言語研究
Online ISSN : 2185-6710
Print ISSN : 0024-3914
特集 コーパスを活用した言語研究(1)
terrorの語法・意味の変化
――新聞アーカイブ・コーパスにおける使用実態調査――
加野 まきみ
著者情報
ジャーナル フリー

2010 年 138 巻 p. 67-97

詳細
抄録

terrorの最も古い意味である「非常な恐怖」の意味から派生し,今日のようにterrorismと同義で用いられるようになるまでの語法・意味の変化を辞書,新聞アーカイブ,コーパスにより明らかにした。一般的に「恐怖状態を引き起こす行為」という意味から,特に政治的に用いられるようになったのはフランス革命時の“The Terror”「恐怖政治」で,その後,独裁政権による人民の抑圧を“reign of terror”と呼んだ。さらに現体制によるterrorから,反体制派による体制崩壊を目指すterrorへの変身をとげ,個人的な活動から組織的活動へ,国内におけるテロから国際テロへと範囲を広げていく。新聞アーカイブによる調査では,2001年「対テロ戦争」開始以前と以降で使用頻度,使用される意味が大きく異なること,war on terrorwar on terrorismの使用時期のピークの違い,英米紙で使用の傾向がことなることなどを,年代を追って解明した。コーパスによる調査では,心理的恐怖を表す意味で多く使われていたterrorが,近年その意味に加えて,terrorismと同義で用いられることが多くなり,共起語,語法,類義語が大きく変化し,terrorismと非常に類似した文法パタンで使用されている様子を描き出し,いかにterrorが語法的・意味的にterrorismに近くなっているかを明示した*。

著者関連情報
© 2010 日本言語学会, 著者
前の記事 次の記事
feedback
Top