言語研究
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135 巻
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
論文
  • ヒィアート ボーイ
    2009 年 135 巻 p. 5-27
    発行日: 2009年
    公開日: 2022/03/08
    ジャーナル フリー

    本稿は,主としてオランダ語に基づいて,裸名詞が動詞と一緒に緊密な語彙的まとまりを形成する「擬似編入」と呼ばれる現象を扱う。擬似編入の意味論は真性の名詞編入と同じで,裸名詞が総称解釈を受け,名詞と動詞の組み合わせは慣習化された活動を表す。ただし,擬似編入における名詞と動詞のまとまりは,主節および動詞繰り上げ構文において分離可能であるため,語ではなく句である。オランダ語の裸名詞(単数形・複数形いずれも可能)と動詞との組み合わせは構造的に2通りの分析が可能である。ひとつは裸名詞のみで構成される名詞句と動詞が動詞句構造(VP)を形成する場合,もうひとつは裸名詞が動詞に付加された[N0 V0]V0という語彙的まとまりを形成する場合である。オランダ語の動詞繰り上げ,迂言的進行形構文,および適切な否定形(geenまたはniet)の選択におけるこれらNV形の振舞いは,上述の2つの構造から導き出すことができる。このように,オランダ語の擬似編入は,Iida and Sells(2008)が日本語の類似現象について行った分析と並行的に捉えることができる。もし裸名詞が動詞から項としての役割を受けることができなければ,その裸名詞は必然的に,上述の2番目の構造,すなわち名詞が動詞に付加された構造になる。

    擬似編入は,特定の統語形式が特定の意味解釈(この場合,慣習化された活動)と結びつくという意味で,コンストラクション(構造体)と見なすことができる。すなわち,擬似編入の意味論を適切に扱うためには,コンストラクションの概念が必要なのである。

  • アンジェラ ラッリ, アタナシオス カリシモス
    2009 年 135 巻 p. 29-48
    発行日: 2009年
    公開日: 2022/03/08
    ジャーナル フリー

    本稿は語形成における制約の問題を扱い,現代ギリシア語の複合語の内部に派生接辞が現れないのは,複合語形成の出力に適用する「裸語幹制約」が働いているからであると主張する。この主張は現代標準ギリシア語と諸方言における種々のタイプの複合語によって支持されるが,とりわけ,インドヨーロッパ諸言語には存在せずギリシア語独特の動詞+動詞型の並列複合語(dvandva)が重要なデータとなる。この分析に対して一見反例となる現象もあるが,それは制約の適用に対する見かけの例外に過ぎない。すなわち,これらの反例と思われる現象は,再分析によって生じたものか,あるいは,通常の言語規則には従わない特殊な語彙化現象ないし借用語であると見なされる。

    本稿は更に派生と複合の相互関係についても議論を進め,複合操作と派生操作は峻別できず,両者が相互に入り混じって適用することを論じる。この結論は,派生語を左側要素として含む複合語の形式を規制する適切な形態論的制約を設け,複合と派生が適用する順序を明示しないことで達成される。

  • セルジオ スカリーゼ, アントニオ ファブレガス, フランチェスカ フォルツァ
    2009 年 135 巻 p. 49-84
    発行日: 2009年
    公開日: 2022/03/08
    ジャーナル フリー

    複合語が外心構造か内心構造かは主要部の概念にかかっている。すなわち,主要部を持つ複合語は内心構造,主要部を持たない複合語は外心構造とされる。主要部の概念は通常,一元的なものと見なされるので,したがって外心性も従来は一元的な概念とされてきた。本稿では,まず,外心構造の基準と制限について類型論的なデータを提示し,それに基づいて,主要部の概念が,範疇としての主要部,意味的な主要部,形態論的な主要部という3つの異なる要素に分かれることを論じる。これにより,外心性という概念も,範疇の外心性,意味の外心性,形態的特徴の外心性に分割される。本稿では,複合語全体ではなく複合語の構成要素の性質に基づいて,外心複合語に関する新しい分析を提示する。

  • 下地 理則
    2009 年 135 巻 p. 85-122
    発行日: 2009年
    公開日: 2022/03/08
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は琉球語宮古伊良部島方言(以下,伊良部島方言)の韻律におけるフット構造の重要性を指摘し,フットを用いた分析によってこの言語のリズム構造を明らかにすることである。本稿の前半部では,この言語の2つの重要な韻律特徴,すなわち①語(+付属語)の内部において2(ないし3)モーラの韻律的なまとまりが見られること,②高ピッチと低ピッチの繰り返しが見られることに注目し,これらを的確に記述するためにフット構造を導入する。そして,語(+付属語)内部のフットに対してHighとLowのトーンを交互に付与していくという規則を提案し,①と②を同時に説明する。本稿の後半部では,上記の韻律現象が(アクセントではなく)リズムの表出であることを示す。特に,Selkirk(1984)によって提唱されKubozono(1993)ら後続の研究によってその普遍性が主張されている「リズム交替の原理」(Principle of Rhythmic Alternation)に注目し,伊良部島方言の韻律がこの原理に明確に支配されていることを示す。

  • 佐藤 陽介, 岸田 眞樹
    2009 年 135 巻 p. 123-150
    発行日: 2009年
    公開日: 2022/03/08
    ジャーナル フリー

    本論文では,従来構造的分析が有力とされてきた英語の経験者目的語心理動詞に対し,新たに意味の面から光をあてることにより,その諸特性を導き出す。まず,Brekke(1976)の観察に基づき,この動詞クラスがその認知意味的性質上主観的動詞群を形成することを確認する。次に,この観察を捉えるため,経験者解釈が語彙的または合成的に認められる文の派生には従来仮定されている時制句(TP)より上の位置に視点投射が含まれており,表層経験者はその指定部に論理形式部門で非顕在的移動を受けると提案する。この分析によれば,逆行束縛効果,弱交差効果の消失,作用域の多義性などの一見特異な経験者目的語心理動詞の構造的特性が統一的に導き出される。本分析が正しければ,二つの理論的帰結が得られる。第一に,これまで生成統語論の枠組みで支配的であった,意味役割のみに基づく構造的心理述語分析には限界がある。第二に,心理動詞の特異性はすべてこの動詞群特有の主観性述語としての認知意味的性質及びその統語的反映に還元される。

フォーラム
  • 古閑 恭子
    2009 年 135 巻 p. 151-165
    発行日: 2009年
    公開日: 2022/03/08
    ジャーナル フリー

    本稿は,アカン語アサンテ方言の名詞孤立形および所有名詞句の声調に関して筆者の調査データを提示し,分析を試みる。まず名詞孤立形の声調に関しては,①接辞が独自の声調を持つこと,②語根の声調は音節数に関わらず5つのタイプに分類されること,③声調の配分は音節単位になされていることを示す。次に所有名詞句については,Dolphyne(1986, 1988)に倣って名詞を2つのクラスに分類するが,Class IとClass IIの根本的な違いが,所有名詞句において名詞の接頭辞の声調が現れるかどうかによってもたらされることを主張する。また,Class Iの所有名詞句には通時的な声調変化が関与していることが知られているが(Stewart 1983, Dolphyne 1986),この声調変化は,Stewartの言うような声調が変わる位置の移動ではなく,Dolphyneの言うように,浮きH声調の語根頭への移動である。しかも,この浮きH声調は語彙レベルでClass I名詞が有するものではなく,もともと所有接語が持っていたものである。

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