2006 年 129 巻 p. 91-134
日本語の有声同化及びそれに関連する有声コーダ鼻音化の現象を説明する企てを通して,空力素性階層理論の修正を提案し,それを通じて素性階層理論と音声素性との関係について注意する.まず,有声同化現象を説明するのに,素性階層理論では,有声無声の別に対応する節点をたてず,それに代えて「清濁」の別に対応する節点をたて,流音・半母音は清,鼻音は濁とする.コーダ鼻音化は,射影反転という概念のもとで,中和現象として素性階層理論的に自然に説明されることを示す.このような考察を通じて,音声素性は,音韻論と発声機構との境界条件の表現に必要であるにしても,素性階層理論本体の構成要素ではない,という提案をする.