が報告されており,適切な洗浄と滅菌をする必要がある 2),10).再使用可能な処置具は,用手洗浄や酵素系洗浄液への浸漬(浸漬洗浄)だけでは不充分であり,用手洗浄に加えて超音波洗浄装置を使用して微細な部分の汚れを落とす必要がある 1),2),11).また,耐熱性のある再使用可能処置具の滅菌は高圧蒸気滅菌も行い,滅菌後は適切な温度と湿度の清浄な場所に保管する 2).
再使用可能な生検鉗子に関するコストと性能に関する研究において,15~20回使用できればコスト面で再使用可能製品のメリットがあるが,それ以前に劣化をしてしまった場合にはコストも性能も単回使用製品が優れているとされる 12)~14).また,再使用可能な生検鉗子の場合,劣化に伴い性能が低下するとともに,感染リスクが懸念される 12)~14).したがって,再使用可能な処置具は使用により劣化するため,劣化を認めた場合には速やかに廃棄すべきである.
CQ7:プリオン病患者に用いたスコープの再利用は可能か?
ステートメント1:孤発性クロイツフェルト・ヤコブ病患者に使用したスコープについては,標準的な再処理後の再利用が可能と考えられているが,臨床的に変異型との区別が難しい症例もあり,再利用を慎重に判断することを推奨する.
Delphi法による評価 中央値:9 最低値:7 最高値:9
推奨の強さ:2,エビデンスレベル:C
ステートメント2:一方で,変異型クロイツフェルト・ヤコブ病においては,感染性を保持する可能性を否定できないため,使用したスコープは再利用せず,適切に隔離・処分することを推奨する.
Delphi法による評価 中央値:9 最低値:8 最高値:9
推奨の強さ:1,エビデンスレベル:C
解説:
プリオン病は,異常プリオン蛋白質(プリオン)によって引き起こされる人獣共通感染症であり,急速進行性認知症,運動失調,ミオクローヌスなど多彩な神経症状を特徴とする致死的な神経変性疾患の総称である 1).正常プリオン蛋白質は主として中枢神経系に発現しているが,扁桃,回腸末端,虫垂などのリンパ系組織を含む消化管関連組織にも発現していることが知られている.正常プリオン蛋白質の高次構造が変化し異常型へ転換されると,プリオンが自己増殖的に急速に蓄積し神経細胞障害が生じる.これは核酸を介して宿主細胞内で増殖し,種々の症状を来す細菌やウイルス感染症とは本質的に異なる疾患の進展様式であり,通常の社会的接触を介して人から人へ伝播することはない.しかし,医療行為を介したプリオンの個体間伝播が報告されており,わが国では感染症法上5類感染症に分類されている 1).
プリオンは感染性蛋白粒子であり,通常の細菌・ウイルスに用いられる一般的な消毒・滅菌法に対して高い抵抗性を示す.確実な不活性化として,高温による焼却の他,高濃度水酸化ナトリウム処理や次亜塩素酸ナトリウムによる高濃度塩素処理,高温高圧蒸気滅菌などを組み合わせた処置が推奨されている.しかし,材質や構造上の制約から熱による滅菌に耐えられない消化器内視鏡においては,これらの方法を適用することは困難であり,プリオンの完全な不活性化はできない 2).
消化器内視鏡はリンパ系組織を含む消化管粘膜に直接接触するため,理論的にはプリオン伝播の媒体となる可能性が否定できない.しかし,ヒトに発症するプリオン病の大半を占める孤発性クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)では,感染性を有する組織は主として中枢神経系や眼に限局しており,消化管リンパ系組織における感染性は極めて低いとされている.そのため,孤発性CJDでは消化器内視鏡がプリオンに汚染されるリスクは非常に低く,標準的な再処理を行ったスコープを介した感染リスクは無視できると考えられている 3),4).実際,米国疾病予防管理センターも孤発性CJD患者に使用した消化管軟性内視鏡については通常の洗浄消毒法を変更する必要はないとしており 5),孤発性CJD患者に対する消化器内視鏡検査は一般医療施設においても施行可能と考えられている.しかし,臨床的に変異型との鑑別に苦慮する症例もあり,再利用の判断は慎重にすべきである.
一方,現在世界的に発生がほぼ制御されている変異型CJDでは,扁桃や腸管パイエル板などのリンパ系組織に比較的高レベルのプリオンが存在することが知られている 1).このため,消化器内視鏡検査によりスコープが汚染され,長期間にわたり感染性を保持するリスクが否定できない.したがって,変異型CJD確診例では,他の検査で代替可能な場合には消化管内視鏡検査自体を回避することが望ましく,必要に応じて専門施設への依頼を検討すべきである.やむを得ず変異型CJD確診例に消化器内視鏡検査を実施する際には,感染拡大リスクを最小限に抑えるため細心の注意を払う必要がある.観血的処置によって感染リスクはさらに高くなるため,生検鉗子などはディスポーザブル製品を用いるべきである.
近年ヨーロッパから報告された総説では,変異型CJD患者に対する使用後のスコープは,可及的速やかに適切な用手洗浄とアルカリ洗浄液を用いた高水準消毒の実施が推奨されている.この際,洗浄用ブラシおよび洗浄液を単回使用とすることの重要性も指摘されている 6).また,再処理後には他のスコープは隔離し,最終的に焼却処分とすることが望ましく,一般患者への使用は避けるべきである 7),8).
臨床上特に問題となるのは,変異型CJDの潜伏期間あるいは変異型CJDかどうか不明の患者への対応である.医原性伝播を回避するため,これらの症例に対しても確診例に準じた対応を行い,スコープの使用・洗浄・再処理履歴を適切に管理することが重要である 2).
5.標準的な感染予防策BQ17:内視鏡診療の際に遭遇する各種感染症と該当する感染物質は?
ステートメント:ヒトの体液や血液などは感染源となりうるという原則のもと,内視鏡診療の際には想定される病原微生物やその感染経路に応じた対策が必要である.
解説:
内視鏡検査における感染の経路には内因性 1)と外因性 2)がある.内因性感染とは宿主(被検者)が保有する微生物の自己感染であり(胆管造影後の胆管炎・菌血症や口腔内微生物による誤嚥性肺炎など),一方,外因性感染(交差感染)とは宿主の体外から侵入した病原体による感染にあたり,内視鏡検査においてはスコープや処置具を介した被検者間の感染が問題となる.
感染経路は,「patient-to-patient」,「environment-to-patient」,「patient-to-staff」に大別される(Table 6).「patient-to-patient」の感染は,患者の体液や血液の付着したスコープ・処置具に対する不適切な再使用・洗浄消毒に起因する接触型交差感染により生じる 3)~6).古くは,まだスコープの再処理を用手洗浄中心に行っていた時代に報告されたB型肝炎ウイルス感染 7),8)や急性胃粘膜病変(acute gastric mucosal lesion:AGML)を機に感染が示されたHelicobacter pylori 感染 9),10)の報告がある.その後,サルモネラ菌 11)~13)・病原性大腸菌(O157)・C型肝炎ウイルス 8),14)・真菌 15)・原虫 16)など多種多様な病原微生物感染の報告がなされている.さらに特筆すべきは,十二指腸スコープにおいて多剤耐性を有する緑膿菌 17),18)・肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae) 19),20)・大腸菌 21),22)・Enterobacteriaceae 23)などの報告があり,死亡例も報告されている.適切なプロトコルに則したスコープの再処理に留意すべきではあるが,現行の高水準消毒薬を使用した標準的な再処理では限界が指摘されていることは認識すべきである 24),25).また,Clostridioides difficileにおいては現在までに消化器用のスコープを介した感染が証明された例はないものの,芽胞形成による消毒薬への抵抗性が高くその伝播には注意を要する.プリオンも内視鏡を介した感染の報告はないが,現在使用されている高水準消毒薬を使用しても殺滅・不活性化は困難であり,使用後のスコープを再利用しないことを推奨する.

内視鏡検査にて感染しうる病原微生物.
「environment-to-patient」の感染は,周辺環境に存在する病原微生物が被検者へ感染することにより生じ,医療従事者による媒介が危惧される.実際に,Clostridioides difficile,MRSA,VRE,Acinetobacter,ノロウイルスなどの病原微生物が医療従事者から拡散・媒介されている可能性を示す報告があり注意を要する 26)~28).スコープや処置具のみならず,内視鏡ユニット・生体モニター・高周波装置・PCなどの周辺機器,さらにはベッド・床など内視鏡室全体の環境はSpaulding分類 29)におけるnon-critical器具に分類され,中・低水準消毒や清拭が推奨されている.
「patient-to-staff」の感染は,被検者がすでに罹患していた病原微生物が内視鏡検査中に接近した医療従事者に感染することで生じ,感染を媒介する感染物質も空気感染,エアロゾル感染,飛沫感染,接触感染など感染経路により様々である.過去には結核 30)やHIV 31)の感染報告があり,個人用防護具(personal protective equipment:PPE)の装着はもちろんのこと,リスクに応じて感染対策医療用マスクの着用も考慮する必要がある.上部消化管内視鏡検査では,被検者の咳き込みや嘔吐反射で発生する飛沫や体液による曝露リスクが高く,またエアロゾルは上部・下部消化管内視鏡を問わずその発生が確認されている 32)~34).2019年に中国で報告されパンデミックを引き起こしたSARS-CoV-2の主な感染経路は飛沫感染・接触感染といわれているが,エアロゾル感染例 35),36)も多く報告されている.また,SARS-CoV-2は糞便中にも検出されており,下部消化管内視鏡検査の際にも接触感染・エアロゾル感染に留意すべきである 37),38).サージカルマスクではエアロゾルの防御は不充分であり,N-95などの感染対策医療用マスクの装着が必要と考える 39).
CQ8:内視鏡診療の際にはどのような感染対策が推奨されるか?
ステートメント:施行医および介助者は適切なPPEを装着することを推奨する.
Delphi法による評価 中央値:9 最低値:8 最高値:9
推奨の強さ:1,エビデンスレベル:C
解説:
感染対策の根幹となるのが標準予防策(standard precautions)である.これはすべての患者の血液,体液,分泌物,排泄物,損傷している皮膚,粘膜は感染性がある可能性を有するという原則に基づく予防策である.標準予防策では個人防護具として,血液,体液,分泌物等に触れる場合は手袋を着用し,それらの飛散が予測される場合には,マスク,眼保護具(アイガード,フェイスシールドなど),ガウンまたはエプロンを着用する.また,処置の前後に手指衛生を行う.
感染経路別予防策は,標準予防策に加えて,伝染性病原体ごとに感染経路遮断のために行われる感染予防策である.Table 7に経路別予防策の概要を記載する.

経路別予防策.
接触感染は汚染された中間物体や人を介さずに,ある感染者より非感染者に微生物が移行することによって生じるものと,汚染された中間物体や人を介して感染因子が伝播するものがある.適応される病原体または疾患は,MRSA,多剤耐性緑膿菌(multi-drug resistant Pseudomonas aeruginosa:MDRP),VRE,カルバペネム耐性腸内細菌目細菌(carbapenem-resistant Enterobacteriaceae:CRE)等の耐性菌感染症をはじめとして,CD,腸管出血性大腸菌等などの他,乳幼児におけるRSウイルスや,ロタウイルスおよびノロウイルス感染症等々が挙げられる.
内視鏡を介した接触感染においても,患者から医療従事者に生じるものと,患者からスコープなどの医療機器やベッドなどの周辺環境を介して医療従事者および他患者に生じるものがある.
患者から医療従事者への感染を防護するための対策を考慮する際にも前提・基本となるのは標準予防策である.適切なタイミング・方法での手指衛生は必須である.そして血液や体液,唾液や胃液からの曝露を防ぐために施行医および介助者は適切なPPEを装着することを必要に応じて行う.適切なPPEは手袋・袖付きエプロンまたはガウン・マスクおよび眼保護具(アイガード,フェイスシールドなど)である.経路別予防策で接触予防対策が必要な疾患・病原微生物に対しては手袋・ガウンまたはエプロンは必須となる.内視鏡施行時に施行医は適切なPPEを装着することが推奨される.
汚染された中間物体や人を介して感染因子が伝播するものとして,まずスコープの再処理が不充分である結果,汚染されたスコープを介して生じるものが挙げられる.近年,軟性内視鏡検査手技後に患者に感染症が発生するリスクはこれまで考えられていたよりも高く,施設により差があるという報告がされている 1).汚染されたスコープに関連するアウトブレイクの報告も認める 2).また,不適切な再処理されたスコープに患者が曝露し,重篤な感染症を来した報告も散見される 3)~5).スコープを介した感染では,上部消化管スコープを介して感染伝播したものとしてMDRPが伝播した報告がある 6).大腸スコープを介したものとしてはHCV,サルモネラが伝播した報告がある 7),8).十二指腸スコープを介した報告としてはアウトブレイクの報告が複数ある.十二指腸スコープはその構造的な複雑さ故の洗浄消毒の困難さがあり,上下部消化管スコープよりも報告が多いものとなっている.代表的なものとして2013年の米国イリノイ州で生じたCREの感染アウトブレイクは,ERCPの実施において使用された汚染内視鏡と関連し,合計39人の患者の感染が確認された 9).他にも米国各地からの十二指腸スコープを介したアウトブレイクの報告がある 10)~14).以上のように(消化器用の)スコープを介した多剤耐性菌の感染事例は海外で多数報告がある.本邦でもスコープを介した感染を防ぐために,使用後のスコープの再処理の重要性を認識する必要性があると考える.ベッドサイド洗浄→用手洗浄→高水準消毒→処理後の内視鏡の乾燥・保管という一連の流れと,各過程間でのスコープの運搬に関して,メーカーの取扱説明書に施設の規模・マンパワーに応じて可能な範囲で準拠する形で行うことが重要である.
また,スコープのみでなく,周辺機器(モニター,光源,送水装置,送水ボトルなど)および検査ベッドや枕などを介して医療従事者や別の患者に伝播する可能性も考えられる.上記のものが血液や排泄物で汚染された際には,汚染物を除去,清拭後に0.1%次亜塩素酸ナトリウムで清拭する.ベッドや枕は,特に,体液や血液,洗浄水などで汚染されやすいため防水性のものとし,シングルユースのシーツなどで覆うことが望ましい.そして多剤耐性菌を保有していることがあらかじめ分かっている患者では検査時間を最後にするなどの時間的隔離と,使用した後は検査室を通常清掃に加えて,患者が接触する可能性のある部位の感染清掃を行う必要性がある.
飛沫感染は感染性病原体を有する呼吸器飛沫により,感受性の高い粘膜表面へ直接間接を伝播する.鼻粘膜,結膜,頻度は低いが口腔が侵入門戸となりやすい.呼吸器飛沫は咳,くしゃみ,会話,吸引,気管内挿管,心肺蘇生などの処置中に発生する.飛沫直径は5μmより大きく,飛散する範囲は約2m以内である.
飛沫感染する疾患,病原体としては,インフルエンザウイルス,アデノウイルス,ライノウイルス,ムンプス,風疹,SARS -CoV-2,髄膜炎菌,百日咳菌などがある.医療従事者の対応としては,患者から2m以内に近づく際にはサージカルマスクを着用する.
空気感染は微生物を含む直径5μm以下の微小飛沫核の拡散によって起こる.気流によって長距離に拡散する可能性があり,対面接触をしたことのない人への吸入伝播する可能性がある.空気感染する感染病原体には結核菌,麻疹ウイルス,水痘(免疫不全者の,および播種性の帯状疱疹ウイルス)が挙げられる.内視鏡を行う部屋の管理としては,周囲の区域に対して陰圧に設定し,部屋のドアは常に閉めておく.医療従事者の対応としては部屋に入る際にはN95マスクを着用し,水痘および麻疹の患者に対してはこれらのウイルスに対して免疫を有する職員が対応する必要がある.
経路別予防策に関連することとして,近年の新型コロナウイルス感染症のパンデミックを契機にエアロゾル感染に対する注目が高まった.エアロゾルは定義的には気体中に液体もしくは固体の粒子が浮遊し広がっている状態のことを指す.エアロゾル感染というのは,従来,飛沫感染経路が主と考えられていたSARS-CoV-2も換気の悪い環境においては空気感染のように拡大することから提唱された考え方であり,飛沫(5μm以上)感染と飛沫核(5μm未満)感染を包含した意味合いとなる.SARS-CoV-2以外にも,まれにインフルエンザウイルスやノロウイルスもエアロゾル感染することが知られている.消化器内視鏡診療がエアロゾル発生手技であるかに関して,新型コロナウイルス感染症のパンデミック初期に行われたシステマティックレビューでは上部消化管内視鏡がエアロゾル発生手技であるかどうかは,論文により意見の相違が多く,断言できないとされる 15).また,アメリカのマサチューセッツ州の医療疫学の専門家グループが発出しているコンセンサスにおいても,上部消化管内視鏡はエアロゾル発生手技か否かを決定するのにエビデンスが不足しているとされる 16).一方で,透明プラスチック製の箱で頭部を囲い,その中でのエアロゾル数を測定するという報告を本邦から認める 17).この報告では内視鏡診療を行わない対象群と比較して,検査中および検査後のエアロゾル発生率を増加させるとされ(P<0.001),また,検査中のエアロゾル数を対象群と比較して増加させる(P=0.006)とされる.また,日本消化器内視鏡学会の『新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への消化器内視鏡診療についての提言 改訂第11版 2023年9月15日』では「消化器内視鏡診療においては,むせり・咳嗽誘発,鉗子口などが関与する飛沫感染や接触感染の他,空気中に排出されたエアロゾル化したSARS-CoV-2による空気感染も危惧されます」とされている.上部消化管内視鏡検査がエアロゾル発生手技か否かに関する結論はまだついておらず,今後さらなる知見の集積が望まれる.施行医は上部内視鏡がエアロゾルを発生しうる手技という認識を持ち,エアロゾル感染予防策を取るべきと考える.エアロゾル対策としては検査室の換気に留意し,N95マスクの使用も検討する.
本稿は,各種ガイドラインも参考にして記載を行った 18)~20).
BQ18:感染性の体液および血液がnon-criticalエリアに付着した場合の対応は?
ステートメント:汚染物を除去,清拭後に中・低水準消毒を行う.
解説:
Spaulding分類によるnon-critical器具に対する処理を行うことを基本とする 1)~3).Non-critical器具が血液や便などで汚染した場合,検査環境からの感染はほとんどないと思われるが,医療関連微生物(CD,VRE,MRSAなど)は数日間持続するため,他の患者への伝播の可能性がある 1)~5).また,HBVは乾燥した環境でも1週間生存し,感染能力がある 4)~6).このため汚染物を除去,清拭後に中・低水準消毒を行うことを推奨する.塩素系消毒薬では有機物があると効果が低下するため,使用前に汚染物を除去,清拭後に使用する 1)~5).様々な消毒方法がSARS-CoV-2を含むコロナウイルスを効果的に不活化する可能性も報告されている 7).また,新たな消毒方法の有用性も報告されている 8),9).
BQ19:消化器内視鏡診療に関連した病原体の水平伝播(アウトブレイク)が疑われる場合の対応は?
ステートメント:消化器内視鏡診療に関連した病原体の水平伝播(アウトブレイク)が疑われる場合,速やかに院内の感染管理部門もしくは近隣の保健所等に情報共有するとともに,該当する患者および医療従事者の健康状態を把握し,適切な対処を行うことが求められる.また,(消化器用の)スコープの再処理手順および再処理環境の調査を含めた感染源の特定と再発予防措置が必要である.
解説:
汚染された内視鏡機器や周辺環境を介して,被検者に細菌(多剤耐性菌を含む),ウイルス,寄生虫,プリオン病などの感染が発生する危険性がある.また,COVID-19や結核では,患者間のみならず医療従事者が空気感染する可能性もある 1)~3).
消化器内視鏡を介した病原体の水平伝播(アウトブレイク)が疑われる場合は,速やかに院内の感染管理部門もしくは近隣の保健所等に連絡し,患者および医療従事者の健康状態を把握したうえで,適切な拡大防止策を開始する必要がある.また,汚染が疑われるスコープの使用を直ちに停止し,スコープの再処理手順や保管環境を含む再処理体制についての調査を実施し,感染源の特定に努めることが求められる 4).
そのうえで,スコープの再処理手順の再教育,再処理装置や関連設備の点検・整備を実施し,再発予防措置を講じることが重要である.
6.教育FRQ2:洗浄消毒業務に関与する医療従事者のクオリティーコントロールは必要か?
ステートメント:洗浄消毒業務に関与する医療従事者は,感染に関する適切な知識が必要であり,クオリティーコントロールが望まれる.
解説:
欧米先進国では1970年代から消化器内視鏡を介した感染事故が報告されており,1980年代には洗浄消毒ガイドラインが策定され,処罰を伴う厳格な管理がなされている.しかし,そのような環境においても内視鏡検査後の感染や残留微生物検出に関する報告は近年でもみられており,原因の一つとして洗浄消毒員が定められた手順を遵守しないことが挙げられている 1),2).特に再処理の過程において手作業の段階が最もエラーを起こしやすいとされ 3),洗浄消毒員の再教育によって残留微生物レベルが優位に低下したことも報告されている 4).2021年の米国最新ガイドラインでは,エビデンスに基づいた勧告の一つとして洗浄消毒員の訓練および再処理技術能力の向上が挙げられ 5),洗浄消毒員教育の重要性が改めて注目されている.欧米では消化器内視鏡検査がほぼ専門施設で実施されるのに対し,本邦ではクリニックを含む様々な規模の施設で膨大な数の検査が行われており,感染予防を一定以上のレベルに維持するには洗浄消毒技術の標準化が求められる.しかし,現状では施設ごとの努力に依存しているに留まり,今後は中央管理による定期なe-learningなど,内視鏡洗浄消毒業務に関与する医療従事者の教育標準化に向けて,具体的な検討が望まれる.