2006 年 130 巻 p. 109-123
本論文では,「言語構造のワールドアトラス」(WALS)を使用し,名詞の形態論的特徴である「格の数」を特に取り上げた.「格の数」についてWALSを使用して世界中の言語を観察すると,まったく格標示を持たない中国語やアラビア語のような言語から,格が豊富なハンガリー語やネズパース語まで,世界で多様な分布を示す.本研究は,WALSの「格の数」の特徴で観察された,格の数が10以上ある24言語を対象にした.それらの24言語について,いくつの格を持つか,どのような格を持つか,格の数の豊富さと他のWALSの特徴に関連性があるかを検証した.その結果,格を豊富に持つ言語は地域的には欧州からアジア,北南米,オーストラリア,そしてパプアニューギニアと広く分布することが判明した.また,観察される格としては,場所格と副詞格を多く持ち,さらに格を豊富に持つ言語は,SOV語順が支配的で,後置詞を好む傾向がある.