2023 年 163 巻 p. 79-110
クプサビニィ語(南ナイル,ウガンダ)のほとんどの名詞は,単数形と複数形のそれぞれに,接尾辞の有無により,長形と短形の2形式がある。本研究は,名詞の長形と短形が談話でどのように使われるかをDryer(2014)の「指示階層」を使って分析する。長形は定の領域に使われるだけでなく,ディフォルトとして,不定の領域の多くにおいても短形よりも頻繁に用いられ,短形を使わなければならない状況は指示が起こり得ないような不定の場合に限られる。長形の意味は,かつて定性であったのが,名詞句の指示対象(のタイプ)について聞き手と知識を共有していると話者が持っている想定に基づくものへと一般化され,使用の文脈が広がったという仮説を立て,この変化について意味と語用の点から説明を試みる。長形と短形の選択のその他の要因(語彙,構文,文脈,話者の世代等)も記述する。また,一般に言語に見られる傾向に反し,より複雑な長形が短形よりも頻繁に起こることも指摘する。