抄録
組織での不正行為の規定要因として、権威主義的態度および空気信仰、がまん主義を取り上げ、非主張性の媒介効果を日米で検討した。空気信仰は、その場の雰囲気を乱さないことを重視し、周囲に同調する行為傾向につながることが知られている。したがって、不正がなされる職場の改善にはつながらない心理傾向であると考えられる。また、がまん主義も積極的に異議申し立てをしない傾向につながるため、不正を見逃すことに寄与するであろう。その上で、権威主義的態度は本論文では上下の関係を遵守する傾向とし、目上の者の行動や方針に異議を唱えられない傾向と考えられるために、不正行為の抑制にはつながらない。こうした傾向が、異議申し立て、すなわち主張性が低いことを通して、不正行為の実行や見逃しにつながってしまうことを検討した。日本3191名とアメリカ400名の成人データをWeb調査によって得て、尺度の適否や平均値の比較、構造方程式モデルによる規定因の分析を行った。その結果、日本においてアメリカよりも非主張性が高いことが示され、また、職場の雰囲気(不正容認)によって不正行為は影響を受けること、そして仮説のひとつである権威主義的態度が、非主張性を介して不正行為に正の影響を与えることが日米共に確認された。がまん主義も規定力はやや弱いが同様に非主張性を媒介して不正行為につながることが示された。しかしながら、空気信仰においては、顕著な効果が認められなかった。空気信仰は翻訳の問題も難しい点があり、さらに、適切な検討方法を探る必要もあることが考えられた。結論として、権威主義的態度は、それによって上司などに正しいことを主張しない傾向を通して、職場の雰囲気に従うことや不正行為を助長する影響を与えることが確証された。