抄録
臨床的に悪性黒色腫の胃転移と診断し,化学療法により病像が改善した1症例を経験したので報告した. 患者は57歳男性で,原発巣は右足底第4趾間の損傷部と推定され1978年1月に某医で切除術を施行された.1979年5月29日に悪性黒色腫の診断で当院皮膚科を紹介され入院した.同年7月5日より,DTIC・ACNU・VCRの化学療法を開始した.同年8月13日に胸やけを主訴として第3内科を紹介された. 初回胃内視鏡検査では,胃体上部後壁大彎側に単発する立ち上がり急峻な小隆起性病変を認めた.表面は正常粘膜でおおわれ,中心部が陥凹し黒色調を呈していた.この時の胃生検および有棘針細胞診でメラニン顆粒を有する腫瘍細胞を認め,悪性黒色腫の胃転移と診断した.癌化学療法の続行で,内視鏡的に隆起性病変はついに平坦化し,色素沈着を残すのみとなった.全身状態も改善し初診より約2年経過した現在外来治療にて経過観察中である.