本稿は,主としてオランダ語に基づいて,裸名詞が動詞と一緒に緊密な語彙的まとまりを形成する「擬似編入」と呼ばれる現象を扱う。擬似編入の意味論は真性の名詞編入と同じで,裸名詞が総称解釈を受け,名詞と動詞の組み合わせは慣習化された活動を表す。ただし,擬似編入における名詞と動詞のまとまりは,主節および動詞繰り上げ構文において分離可能であるため,語ではなく句である。オランダ語の裸名詞(単数形・複数形いずれも可能)と動詞との組み合わせは構造的に2通りの分析が可能である。ひとつは裸名詞のみで構成される名詞句と動詞が動詞句構造(VP)を形成する場合,もうひとつは裸名詞が動詞に付加された[N0 V0]V0という語彙的まとまりを形成する場合である。オランダ語の動詞繰り上げ,迂言的進行形構文,および適切な否定形(geenまたはniet)の選択におけるこれらNV形の振舞いは,上述の2つの構造から導き出すことができる。このように,オランダ語の擬似編入は,Iida and Sells(2008)が日本語の類似現象について行った分析と並行的に捉えることができる。もし裸名詞が動詞から項としての役割を受けることができなければ,その裸名詞は必然的に,上述の2番目の構造,すなわち名詞が動詞に付加された構造になる。
擬似編入は,特定の統語形式が特定の意味解釈(この場合,慣習化された活動)と結びつくという意味で,コンストラクション(構造体)と見なすことができる。すなわち,擬似編入の意味論を適切に扱うためには,コンストラクションの概念が必要なのである。