抄録
1946~1979年の間に癌研病院で手術したポリポージスを除く同時性大腸多発癌(以下多発癌と略)70例(同時期の全大腸癌手術例の4.7%に相当)について検討し,以下の結果を得た.1946~1973年では,X線診断は多発癌の全病変を存在診断してはいない症例が多く,内視鏡診断はS状結腸より口側の病変を観察していない症例が多かった.しかし,二重造影法とファイバースコープ法の確立により,1974~1979年では,X線,内視鏡とも診断能が極めて向上したが,なおX線,内視鏡ともに進行癌よりも早期癌の存在診断率が低率で,内視鏡は第一癌の口側の癌が第一癌とその肛門側の癌よりも存在診断率が低率な傾向を認めた.結論として,多発癌の診断にはポリープ併存症例に注目し,S状結腸と直腸を重視し,ひとつの癌を発見した場合には少なくとも他に2個の癌が存在するとの想定のもとに,その癌と同一部位あるいは隣接部位を注意深く検索することが重要である.