日本地球化学会年会要旨集
2008年度日本地球化学会第55回年会講演要旨集
セッションID: 1D20 05-07
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マントル物質の化学とダイナミクス
地球試料におけるW 同位体比測定:マントル進化への制約
*賞雅 朝子中井 俊一Sahoo Yu Vin羽生 毅川畑 博
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抄録

地球の形成過程についてはさまざまな観測事実やシミュレーションなどから、多数のモデルが提唱されている。ひとつのモデルとして微惑星の集積、それらの集積エネルギーによるマグマオーシャンの形成、マグマオーシャン中でのコアの形成、ジャイアントインパクトによる月の形成、隕石重爆撃によるマントル中の超親鉄性元素の付加という過程を想定するものがある。このモデルの中にもジャイアントインパクトの時期であるとか、マグマオーシャンの深さであるとか、各イベントの詳細が異なるモデルがある。コアの形成時期を決定するのに利用されるHf-W 系のW同位体比からは、Yin et al.(2002)やKleine et al.(2002) により、Two Stage model では太陽系形成後から3000 万年後に最後のジャイアントインパクトがあったという報告がなされた。一方で、ジャイアントインパクトによりマントルが完全に均質したかどうかについて議論がされている(Sasaki and Abe, 2007、Allegre et al., 2007、など)。しかしながら、これらの議論についてはW 同位体比については地球マントル試料のデータが少ないことから、最適なモデルへの制約が十分できていない。本研究ではこれらのモデルに制約を与えるために、地球マントル試料のW 濃度とW 同位体比を多数測定した。試料は南ャ潟lシア諸島・ハワイ島・サモア・セントヘレナ火山のOIB およびオントンジャワ海台の玄武岩、インド洋のMORB のタングステン同位体比を測定した。南アフリカおよびロシアのキンバライト中の鉱物についても測定を予定している。タングステン濃度が0.1 ppm 以上の試料にはSahoo et al.(2006)を参考にタングステンの分離を行い、0.1 ppm 以下の試料に対しては、新しい分離方法を開発し、未知試料に応用した。W 同位体比は、MC-ICP-MS を用いて測定し、ICP-MS で微量元素濃度を測定した。これまでに得た約50 試料のデータはすべて誤差範囲内で一致しており、不均質は観察できなかった。この結果からジャイアントインパクト後は均質化した可能性が高いといえる。しかし不均質が元々小さいため、現段階での測定精度では観察できない可能性がある。また、Hayden and Watson(2007)による白金族元素とタングステンの拡散実験からはタングステンの拡散がほかの元素に比べて早いということが報告されており、不均質が元々存在していたとしても、現在はその不均質がほかの元素に比べて検出されにくくなっている可能性も残っている。

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