言語研究
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音韻素性に基づく音象徴
――赤ちゃん用のオムツの名付けにおける唇音――
熊谷 学而川原 繁人
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2020 年 157 巻 p. 149-161

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抄録

現在,日本で市販されている赤ちゃん用オムツには,唇音 [p, m] を含む名前が多い(例:「メリーズ(/meriizu/)」,「ムーニー(/muunii/)」,「パンパース(/panpaasu/)」,「マミーポコ(/mamiipoko/)」)。この観察は,唇音が喃語に多く現れる子音であるという事実と関連がある可能性もあり興味深い。本研究では,日本の赤ちゃん用オムツの名付けを題材として,音象徴の抽象性と生産性について,2つの実験を通して探求する。実験1では,無意味語を用いた強制選択実験により,日本語における5つの唇音 [p, b, m, ɸ, w] が赤ちゃん用オムツの名前として選ばれやすいことを示す。実験2では,赤ちゃん用オムツと大人用化粧品の自由名付け課題を行った結果,5つの唇音が大人用化粧品の名前よりも赤ちゃん用オムツの名前に多く現れることを示す。これらの結果から,当該の音象徴的つながりが [p] や [m] のような分節音単位ではなく,より抽象的な唇性 [labial] というレベルで成り立っていること,そして,生産性を持っていることが示唆される。このような抽象性や生産性は,他の音韻現象でも観察されることであり,音象徴パタンが他の音韻パタンと共通性を持っていると結論づけられる。

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© 日本言語学会, 著者
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