メキシコ合衆国東南部で話される先住民言語サユラ・ポポルカ語(ミヘ・ソケ語族)では反転inversionが観察される。反転は,トピカリティーによる参加者のランキングと項の対応関係によって,順向と逆向の構造が区別される文法現象である。参加者のランキングは基本的に直示的区別によるもので,SAP(発話行為参加者)>3人称という階層で表される。サユラ・ポポルカ語において反転は参加者標示体系の根本を成すものであり,全ての多項動詞は反転による対立を見せ得る。形態統語上,3つの下位体系が観察され,それらはSAP/non-SAP, intra-SAP, extra-SAPの3つの参加者構成の区別に対応する。extra-SAP構成においては,参加者をランク付けする疎化obviationのメカニズムに,有生性およびディスコース上のトピカリティーが関与する。本稿は,サユラ・ポポルカ語の反転体系の形態統語論を概観し,この体系を反転の類型論の中に位置づけることを目的とする。