抄録
22例の抗生物質起因性の薬剤性出血性大腸炎と11例の虚血性大腸炎とを,それぞれ発症後72時間以内に内視鏡的に比較検討した.同時に生検を行ない,病理組織学的検討も併せ行なった.両疾患の全例に出血性粘膜が観察されたが,薬剤性出血性大腸炎では,全病変部が一様の出血性粘膜で占められるのに対して,虚血性大腸炎11例中9例(82%)では,出血性粘膜の他に,病変の一部に粘膜の褪色や潰瘍からなる壊死性変化が観察された. 生検材料を用いた病理組織学的検討によっても,薬剤性出血性大腸炎の主病変は,粘膜固有層における出血であったが,虚血性大腸炎では,病変の最も強い部分から採取された生検標本11例中9例(82%)に,典型的な粘膜壊死の所見がみとめられた.以上の結果より,両疾患の発症機序はそれぞれに相異なっており,虚血性大腸炎では血行障害による粘膜の壊死が考えられ,一方薬剤性出血性大腸炎では,毛細血管の破綻によって,粘膜内出血が起るものと考えられた.