抄録
症例は76歳の男性で,2年前から上部消化管造影で下部食道に長径約3cmの粘膜下腫瘍を指摘されていた.無症状であるため放置していたが,胸骨後部不快感が出現したため食道透視を施行したところ同部に長径約6cmの粘膜下腫瘍が認められた.前回と比較して急速な増大を示しCT,超音波内視鏡所見などより充実性の腫瘍も否定できなかったが,内視鏡検査下に鉗子で圧迫すると比較的柔らかい印象を受けた.充実性腫瘍で急速な増大を示すものとして悪性腫瘍も否定できず手術を施行した.術中所見では腫瘤は柔らかく,病理組織学的には気管支原性嚢腫であった.嚢胞内腔に出血したため急速に増大し,さらに凝血塊を伴っていたことより充実性腫瘍と誤られたものと考えられた.以上より急速に増大し悪性が疑われた食道嚢腫の1手術例を経験したので本邦報告例136例の検討を加えて報告する.