本稿では,アラビア語チュニス方言において動詞-主語の語順となるVS構文の機能について,物語テクストを対象として分析を行った。まず,登場人物などが主語となるVS構文が,「場面の主役」,場面の「場所」・「時間」を設定し,前景の語りにおいて場面転換のきっかけとなる用法について検討し,さらに物語での実際の語りに即してその用法を確認した。次いで,この場面転換という用法が,VS構文のもつtheticな新情報提示という機能に由来することを論じ,VS構文,SV構文,V構文の前景の語りにおける機能の違いを明確にした。また,情報構造の観点からこの場面転換のVS構文を論じ,この構文を,語りの内容についての情報を伝達するという共通基盤コンテント的側面と,語り方についての情報を伝達するという共通基盤マネジメント的側面から分析した。そこで,「場面の主役」の転換がVS構文によってなされる場合と,なされない場合があることを,この共通基盤マネジメントという観点から説明した。