本稿では,1人当たり実質消費(対数変換後)をトレンド部分と循環部分とに分解し,さらに循環部分における拡大と後退局面の非対称性(レジームの変化)をマルコフ・スイッチング・モデルで表すことによって景気循環をモデル化した.この景気循環モデルを,金融資産として債券のみを考えた消費資産価格モデルに組み込むことによって精緻な金利の期間構造モデルを構築し,そのモデルに基づいて80年代から90年代にかけてのイギリスにおける実質イールド・カーブ(残存1年以下のショート・エンド)を実証分析した.その結果,次のことが示された.(1)相対的危険回避度は有意に正で推定され,消費資産価格モデルは支持される.(2)消費循環の拡大と後退局面に非対称性,つまりレジームのシフトは見出されない.(3)イールド・スプレッドには,景気変動自体を予測するために有用な情報はほとんど含まれていないが,その循環部分については弱いながらもその力向を予測するに有用な情報が含まれている.