2007 年 132 巻 p. 15-28
この研究では日本語を母語とする幼児の「だけ」の解釈の実験結果にもとづき,焦点助詞と格助詞の相互作用について考察した。真偽値判断課題において,幼児は「だけ」が主語と目的語に付加されている場合で異なった反応パターンを示した。また,同じ幼児が「だけ」が助詞と共起するか否かによっても異なる解釈を与えることも明らかになった。具体的には幼児は「だけ」が助詞と共起する際には「だけ」を主語と結びつけ,「だけ」が助詞なしで現れる場合には目的語と結びつけるというパターンが観察された。日本語の格を抽象格ととらえる統語理論では,上記のパターンに説明を与えることはできない。この実験結果は,主格と目的格の助詞の間に異なる性質を認め,「だけ」が主語または目的語に付加される場合と,助詞が共起するか否かの4つの可能な文型のそれぞれに対して異なる派生を仮定する青柳(2006)に経験的支持を与えることを論じる。