日本消化器内視鏡学会雑誌
Online ISSN : 1884-5738
Print ISSN : 0387-1207
ISSN-L : 0387-1207
鋸歯状腺腫の病理組織学的特徴と診断上の問題点
三富 弘之大倉 康男金澤 秀紀佐田 美和五十嵐 正広
著者情報
ジャーナル フリー

2006 年 48 巻 11 号 p. 2613-2625

詳細
抄録

 鋸歯状腺腫(serratedadenoma,SA)は上皮の鋸歯状変化を特徴し,過形成性ポリープ(hyperplastic polyp, HP)から通常の腺腫(conventional adenoma,AD)に類似するものまで広いスペクトラムの病変を含み,大きさ0.5-1.0cmのポリープが多く,病変内癌合併率は2-15%である.SAの細胞増殖パターンは'bottom-up'typeを示し,ADの'top-down'typeと良く対比され,腺管表層~中層の細胞増殖活性を比較すると,SAはADより低く,HPより高い.SAの粘液形質発現をみるとMUC2+/MUC5AC+/HGM+の胃表層上皮及び腸上皮混合型を示す.SAをtraditional type SA(TSA)とsessile type SA(SSA)に亜分類すると,TSAは主に有茎性で,直腸・S状結腸に多いが,他の部位にも比較的均等に分布し,組織学的には絨毛状構造を示し,軽度の核の偽重層化を伴う好酸性上皮で構成される.SSAは広基性病変で,右半結腸に多く,腺底部での鋸歯状変化と内腔の拡張,粘液の過剰産生,軽度の核異型を組織学的特徴とする.SAではマイクロサテライト不安定性(microsatellite instability, MSI)やDNAミスマッチ修復遺伝子のメチレーションが高率に観察されることから,SAがMSI陽性非遺伝性大腸癌の前駆病変である可能性が指摘され(serrated neoplasia pathway),DNAミスマッチ修復遺伝子蛋白であるhMLH1及び0-6-methylguanine DNA methyltransferase発現低下がSSAの一部に観察される.SAの組織診断上の問題点として,TSAとSSAの組織亜分類の難しさ,広基性という肉眼形態を考慮したSSAの診断名に対する混乱,組織方向性の悪いものや表層のみが採取された生検材料では,SSAとHPの鑑別が難しいことなどが挙げられる.臨床的な取り扱いとして,SAの病変内癌合併率はADと同程度~低率で,大きさ1cm以上あるいは平坦型SAで癌合併率が高いことから,内視鏡下のポリペクトミーを中心としたADに準ずる治療法や経過観察法が選択されるべきである.一方,SSAでは存在部位を考慮した臨床的対応が望まれており,特に右半大腸の多発(20個以上)例,大きさ1cm以上,大腸癌やポリポーシスの家族歴を有する例では,病変の完全切除とともに右半結腸のMSI陽性の異時性大腸癌発生に関する1年毎の経過観察が必要である.

著者関連情報
© 社団法人日本消化器内視鏡学会
次の記事
feedback
Top