2008 年 134 巻 p. 119-140
日本語の語彙的複合動詞におけるタイプ別生産性をプロト意味役割の観点から体系的に調査する。ここでの「タイプ」とは,結合される動詞の項を同定する際の異なる同定方法を指す。各種の語彙的複合動詞の生産性の違いは,他動詞の数的優位性のみならず,動詞の統語的項の同定における複雑性に起因すると主張する。そのような複雑性と生産性の相関関係を最適化理論(OT)の有標性制約を利用することで説明する方向性を模索する。このような制約は,ただ単に最適な個別の複合語の形を決めるだけでなく,最適な個々の複合動詞を作り出す各種の過程そのものの比較をも可能にする。本稿の特徴は,語彙的複合動詞の生産性が文法関係の視点のみから単に数量的に記述されてきたことから離脱し,なぜそのような数量的生産性の相違が見られるのか説明を企てるところにある。