抄録
血液疾患患者の上部消化管出血に対する緊急内視鏡検査及び内視鏡的純エタノール局注止血法の有用性について考察した.対象は1979年6月から1986年12月までの7年半の間に当科で行われた血液疾患患者の緊急内視鏡例24例で,急性白血病6例,慢性骨髄性白血病(CML)9例,多発性骨髄腫3例,悪性リンパ腫2例,血友病2例,von Willbrand病1例,特発性血小板減少症1例の計24例である.男女比は3:1,平均年齢は51歳であった.緊急内視鏡検査による出血源の検索では,急性白血病は6例中5例(83.3%)が胃・十二指腸びらんからの出血であり,CMLでは9例中6例(66.7%)が消化性潰瘍からの出血であった.内視鏡的止血法の適応とした10例では,全例に一時止血が得られた.再出血は5例(50%)と一般の止血成績に比し極めて高い再出血率を示した.しかし,止血操作を繰り返すことによって全例止血できた.必要十分なエタノールを注入した後は補充療法を併用することも重要である.必要ならば血小板輸血を行ってから内視鏡検査を行っているが,出血や穿孔等の合併症は1例もなかった.以上より,出血性素因を有する血液疾患患者の上部消化管出血に対しても治療的緊急内視鏡検査及び内視鏡的純エタノール局注止血法は有用であると考えられた.