炭素質隕石や彗星中に多様な有機物が検出されており,これらの有機物と地球上生命体におけるホモキラリティ(L-アミノ酸,D-糖優位)起源との関連が議論されている。そのシナリオとして,分子雲中の星間塵上で無生物的に生成された有機物に,宇宙空間に存在する円偏光光子,スピン偏極電子などの不斉エネルギーが作用し不斉反応が誘起されたとする仮説が提唱されている。この仮説を検証する目的で,星間物質表面で無生物生成された有機物を模した系として,ラセミックなアミノ酸薄膜を固体基板上に堆積し,この表面に宇宙環境の不斉エネルギー源を模した純粋円偏光光子線,あるいはベータ線に代表されるスピン偏極電子線を照射することにより,薄膜に光学活性を発現させる実験を行っている。講演では、実際の宇宙環境での不斉エネルギー源の観測結果をふまえて,これらが誘起する不斉反応機構の概要を解説するとともに,現在進行中の不斉発現実験の現状を報告する。