言語研究
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滋賀県湖北方言のノダ文のアクセント形式と意味
脇坂 美和子
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2022 年 162 巻 p. 145-156

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抄録

本稿は,滋賀県湖北方言の京阪式アクセントに属する変種に見られる2つのアクセントパターンの交替を記述し,その形式と意味を明らかにすることを目的とする。この方言には,述語文のアクセントを維持する無標の=N=yaと,これを平板化する有標の=N(=ya)が存在する。無標の形式は,共通語のノダ文の文脈で全て使用できるのに対して,有標の形式は話者が話題について予備知識をもつことを前提に,これを説明または真偽を確認するときにのみ現れる。これは,方言研究において,たとえば井上(2006a)に見られるような,平叙文においては異なる方言形式が,共通語ではともにノダ文で表され,異なる意味を表すという記述に合致するとともに,先行研究におけるノダ文の交替を文法化とみなす傾向を支持するものであり,また疑問文においてもこれを適用し得ることを示唆している。この方言においては,このような区別がアクセントの交替によって実現されていること,またその意味がモダリティに関わるものであることから,本稿では,ここに観察されるアクセントの交替が,日本語方言の文法化やノダ文のモダリティの記述に際して考慮すべきファクターであることを主張した。

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© 2022 日本言語学会, 著者
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