抄録
ヒトでは加齢に伴って胃腺境界が口側に移動し,胃底腺領域が退縮することが知られているが,疾患による胃底腺領域の広さがどの様に変化するか明らかでない.そこで,内視鏡下鉗子生検材料の組織学的所見に基づいて,胃底腺の広さを示す尺度となるIndex of Oxyntic Gland Area(IOGA)を考按し,慢性腎不全血液透析(HD)患者の胃底腺領域の広がりを検討した.HD群(39例,平均年齢53.6歳)及び健常対照群(31例,平均年齢55.2歳)の10GAは各々4.30±1.31,3.27±1.23(mean±S.D.)であり,HD群は有意(p=0.0013)に広い胃底腺領域を有していた.また,過半数のHD患者の胃底腺粘膜はいわゆる内視鏡的肥厚像を呈していた.HD患者のIOGAと各因子の相関関係を検討したところ,IOGAと血清ガストリン・年齢・人工透析導入年齢の間には有意な負の相関がみられ(P<0.001,P<0.05,P<0.01),IOGAと人工透析実施期間との間には正の相関の傾向を認めた(P<0.1).これらの結果は,1)HD患者は有意に広い胃底腺領域を有すること,すなわちその年齢に比して'若い胃'を有すること,2)HD患者にみられる高ガストリン血症は,HD患者が若い胃を有する原因とは考えにくいこと,を示すものと考えられた.EGFなど胃底腺粘膜に対してtrophic actionを有する因子やHelicobacter pyloriなど慢性胃炎の惹起因子の関与について,今後更に検討する必要があると考えられた.