抄録
日本のような変動帯においては、活断層を除く断裂構造としての断層や割れ目帯などを避けて地層処分場を建設することは不可能と考えられる。このため、断層や割れ目帯の長期的安定性を理解することは極めて重要である。しかし、断層や割れ目帯については、地下水流動に影響を与えることなどが議論されてきたものの、断層内の構造や鉱物の特徴について長期安定性と関連づけて論じた研究はあまりない。そこで、岐阜県や岡山市で掘削されたボーリングコアで見られる断層や割れ目およびその近傍の花崗岩について、割れ目形態の観察と鉱物学的・地球化学的調査に基づいて考察したところ、次のようなことがわかった。まず、割れ目充填鉱物は、イライトや緑泥石で特徴づけられる高温熱水型と、スメクタイトで特徴づけられる低温還元水型、ならびに水酸化鉄とバーミキュライトで特徴づけられる低温酸化水型に分類可能である。また、イライトは開口割れ目に、緑泥石は剪断割れ目に卓越する傾向にある。天水の地表からの浸透を示すと考えられる水酸化鉄は、イライトやスメクタイトを切る割れ目にも見られる。 これらのことを総合すると、花崗岩体の上昇過程においてその中に生じる割れ目には、高温熱水型から低温還元水型を経て低温酸化水型の二次鉱物が充填していくと推測される。つまり、花崗岩中の割れ目充填鉱物は、岩体上昇過程における温度圧力条件を示している可能性が高い。つまり、割れ目の破砕形態や充填鉱物の特徴を用いて割れ目の形成のタイミングを推定することができ、その断層・割れ目帯の長期的挙動予測のアナログとして応用できると思われる。