言語研究
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138 巻
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特集 コーパスを活用した言語研究(1)
  • ―辞書記述への応用の可能性―
    田野村 忠温
    2010 年 138 巻 p. 1-23
    発行日: 2010年
    公開日: 2022/03/08
    ジャーナル フリー

    コーパスは従来のタイプの言語研究の精密化にも大きな力を発揮するが,コーパスの特性を生かすことにより旧来の言語研究資料では考えられなかったさまざまな種類の研究が可能になる。 本稿は,大規模なコーパスを使って初めて満足な調査・分析が可能になる言語現象の1つであるコロケーションを主題とし,日本語コーパスの分析によって得られるコロケーション情報が日本語の一般的な辞書ないしコロケーション辞典の作成にどのように生かせるかという応用的な関心に基づいて考察を行う。具体的には,筆者が‘circumcollocate’と呼ぶ現象の分析,述語の有標率の分析,類義的な慣用句型の意味・用法の分析におけるコーパスの有用性について述べる。

    コロケーションの分析には大規模なコーパスが必要となる。本稿では,筆者が2008年に作成した巨大なWebコーパスを使用する。その規模は約750億字,ファイルサイズにして約150ギガバイトであり,平均的と思われる小説単行本の30~40万冊に相当する。

  • ビャーケ フレレスビッグ, スティーブン ホーン, ケリー ラッセル, ピーター セルズ
    2010 年 138 巻 p. 25-65
    発行日: 2010年
    公開日: 2022/03/08
    ジャーナル フリー

    本稿では「日本語史における動詞の意味構造と項の具現化」という共同研究プロジェクトの概要とそのプロジェクトから得られた研究の成果を紹介する。このプロジェクトの一環として,上代から室町時代までの日本語文献に依拠した言語コーパスを開発中である。形態素から統語のレヴェルまでの情報をコード化したこのコーパスを利用して行った,上代日本語の複合動詞(V1+V2複合語)に関する分析の結果を紹介する。まず補助動詞の特徴を明らかにするため,V1とV2との意味関係が薄い複合動詞を「非語彙的複合動詞」(non-lexical compound)と定め,そういった複合動詞の単語完結性と他動性の調和を調べた。この結果,非語彙的複合動詞のV2の結合と分布に幾つかの特徴的パターンを見出した。次に,出現頻度の高い動詞「思ふ」が孤立した動詞の形でどのような項を取るかを調べ,V1を「思ふ」とする複合動詞が取る項と比較した。この分析により,[思ふ+V2]が文節を項として取ることが著しく少ないという興味深い結果が得られた。

  • ――新聞アーカイブ・コーパスにおける使用実態調査――
    加野 まきみ
    2010 年 138 巻 p. 67-97
    発行日: 2010年
    公開日: 2022/03/08
    ジャーナル フリー

    terrorの最も古い意味である「非常な恐怖」の意味から派生し,今日のようにterrorismと同義で用いられるようになるまでの語法・意味の変化を辞書,新聞アーカイブ,コーパスにより明らかにした。一般的に「恐怖状態を引き起こす行為」という意味から,特に政治的に用いられるようになったのはフランス革命時の“The Terror”「恐怖政治」で,その後,独裁政権による人民の抑圧を“reign of terror”と呼んだ。さらに現体制によるterrorから,反体制派による体制崩壊を目指すterrorへの変身をとげ,個人的な活動から組織的活動へ,国内におけるテロから国際テロへと範囲を広げていく。新聞アーカイブによる調査では,2001年「対テロ戦争」開始以前と以降で使用頻度,使用される意味が大きく異なること,war on terrorwar on terrorismの使用時期のピークの違い,英米紙で使用の傾向がことなることなどを,年代を追って解明した。コーパスによる調査では,心理的恐怖を表す意味で多く使われていたterrorが,近年その意味に加えて,terrorismと同義で用いられることが多くなり,共起語,語法,類義語が大きく変化し,terrorismと非常に類似した文法パタンで使用されている様子を描き出し,いかにterrorが語法的・意味的にterrorismに近くなっているかを明示した*。

  • ヤオ ヤオ, サム ティルセン, ロナルド スプラウズ, キース ジョンソン
    2010 年 138 巻 p. 99-113
    発行日: 2010年
    公開日: 2022/03/08
    ジャーナル フリー

    近年,コーパス言語学が急速に発展している一方で,自動音響分析のための適切なツールがなかったこともあり,この分野の進展が阻害されている。本稿では,robust linear predictive coding(RLPC)とdynamic formant trackingの手法を用いて母音のフォルマント特徴を自動的に抽出する手法を紹介する。音響分析のデータ源はすべて英語の自然会話を収集したバックアイコーパスである。分析においては事前強調(preemphasis)とLPCの順序という二つのパラメータを変化させることにより,各話者および各母音に対するフォルマント測定値を最適化した。本稿では,この手法による研究の成果として,英語の10個の母音が会話文において第一・第二フォルマント空間にどのように分布しているかを示す。

論文
  • ―主題化のメカニズムを中心に―
    呉人 惠
    2010 年 138 巻 p. 115-147
    発行日: 2010年
    公開日: 2022/03/08
    ジャーナル フリー

    本稿では,コリャーク語(チュクチ・カムチャツカ語族)で伝統的に「質形容詞」と呼ばれてきた形式が,実際には動詞をはじめとする形容詞以外の品詞語幹からの派生も可能であることや,主題化の形態的・統語的な現われである逆受動化や一般的な構造制約に対する違反などを示すことなどから,日本語研究発信の叙述類型論によって提案された「属性叙述」というタイプに相当することを論証する。また,属性叙述は対応する「事象叙述」と相互変換が可能であることを示し,これが,各品詞語幹が本来的にもつ時間的安定性の制限を解消するためのストラテジーであることを指摘する。コリャーク語のようにこれら2つの叙述タイプの違いを形態的にも統語的にも明確な形として具現化している言語はこれまで知られておらず,その意味で本稿は叙述類型論の視野を広げるひとつの重要なデータを提供しうると考えられる。

フォーラム
  • 宮本 雅行
    2010 年 138 巻 p. 149-161
    発行日: 2010年
    公開日: 2022/03/08
    ジャーナル フリー

    本稿は,ハッサーニーヤ語(アラビア語・モーリタニア方言)における基本的な仮定文の形式を明らかにしようとするものである。Cohen(1960)は,ハッサーニーヤ語の仮定文(の前提節)を導入する接続詞として,(イ)mneyn,(ロ)iiḏaまたはiila,(ハ)luu / iluuの3つ(3組)を挙げ,実現可能性がある仮定文では(イ)または(ロ)が,実現可能性がない仮定文では(ハ)が用いられるとしている。しかしながら,筆者の調査では,iiḏaやluu / iluuが用いられる例は見られず,代わりに,ileが実現可能性の有無にかかわらず極めて広範に用いられており,現在あるいは未来の事象を対象とする実現可能な仮定についてはileynも頻繁に用いられることが認められた。また,ileとileynの双方が可能な仮定文に関して,その使い分けに何らかの基準があるのかについて,いくつかの可能性を検討した。

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