本論業では,日本語の非対格動詞を伴った文における敬語現象を考察し,主語はVP内に留まるのではなく,顕在的に移動するが,直接Spec TPに移動する前にSpec vPに移動するということを提案する.日本語には二重敬語という現象があり,非対格動詞構文の一致現象を見ていくと,与格を伴った要素が謙譲語,主格名詞が尊敬語の一致を担っている.敬語の分析については,Boeckx and Niinuma(2004),Niinuma(2003)が論じたように,敬語を一致現象の一つのタイプだと仮定し,Agreeという操作によって説明可能であるとする.この仮定により,非対格動詞構文の主格名詞はSpec vPに移動するということを提案する.
この分析が正しければ,Miyagawa(1989)が考察した非対格動詞と非能格動詞における数量詞遊離の違いをBoškovic(2004)の分析に従って説明できるということを論じる.