言語研究
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獲得期音韻体系の類型論的特徴-形式・機能両面からの考察-
上田 功
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2005 年 2005 巻 127 号 p. 115-139

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抄録
音韻の獲得段階にある幼児の音韻体系は,産出の「誤り」(逸脱発音)のパターンに基づいて類型化されることが多かった.このような類型化は,典型的な音韻発達を示す多くの幼児の音韻体系の記述には適切である.しかしながら,幼児の中には,例外的とされる逸脱発音を見せる例も存在し,このようなケースには,この種の類型化は対応することができない.またこの「典型」対「例外」の背後には,これまでほとんど関心を引くことがなかった,幼児の音韻知識を質的に区別する,機能的な特徴が潜んでいるのである.
本論考では,最適性理論に依拠した類型化を提案する.これは,形式面からの類型化であり,最適性理論の基本的な概念である,入力と出力,そして音韻制約のランキングの組み合わせに基づくものである.これらの三者が,例えば,入力は正常,出力は逸脱,ランキングは逸脱というように,「正常」か「逸脱」かいずれかであることにより,理論的には7種類のカテゴリーが可能となる.
この類型化により,これまでの逸脱発音のパターンのみではカバーできなかった,獲得期のすべての音韻体系が記述可能であるのみならず,上記の機能的な特徴も,この類型化と最適性理論の構成概念から直接導かれるのである.
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© 日本言語学会
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