生成文法における多様性の研究は,普遍文法(UG)の提案およびその探究と表裏一体の関係にある。UGの存在を想定するからこそ,なぜ人間言語は「多様性」を示すのか,その制約はどのようなものなのか,などが理論的説明を要求する問題として提起される。「理論的説明」とは,可能なかぎり少数の理論的想定からできるだけ多くの種類の言語現象を導く試みであるが,日英語統辞法の相違に関してこのことを試みた最初期の研究としてFukui(1986等)とKuroda(1988)を取り上げ,標準的理解とは異なり,この2つのアプローチには根本的相違点が存在し,またこれらに共通の重要な類似点は,単一のパラメータから多くの統辞特性を導く「クラスター効果」を得ようとしている点にあることを指摘する。このように理解して初めて,「パラメータ」概念の本質に関するその後の理論的発展,そして最近の生成文法研究とこれらの研究が適切に接続されることを示す。