本稿は,Lambrecht(2000)の理論的枠組みを用い,「述語焦点(PF)」の文が無標であるという前提のもとに中国語の「文焦点(SF)」標示について論じる。中国語では,主語の指示対象が聞き手にとって同定可能な場合には,通常,形態統語的な手段によるSF標示はできない。そこで,本研究は,同定可能な主語をもつPF文とSF文を音響分析し,両者を比較した。その結果,主語の持続時間が文全体に占める割合は,声調に関係なくSF文のほうが大きく,F0については,声調にもよるが,SF文において主語の変化幅の拡大と述語の変化幅の縮小の少なくともどちらか一方が起こるという傾向が見られた。この結果は,中国語において,形態統語的な手段が使えない場合に,主語を韻律的に際立たせることによってSF標示が実現されるということを裏付けるものであり,「脱主題化の原則」が中国語にも当てはまることを示している。