多くの言語において,文否定要素が引き起こす干渉効果が観察される。本稿は,英語における数量詞の相対的作用域解釈,フランス語の単一wh疑問文における元位置のwhの作用域解釈,更にはドイツ語の作用域標示構文におけるwhの作用域解釈等について考察し,Chomsky(2000)以降の枠組みを採用することにより,これらの現象が統語的に説明されることを論ずる。干渉効果を捉えるため,本論考は,文否定辞を主要部とする否定辞句がフェイズの一つと認定されることを提案する。不可視移動をスペル・アウト後の演算と認めた上で,数量詞繰り上げ及び数量詞繰り下げも他の演算と同様,フェイズ不可侵性条件に従うものとする。これにより,数量詞の相対的作用域解釈における干渉効果が導き出される。また,whはCを占める作用域標識と局所的に一致が必要とすることにより,フランス語の単一wh疑問文やドイツ語の作用域標示構文におけるwhの作用域が説明される。