群馬県草津温泉を集水域に持つ湯川水系は、強酸性の源泉水の流入のため酸性河川となっている。群馬県は1960年代に酸性河川の水質改善を目的とした河川中和事業を開始し、現在も中和剤(石灰乳液)の河川への直接的投入が行われている。中和生成物は下流に設けられた品木ダムに大量に蓄積するため、ダムでは継続的に堆積泥の浚渫を行っており、浚渫物はダム周辺に設置された土捨場へ運ばれる。河川水の中和によって生じる鉄水酸化物には、源泉水由来のヒ素が吸着・共沈するため、中和生成物は高いヒ素濃度を示し、結果として品木ダムの底質中には高濃度のヒ素が見出される。ダム内あるいは浚渫後の中和生成物からヒ素が再溶出するような事態が起こった場合には、品木ダム周辺の環境に深刻な影響を与える可能性も否定できない。そこで本研究では、品木ダム底質中でのヒ素の化学的安定性について検討を試みた。