言語研究
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論文
ソテツの葉で具現化するツツバ語の数の概念とOvercountingへの改新
内藤 真帆
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2023 年 163 巻 p. 55-77

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抄録

ヴァヌアツ共和国の少数言語ツツバ語において,10台の数はオセアニア祖語を反映した加算法のUndercountingを用いるのに対し,21以上の数はOvercountingを用いる。Overcountingは700年代のオルホンの突厥碑文や,マヤ諸語,ゲルマン諸語にも見られる。この一見,難解とも思える数え方は世界でも稀少であり,ツツバ語も含めその生成はこれまで不明であった。

本論文はツツバ社会において21以上の数が伝統的な儀礼の場面で用いられることに着眼する。ツツバ社会は豚を財とする。儀礼では財である豚肉の分配・共食が不可欠で,参列者数の把握が必須であった。そのため数という抽象的概念がソテツの葉に具現化され,結果,このソテツの葉を用いた数え上げの手法がOvercountingへの改新をもたらしたと結論づける。

さらに文字の無いツツバ社会では,文字の代わりにソテツの葉が人数・個数を保存する記録簿としての役割を果たしてきたことを発表する。

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© 2023 日本言語学会, 著者
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