抄録
82歳女性の十二指腸メラノーシスの1例を経験した.球後部にみられた点状黒色色素沈着は,1年後には球部にも認め,肉眼的に著しく増加し豹紋状を呈した.生検にて色素は主に十二指腸絨毛部粘膜固有層のマクロファージに含まれ,一部間質にも認めた.組織化学的には,Masson-Fontana染色陽1生,鉄反応陰性で,過酸化水素で還元され,メラニンに近い性格を有していた.電顕では,マクロファージのlysosomeに含まれる円形・多角形等を呈する物質で,電子プローブX線分析にてFe,Sと微量のCaを証明し,FeとSは1:1の原子比で含有することがわかり,メラニンは否定された.Prussian blue及びTurnbull blueの両鉄反応は陰性であり,FeSそのものでなく,鉄硫黄蛋白質と考えられた.成因として,胃粘膜よりの出血が少なくとも関与していると考えられた.さらに,ベンゼン環を含む常用薬の関与も推測された.