抄録
上部消化管出血に対する内視鏡的レーザー止血法について,基礎的ならびに臨床的な研究を行った. レーザー照射の適応と安全性に関する基礎的研究として,出血胃潰瘍における組織学的な検討を行い・露出血管外径は94.9%が2mm以下であり,潰瘍底の厚さは86.0%が4mm以上であることが判明した・動物実験におけるレーザー照射条件の検討では,Nd-YAGレーザーでは出力70Wで照射時間1秒間の,argonレーザーでは出力8~10Wで照射時間1秒間の間欠照射が安全かつ有効な条件と考えた. 臨床的な研究としては,上部消化管出血患者99名を,Nd-YAGレーザー治療群45例,argonレーザー治療群13例,対照群41例の3群に分けて,各群の治療成績を検討した.72時間以上の止血有効率はNd-YAG群93%,argon群77%,対照群63%で,3群間に有意差(P<0.01)を認めた.治療後の平均輸血量は・中等症例ではNd YAG群560ml ,argon群930ml,対照群2,290mlと,Nd-YAG群と対照群の間に有意差(P<0.01)が認められた.手術率は,中等症例で,Nd-YAG群7%,argon群11%,対照群38%と,これにも有意差(P<0.02)が認められた.なお,この間,レーザー照射による合併症は認めていない. このように,内視鏡的レーザー止血法は,消化管出血の治療法として非常に有効であり,今後一層の普及が望まれる.