ジェンダー史学
Online ISSN : 1884-9385
Print ISSN : 1880-4357
ISSN-L : 1880-4357
論文
岩手におけるウーマンリブの思想と活動
─麗ら舎の〈おなご〉たちのライフストーリーから─
柳原 恵
著者情報
ジャーナル フリー

2012 年 8 巻 p. 55-73

詳細
抄録

本稿では岩手に「内発」したリブの存在とその思想の内実について、当事者のライフストーリーを中心として考察する。
岩手の農村部において性差別への批判的視座を持ち活動してきた人物の一人としてまず、女性達の読書・学習サークル「麗ら舎読書会」を主宰する詩人・小原麗子(1935-)を取り上げ、麗ら舎設立までの経緯をライフストーリーから追う。小原は経済的に自立し、読み書きできる時間と場所を持つことを指す「自活」を目指してきた。小原らの活動の舞台となる麗ら舎は、小原の「自活」が実現できる場として設立された。
小原と活動を共にしてきた読書会会員・石川純子(1942-2008)は、民主的な家庭の中にあるジェンダー構造を問題化した。岩手は封建的「家」と近代的「家庭」が並存している地域であり、こうした地域性がリブ思想を醸成する契機ともなった。石川と小原は「家」と「近代家族」の連続性を看破し、共通する問題からの解放を模索していった。
石川は女性の身体とセクシャリティをめぐる問題にも取り組んだ。「孕み」と「お産」を通じて自分を東北の「農婦」であると認識し、疎外された〈女〉の経験と身体性を取り戻そうとする。その思想は、都市部のリブとも通じるが、決定的な差異は取り戻す対象として「東北」という場所性が含まれることである。
麗ら舎読書会の主軸の一つに、戦没農民兵士とその母を弔う千三忌がある。千三忌は性差別・植民地主義などの複合差別の様相を認識し、それを乗り越えようとする小原の思想を背景として開催されている。
以上、小原と石川は〈女〉であることを起点とし、民主的「家庭」が内包する抑圧性を批判し、女の身体性と母性を問い直し、複合差別への抵抗を実践してきた。近代が作り上げてきたジェンダー構造を疑問視し、問い直していく彼女らの思索と活動は岩手におけるリブであると評価できる。

著者関連情報
© 2012 本論文著者
前の記事 次の記事
feedback
Top