本稿では,日本語と異なる体系を持つ日本手話の語彙に関し,身体性や経験基盤を重視した認知言語学の観点から,日本手話の「わかる」とその否定型について分析を行った。日本手話の「わからない」は,日本語のように形態素「ない」を後ろにつける生産的な形式ではなく,肯定型の「わかる」と異なる形式を持つ。「わかる」の肯定型と否定型の形式は,手型や位置を共有しており,反義語同士の形式と意味の関係は,Lakoff and Johnson(1980)の「知っていることは下,知らないことは上」という空間メタファーで体系的に説明できることを示した。さらに,理解に関する複数の日本手話語彙の背景には「理解することは掴むこと」「アイディアは対象物」「アイディアは食べ物」などの概念メタファーで説明される身体性がある。これらによって説明できる語の意味と形式は相互に関係があり,「理解」に関する語彙が意味と形式双方が関係し合う記号的なネットワークを成していることを示した。