2020 年 43 巻 4 号 p. 142-144
摂食訓練の重要性は,近年広く理解されているが,十分に評価されずに訓練が終了となる例が,依然として散見される.今回,定型的な方法では改善しなかったが,嚥下状態の詳細な評価と原因の考察から,本人の嗜好を考慮した食餌アプローチを行い,摂食が著明に改善した症例を経験した.嚥下状態の把握と柔軟な視点で摂食訓練に取り組むことの大切さを再認識した症例であったため報告する.症例は44歳,男性.心筋梗塞による心肺停止からの治療過程で低酸素脳症から高次脳機能障害が残存し,嚥下障害が高度で気管切開・気管カニューレ留置と経鼻胃管栄養となった.嚥下状態や検査の丁寧な評価から,原因として,高次脳機能障害に伴う嚥下障害が疑われ,好物で嚥下の誘発が確認できた.以後の摂食訓練でも,嗜好品を選択し,高次脳機能障害に配慮して訓練を行ったところ誤嚥の兆候なく常食を摂取可能となり,経鼻胃管と気管カニューレを抜去できた.