2018 年 154 巻 p. 123-152
本稿では,初期現代コリマ・ユカギール語における焦点構文を取り上げる。19世紀末に収集されたテキスト資料を調べると,現在話されているコリマ・ユカギール語の焦点構文に見られる統語的な制約がかつては存在しなかったことが分かる。現在話されている言語では,焦点構文において焦点化が可能なのは自動詞主語と目的語に限られるが,初期現代コリマ・ユカギール語ではより広い範囲の構成素の焦点化が可能であり,自動詞主語と目的語のみならず,他動詞主語や斜格項/付加詞を焦点化のターゲットとした例が見出される。このことは,この言語の焦点構文が関係節と関連を持つとする仮説へのさらなる根拠となる。なぜなら,焦点構文で用いられる動詞語尾は関係節形成にも用いられ,また,焦点化と関係節化のターゲットは強い類似性を示すからである。現在話されている言語と初期現代語とのもうひとつの特筆すべき違いは,後者にのみ擬似分裂文的な構造が確認されることである。この構造は焦点構文の起源と仮定することができる。