言語研究
Online ISSN : 2185-6710
Print ISSN : 0024-3914
フォーラム
日本語に「長距離」の例外的格付与はあるのか?
―Ura(2007)の批判的検討―
畠山 雄二本田 謙介田中 江扶
著者情報
ジャーナル フリー

2008 年 134 巻 p. 141-154

詳細
抄録

Ura(2007)は,一部の関西方言において「僕はジョンにそのことをできる(て)思う」のような構文が成り立つことを指摘し,「長距離の例外的格付与(Long-Distance ECM: LD-ECM)」として分析した。その際の省略可能な補文標識は「弱い」フェイズを形成するとして,「補文標識の省略が許されない言語では,LD-ECMは許されない」という一般化を示した。この一般化に対し,本稿では,60人の非関西方言話者について対応構文を調査し,(i)補文標識が省略可能であるが,LD-ECMが許されない場合(弱い反例),および(ii)補文標識が省略不可能であるが,LD-ECMが許される場合(強い反例)という二種類の反例を提示する。特に(ii)の反例は,Uraの一般化にとって大きな問題であり,補文標識の省略とLD-ECMの成立との間に強い相関関係がないことを指摘する。さらに,フェイズ理論に頼らない分析として,補文の対格名詞句が焦点を当てられるために補文CP指定部に非顕在的に移動し,そこで対格の認可を受けるという分析を示す。この分析では,Uraの分析とは異なり,文法操作の局所性や最短距離性といった文法理論の核を成す制約を変更することなく,日本語にみられるLD-ECMの有標性を捉えることが可能になる。

著者関連情報
© 2008 日本言語学会, 著者
前の記事
feedback
Top