2025 年 168 巻 p. 27-56
通言語的に,曲声調は音声的に長い母音を好むことが知られている。しかし,サポテク語テオティトラン・デル・バジェ方言では,分布と交替の両方において,上昇調は一貫して開音節よりも閉音節を好む(*Cǎ(:)]σ)。更に,借用語のデータからすると,この制約は化石化したものではなく,サポテク語の話者にとって共時的にアクティブなものであることが示唆される。一般的に母音は閉音節よりも開音節で音声的に長いことに鑑みると,サポテク語の上昇調に対する制約は「不自然な」音声パターンを示している。本稿では,このように共時的に「不自然な」制約も,通時的に見れば音声学的に自然な変化の積み重ねによるものであることを示す。