日本地球化学会年会要旨集
2010年度日本地球化学会第57回年会講演要旨集
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口頭発表(第一日)
Geofluids:地球内部流体とその役割
  • 鍵 裕之
    原稿種別: 口頭講演
    専門分野: Geofluids:地球内部流体とその役割
    セッションID: 1A01 15-01
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/30
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    我々は、J-PARC の物質・生命科学研究施設(MLF)のパルス中性子源に高圧地球科学をメインターゲットとするビームラインを建設している。このビームラインでは 30 GPaを超える人類未到の圧力領域での中性子回折パターンの測定や、マグマの分子レベルの構造や地球深部での水素の存在状態を解明するための高温高圧下での中性子回折実験が進められようとしている。また、中性子はX線や荷電粒子とは全く異なり水素原子と強い相互作用をするため、中性子によるイメージングによって水素原子、すなわち流体のイメージングを行うことが可能となる。
    講演では、中性子を利用することによって飛躍的に進展が期待される地球内部物質の研究について、世界の動向を踏まえながら現状と近未来の展望を紹介する
  • 松本 拓也
    原稿種別: 口頭講演
    専門分野: Geofluids:地球内部流体とその役割
    セッションID: 1A02 15-02
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/30
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    地球内部には希ガス同位体成分の特徴が異なる様々な領域が存在する。それらの特徴や起源について解説する。希ガスを同位体トレーサーとして地球内部流体の起源を探る上での利点や問題点についても述べる。
  • 石塚 治, 湯浅 真人, 田村 芳彦, 宿野 浩司, スターン ロバート, テイラー レックス
    原稿種別: 口頭講演
    専門分野: Geofluids:地球内部流体とその役割
    セッションID: 1A03 15-03
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/30
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    伊豆小笠原マリアナ弧では、弧の伸びに沿う方向(南北方向)にマグマ組成、地殻構造、マントルウエッジ構造などに顕著なバリエーションが存在する。その主要な要因は、沈み込む太平洋プレートの組成の不均質性によるスラブ由来物質の違いであると考えた (Ishizuka et al., 2007)。しかしながら実際には、島弧マグマに認められる海洋島玄武岩類似の同位体組成上の特徴が、上記のように沈み込み成分であるとするか、あるいはマントルウェッジ内に存在するマントル成分なのか区別することは容易ではない。最近この点について、示唆を与えうる2つの観察事実を得た(Ishizuka et al., 2010)。
  • 中村 仁美, 岩森 光, 石塚 治, 木村 純一, 中川 光弘, 宮崎 隆, 高橋 俊郎, 平原 由香, 常 青
    原稿種別: 口頭講演
    専門分野: Geofluids:地球内部流体とその役割
    セッションID: 1A04 15-04
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/30
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    海溝から沈み込む海洋プレートがマントル深部へ運ぶ水は、スラブ起源流体と呼ばれ、マグマ発生や地震活動に極めて重要な役割を担っている。近年、沈み込み帯における水を媒体とする様々な現象について、地震・電磁気などの地球物理学的観測と高圧実験や地球化学的解析を融合させ,統一的に捉えようとする動きが盛んである。
    中部日本ではスラブが二枚斜行して重なるように複雑に沈み込んでおり、プレートの幾何学的形状や地震学的性質に対応したスラブ起源流体の分布が地球化学的手法により明らかにされている(Nakamura et al.,2008)。また,島弧間の比較から,テクトニクスやスラブ上の脱水条件の違いが,スラブ起源流体の化学組成や付加量を支配することも分かってきた(Nakamura and Iwamori, 2009)。そこで,本研究では,島弧接合部に焦点をあて,島弧の境界部分での異方的構造とスラブ起源流体の関係を明らかにすることで,スラブ流体の挙動について新たな制約を与えることを目的とする。
    島弧接合部として,上信越背弧側(中部~東北)、北海道南西部(東北~北海道)、北海道北東部(北海道~千島弧)の3地域に着目し,火山岩の採取と分析を行った。その結果,上信越背弧側地域では(207Pb/204Pb:15.55-15.57; 143Nd/144Nd:0.51278-0.51293),中部日本で顕著に見られるフィリピン海プレートの影響は認められなかった。北海道南西部では(207Pb/204Pb:15.56-15.58; 143Nd/144Nd:0.51282-0.51290),東北日本弧からの連続性は認められないが,北海道中央部~北海道北東部 (207Pb/204Pb:15.53-15.55; 143Nd/144Nd:0.51294-0.51304)~千島弧へ繋がる同位体組成の変化が顕著に見られた.
    渡島大島は,千島弧のシステマティクスから外れ,スラブ深度や同位体組成の特徴から見ると,東北日本との連続性が良い.そこで,渡島大島と北海道南西部との境界を接合部と捉え,上信越背弧側も合わせて考えると,スラブ起源流体は水平方向の広がりをあまり持たず,その影響範囲は限定されており(<100km; 火山フロント~背弧の距離程度),スラブ起源流体の組成は島弧内でほぼ一定で,キンクを境に不連続にスラブ上での脱水条件が変化し組成を変えていると解釈できる.一方,北海道北東部は,北海道中央部~千島弧にかけてキンクを持たないスラブが沈み込んでおり,遷移的な同位体変化をしていると捉えることができる.これは,陸弧から海弧へテクトニクスが変わることによる流体の挙動の連続的な変化(組成や付加量)を反映しているのかもしれない.
  • 藤永 公一郎, 加藤 泰浩, 高谷 雄太郎, 谷水 雅治, 岩森 光
    原稿種別: 口頭講演
    専門分野: Geofluids:地球内部流体とその役割
    セッションID: 1A05 15-05
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/30
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    日本列島に広く分布する熱水性鉱床は,マグマから発生した,もしくは直接深部から上昇してきた流体が,周囲の岩石や地表付近の天水と反応しながら熱水溶液を形成し,それが沈殿・濃集して生成した硫化物鉱床であり,それゆえ地殻流体の化学組成を保持している可能性が高い.本発表では新潟県・山形県に分布する熱水性鉱床のPb同位体比組成について報告し,鉱床をもたらした流体の起源について検討する.
  • 中井 俊一, サフー ユービン, 豊田 新, 石橋 純一郎
    原稿種別: 口頭講演
    専門分野: Geofluids:地球内部流体とその役割
    セッションID: 1A06 15-06
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/30
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    海底熱水活動の継続時間は鉱床の生成に重要な要因となるだけでなく,近年,化学合成生物群集の進化生態への影響も注目されている.
    ウラン・トリウム放射壊変系列のなかのいくつかの放射性核種を用いた年代測定が,これまで,中央海嶺周辺の熱水鉱床の閃亜鉛鉱などの硫化鉱物に適用されている.本研究では,海底熱水活動域の熱水噴出孔(チムニー)から採取した閃亜鉛鉱を主とする硫化鉱物のの放射非平衡年代測定のために,分析法を開発した.
  • 澁江 靖弘
    原稿種別: 口頭講演
    専門分野: Geofluids:地球内部流体とその役割
    セッションID: 1A07 15-07
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/30
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    Holmes達は250℃,40MPa,4mol/kgまでの塩化マグネシウム水溶液と塩化カルシウム水溶液の熱力学的性質に関する計算式を提案した(Holmes and Mesmer, 1996; Holmes et al., 1994, 1997)。Holmes達は計算結果を数表値にしてまとめているが,見かけの定圧モル比熱と見かけのモル体積を計算すると数表値中の値と異なる。この原因として,論文中の計算式にいくつかの誤り(あるいは誤植)があることと計算式中のパラメータに問題があると考えられる。
  • 吉村 俊平, 中村 美千彦
    原稿種別: 口頭講演
    専門分野: Geofluids:地球内部流体とその役割
    セッションID: 1A08 15-08
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/30
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    地殻内マグマシステムでは,深部起源のCO2流体が浅部のH2Oに富むマグマの中を流れるCO2フラクシングが起きていると考えられている.両者はH2O―CO2濃度に関して非平衡なため,拡散交換により再平衡化する.本研究では,H2O―CO2の交換のカイネティクスを調べるため,水熱装置を用いた高温高圧実験を行った.まず,減圧発泡によりH2Oに富む発泡メルトを合成した.次にこれをCO2に富む流体中で保持し,相互作用させた.その結果,H2Oに富む気泡は溶解した.これは,拡散流束の大きいH2Oがメルトおよび気泡から周囲のCO2流体にすばやく流出したのに対し,拡散流束の小さいCO2は気泡に殆ど入らなかったためと理解される.このことは,CO2フラクシングが起こるとマグマの発泡度は低下する可能性があることを示す.これは,CO2フラクシングを受けたと考えられるガラス片が気泡に乏しいという事実と調和的である.
  • 西本 礼香, 井上 綾, 木川田 喜一, 大井 隆夫
    原稿種別: 口頭講演
    専門分野: Geofluids:地球内部流体とその役割
    セッションID: 1A09 15-09
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/30
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    草津白根山は活動的な活火山であり、山頂には「湯釜」、「水釜」、「涸釜」の3つの火口湖を有する。これら火口湖の水質は草津白根山の火山活動に伴い変動している。そこで、水釜湖水において火山活動に伴う特徴的な水質変化が表れていないかを検討した。過去40年以上における水質経年変動より、火山活動の起きた後に溶存成分濃度の上昇が見られた。水釜湖水は火山ガスからの二酸化硫黄や硫化水素の付加や、含硫黄鉱物の溶解で硫酸イオン濃度の高い酸性水質となっているため、カリウム以外の陽イオンは硫酸イオンの濃度変化と良い相関を示している。一方でカリウムは他の陽イオンとは少し異なる挙動を示し、火山活動とともに顕著な濃度上昇を示す。これより水釜においてカリウムの濃度変化が火山活動の盛衰の指標となると期待される。2005年以降のカリウム濃度の継続的な上昇は近年の火山活動の活発化に対応していると考えられる。
  • 堀口 桂香, 中山 貴史, 松田 准一
    原稿種別: 口頭講演
    専門分野: Geofluids:地球内部流体とその役割
    セッションID: 1A10 15-10
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/30
    会議録・要旨集 フリー
    本研究は,2008年岩手・宮城内陸地震震源域周辺にて,地震の前後におけるヘリウム同位体比の時空間変化を追跡したものである.地震発生1週間後から半年毎に計4回,温泉水と温泉ガスを採集し,溶存ガス中のヘリウム同位体比を測定した.その結果と2006年7月に同じ地点でサンプルを採集・測定した結果とを比較すると,地震直後には5カ所の温泉において10-85%の増加,2カ所において11-35%の減少が観測され,1年後には地震発生前の値に戻っていく傾向がみられた.これらの結果は,同地域の震源域の地下に地震波の低速度域が認められるという地球物理学研究と一致しており,地球化学・地球物理学双方の研究結果は整合的であり,深部から上昇してきたマントル起源の流体が地震発生に関与した可能性を示唆している.
  • 石川 剛志, 廣野 哲朗, 本多 剛, 濱田 洋平
    原稿種別: 口頭講演
    専門分野: Geofluids:地球内部流体とその役割
    セッションID: 1A11 15-11
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/30
    会議録・要旨集 フリー
    近年,地震時の断層の強度低下をもたらす主要な要因の1つとして,摩擦熱による間隙圧上昇(Thermal pressurization)が注目されている。本研究では,付加体中の断層岩の化学組成変化に基づき,地震時における高温の流体岩石相互作用の有無と温度条件の見積もりを行った。付加体の浅部~中深部における断層帯の例として,IODPで掘削された南海付加体中の断層,房総・江見付加体中の断層,四万十付加体・久礼の断層を取り上げ,微量金属元素・同位体の分析を行った。江見の断層帯では地震時にThermal pressurizationが発生した可能性が高く,久礼の断層帯では地震時に最終的な断層の強度低下をもたらしたのは摩擦融解であるがそれに先行して高温流体との相互作用も起こっていたことが明らかとなった。
  • 谷水 雅治, 石川 剛志, 高橋 嘉夫, 丸岡 照幸
    原稿種別: 口頭講演
    専門分野: Geofluids:地球内部流体とその役割
    セッションID: 1A12 15-12
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/30
    会議録・要旨集 フリー
    岩石と流体との相互作用における元素の移動について、室内実験からその分配を見積もった例は多くあるが、実際にどのような鉱物相が消失または生成しているのかをきちんと把握した例はほとんどない。とくに微量元素の場合、その元素を主成分とする鉱物相が作られることは稀なため、X線回折法などでは鉱物相の特定は困難であり、またアモルファス相が生じた場合も検出できない。これに対して放射光X線を利用した元素の吸収端の構造の解析から、目的元素の周囲の配位状態を決定するXAFS法は、元素に敏感な手法なため、とくに微量元素について非常に有効な手段である。本講演では、台湾チェルンプ断層掘削試料について、岩石-流体の相互作用により大きく濃度が変動する元素に注目し、XAFS法を用いてその移動相の推定を行った。
火成岩の地球化学
  • 佐野 貴司, 柵山 徹也, 山崎 徹
    原稿種別: 口頭講演
    専門分野: 火成岩の地球化学
    セッションID: 1A13 16-01
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/30
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    統合国際深海掘削計画の1256D孔で採取された噴出岩(溶岩),貫入岩,はんれい岩の全岩および鉱物科学分析結果を基に中央海嶺下で起こっているマグマシステムを提案した.全てのマグマは中央海嶺下の浅いメルトレンズ(50-100MPa)内で停滞したと考えられる.また半分程度の貫入岩は噴出岩よりマグマ密度が高いため,噴出しなかったと想定した.またメルトレンズ内ではマグマの分化と新しいマグマの注入が繰り返し起こっていたことが示唆された.
  • 中村 謙太郎, 高井 研, 加藤 泰浩
    原稿種別: 口頭講演
    専門分野: 火成岩の地球化学
    セッションID: 1A14 16-02
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/30
    会議録・要旨集 フリー
    太古代海底玄武岩の炭酸塩化作用をもたらす変質条件を地球化学モデルによって検証した。その結果、(1)炭酸塩化作用は、CO2濃度が現在のおよそ10倍以上になると顕著になること、(2)炭酸塩化作用は、低温・高水岩石比条件ほど起こりやすく、高温・低水岩石比条件では起こらないこと、(3) CO2濃度の上昇、温度低下、水岩石比の上昇に伴って、Caの分配先は(a)珪酸塩鉱物 → (b)珪酸塩+炭酸塩鉱物 → (c)炭酸塩鉱物へと変わること、(4)太古代(35億年前)の海洋地殻は、現在より少なくとも数十倍程度高いCO2濃度条件下で変質していることがわかった。
  • 高谷 雄太郎, 中村 謙太郎, 加藤 泰浩
    原稿種別: 口頭講演
    専門分野: 火成岩の地球化学
    セッションID: 1A15 16-03
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/30
    会議録・要旨集 フリー
    CO2帯水層貯留の貯留サイトとして,地中の玄武岩層に注目が集まっている.玄武岩は反応性が高く,またCaやMg,Feといった,炭酸塩鉱物を形成しやすいアルカリ土類元素に富んだ組成を持つことから,CO2貯留の長期安全性を規定する地化学トラッピングが速やかに進行すると期待されるためだ.本研究では,玄武岩層内におけるCO2地化学トラッピングの進行速度やその特性を明らかにするため,貯留層を模した実験条件下でCO2‐水‐岩石反応を実施した.発表では,得られた実験データをもとに長期的な炭酸塩鉱物の形成モデルを提示し,さらにCO2の固定効率の推定を行う.
  • 羽生 毅, ドッソ ローレ, 谷 健一郎
    原稿種別: 口頭講演
    専門分野: 火成岩の地球化学
    セッションID: 1A16 16-04
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/30
    会議録・要旨集 フリー
    フレンチポリネシアのAustral諸島の火山島にはHIMUと呼ばれる特徴的な同位体組成を持つ火山岩が陸上部分で見つかっている。これらの火山島において「しんかい6500」を用いて火山島海底部の観察を行い、火山岩試料採取に初めて成功した。海底部から得られた火山岩試料を陸上部分の試料の組成と比較したところ、同位体組成に明らかな違いがあった。この組成差を検討し、ホットスポット火山のマグマソースの起源、及びソースの不均質性を明らかにした。
  • 山本 順司, Shimizu Nobumichi, Kurz Mark
    原稿種別: 口頭講演
    専門分野: 火成岩の地球化学
    セッションID: 1A17 16-05
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/30
    会議録・要旨集 フリー
    硫黄は地球中に6番目に多く存在する元素であり,その大部分はコアに分配されていると考えられている.そのため,マントルへのコアの関与を考慮した全地球化学マップを作り上げる上で重要な制約を与える可能性を秘めている.
    しかし,マントルを代表する海洋玄武岩の硫黄同位体組成は,古くから分析技術が確立されていながら長い沈黙の時代を経てきた.その理由としては2点考えられる.1つは先駆的な研究によって一様な硫黄同位体組成が報告されており,それらの値が隕鉄に重なっていたことである.もう一つは隕鉄と異なる硫黄同位体組成が得られていても,平衡脱ガスに伴う同位体分別で説明可能な変異であったためである.
しかし,本研究で測定したハワイ島近海のロイヒ海山の硫黄同位体組成は海水混染でも平衡脱ガス分別でも解釈不可能な変異を見せた.
  • 町田 嗣樹, 平野 直人, 加藤 泰浩, 阿部 なつ江
    原稿種別: 口頭講演
    専門分野: 火成岩の地球化学
    セッションID: 1A18 16-06
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/30
    会議録・要旨集 フリー
    北西太平洋に存在する3つのプチスポット火山フィールドに産するアルカリ玄武岩の地球化学データセットの検討によって、マグマの主要元素・微量元素組成の特徴に地域性があることが判明した。これらのデータは、マグマの起源物質とそれらの溶融条件が、フィールド毎に異なることを示唆する。一方、フィールド内には、火山毎にわずかな組成の違いが認められ、それらは起源物質のわずかな組成の違いと部分溶融度の差によって説明できる。場所によっては、一つの火山で起源物質の特徴または部分溶融度が異なるマグマが共存する例も認められる。北西太平洋のプチスポットは、起源物質の性質とマグマ生成から噴火に至る過程が小さな火山毎に異なり、独自のマグマシステムを形成する、個性豊かなマグマ活動であることが明らかになった。
  • 西尾 嘉朗, 佐野 有司
    原稿種別: 口頭講演
    専門分野: 火成岩の地球化学
    セッションID: 1A19 16-07
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/30
    会議録・要旨集 フリー
    沈み込み帯の水循環に関する知見を深めてくれることを目的として,プレート収束域の海洋底火山岩の縁辺部に発達する急冷ガラス部のリチウム,ストロンチウム,ネオジム,ヘリウムの同位体組成を測定した。本発表では,中央海嶺やプレート内の海洋底火山岩試料のデータと比較することで,プレート収束域のリチウム循環を議論する。
  • 中村 仁美, 岩森 光
    原稿種別: 口頭講演
    専門分野: 火成岩の地球化学
    セッションID: 1A20 16-08
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/30
    会議録・要旨集 フリー
    スラブ起源流体とは,沈み込む海洋プレートを構成する海洋性堆積物と海洋地殻中に存在する含水鉱物から放出される,水と水に親和する元素を含んだ流体を指す。沈み込み帯マントルウェッジにおいて,この流体が存在していることは,地震波解析・高圧含水岩石実験・地球化学的解析・数値計算によって明らかになっている(e.g., Morris & Tera, 1989; Kamiya & Kobayashi, 2000; Kawakatsu & Watada, 2007; Iwamori, 2007)。しかし,その挙動は,スラブ起源流体のスラブ中のキャリアーである含水鉱物の安定領域が温度圧力に依存するため,一意に決めることが出来ない。そこで,我々は,スラブ起源流体が関わって生じたと考えられる島弧火山岩から,これらについて制約を与えようとしている。
    島弧火山岩は,放出されたスラブ起源流体を含んだマントルウェッジが融解し生じた産物である。水はマグマと共に地表に運ばれるので,火山岩中にスラブ起源流体の痕跡が残ると考えられる。実際,日本全域(北海道-クリル弧,東北日本弧,中部日本,伊豆弧,西南日本,琉球弧)でのスラブ起源流体の化学組成が,始源的火山岩の鉛-ネオジム同位体比を用いて統一的に推定されており,島弧毎に異なることが明らかになっている(Nakamura & Iwamori,2009; 中村ほか,2010,地球化学会年会講演要旨)。これら島弧間での対極的な化学組成の違いは,起源である沈み込む海洋プレートの構成物質の化学的特徴が太平洋プレートとフィリピン海プレートで異なることに起因する。一方,単一のプレートが沈み込む島弧間でも違いがあり,温度構造を反映したスラブ上の脱水条件の違いを示唆していると考えられる。そこで,スラブ起源流体の付加量を地球化学的パラメータとしてマッピングすることで,スラブ起源流体の日本弧下マントルウェッジにおける分布を明らかにし,その挙動について制約を与えることを試みた。
    その結果,スラブ起源流体の分布は,地球物理学的観測によって推定されるスラブの形状や深度と非常に良い対応関係が見られ,火山フロントと背弧側を対比させると,付加量の違い(前者で多く,後者で少ない)と読みとることができる。しかし,先述のように,スラブからの脱水はウェッジマントルの温度構造に強く依存するため,島弧横断方向の変化はスラブ上の脱水プロセスの違いと読みとることも可能である(e.g., Kimura & Yoshida, 2006)。今後は,ウェッジマントルにおけるメルトの生成・移動も含めてスラブ起源流体を議論する必要があると同時に,地球物理学的な観測から,地殻の厚さやウェッジの温度構造など島弧内の地域差をどこまで詳細に押さえられるかが重要である。
  • 三好 雅也, 佐野 貴司, 長谷中 利昭, 福岡 孝昭
    原稿種別: 口頭講演
    専門分野: 火成岩の地球化学
    セッションID: 1A21 16-09
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/30
    会議録・要旨集 フリー
    複雑なテクトニクス場にある九州において,フィリピン海プレートの沈み込みに関連した火山活動の開始時期を探るため,広い範囲から複数の新第三紀~第四紀玄武岩試料を採取し,それらのホウ素含有量の時間・空間変化を調査した.中部火山フロントの阿蘇,霧島玄武岩類が著しく高い値を,北部,南部火山フロント玄武岩類は低い値を示す.この島弧縦断方向の変化は,北部,南部,中部火山フロント直下にそれぞれ四国海盆,九州-パラオ海嶺,西フィリピン海盆という年代の異なるセグメントが沈み込んだ影響を反映している可能性がある.また,背弧側玄武岩類および後期中新世~鮮新世玄武岩類が持つ微量のホウ素は,過去の海洋プレート沈み込みによって供給された流体の影響を反映している可能性があり,九州におけるフィリピン海プレート由来流体の供給に関連した火山活動は,第四紀以降の火山フロントに限られるのかもしれない.
  • 新村 太郎, 荒川 洋二, 三好 雅也, 柴田 知之
    原稿種別: 口頭講演
    専門分野: 火成岩の地球化学
    セッションID: 1A22 16-10
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/30
    会議録・要旨集 フリー
    阿蘇火山および周辺地域に分布する先カルデラ期から後カルデラ期の火山岩を採取し87/86Sr,143/144Nd同位体比および全岩化学組成の測定を行った.Sr-Nd比ダイアグラム上で,前期先カルデラ期の噴出物の同位体比はSr比・Nd比がおよそ0.7040・0.51285(A)と0.7044・0.51270(B)付近の2つの領域に分かれる.後期先カルデラ期と後カルデラ期ではこの2領域の間にばらついた分布をする.カルデラ期ではこれらの間の狭い領域に分布する.根子岳以外の間カルデラ期のデータも同様である.以上の結果を以下のように解釈した。後期先カルデラ期以降の火山岩を作ったマグマは,前期先カルデラ期の2成分を作った物質が端成分となった,もしくはSr比が低いAを作った物質に地殻物質が関与した.間カルデラ期を含むカルデラ期と後カルデラ期の地球化学的特徴が異なるため,両者のマグマ形成プロセスは異なっている.
  • 浜田 盛久, 川本 竜彦, 藤井 敏嗣, 高橋 栄一, 斉藤 元治
    原稿種別: 口頭講演
    専門分野: 火成岩の地球化学
    セッションID: 1A23 16-11
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/30
    会議録・要旨集 フリー
    無水鉱物は,ppmオーダーの微量な水を含むことができる.鉱物中の水は,拡散によって数時間から数日の時間スケールで含水量が変化し得るので,数時間から数日程度の時間スケールの,脱ガスを伴う噴火過程を解明するツールとして有用である.本発表では,伊豆大島火山1986年噴火において山頂火口から流出し,2-3日以内に大気圧下で冷却・固化した溶岩流中の斜長石の含水量を分析した結果を報告する.私たちは,これまで伊豆大島火山1986年山頂噴火のスコリア中の斜長石の含水量の値を報告し,(A) 220-300ppm,(B) 100-180 ppm,(C) 20-50 ppmという3つの不連続な値を示していることを示した.またそれらが,異なる深度で水に飽和したマグマと共存した後,噴火に至った結果であることを論じた(例えば,浜田・川本・藤井 2008年度日本地球化学会年会).一方,新たに分析した溶岩流の斜長石は, An値に関わらず(C)20-50 ppm H2Oの値を示した.スコリアの斜長石は,複数の深度のマグマ溜まり(深度8-10km,深度約4km)で水に飽和したメルトと噴火直前まで共存しており,噴火直後に急冷されたと考えられる.一部の斜長石(C)は,山頂火口部のほぼ無水のメルトと共存した後に噴出して急冷されたのであろう.一方,溶岩流中の斜長石は,2-3日間,大気圧下を流れて徐冷された結果,拡散により比較的高い含水量(最大で約300 ppm)から20-50 ppmへと減少したと考えられる.
  • 柵山 徹也, 角野 浩史, 中井 俊一, 芳川 雅子, 柴田 知之, 長岡 信治, 板谷 徹丸, 常 青, 宮崎 隆, 高橋 俊郎, 平原 ...
    原稿種別: 口頭講演
    専門分野: 火成岩の地球化学
    セッションID: 1A24 16-12
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/30
    会議録・要旨集 フリー
    背弧域でも沈み込んだスラブが関連した何らかの熱・物質のやり取りが上部マントルにおいて行われていると考えられている。しかし、背弧域マントルにおいてどのような時間・空間スケールでどうやって何が輸送されているのかはほとんど明らかにされていない。背弧域の火山岩は未分化に近い組成を示す玄武岩が多く、広い時間・空間スケールにわたって上部マントルの熱・物質履歴を解析するのに適している。そこで新生代に九州北西部および韓半島に噴出した玄武岩を対象として、地質学的情報に基づいた岩石学的・地球化学的検討を行った。活動した時代は異なるが北西九州より韓半島下のマントルの方が低温で、スラブからの影響は小さいことが分かった。今後はより活動年代・地域を拡げた検討が必要である。
  • 兼岡 一郎
    原稿種別: 口頭講演
    専門分野: 火成岩の地球化学
    セッションID: 1A25 16-13
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/30
    会議録・要旨集 フリー
    火成岩の化学・同位体組成から地球内部の化学的環境に関する情報をいかに得るかについて、キンバーライトを例にして考察する。キンバーライトはダイアモンドを含むので、そのマグマ源は150kmより深い部分に存在すると推定されている。超塩基性岩でありながらアルカリ元素や揮発性元素などに富んでおり、上部マントルを構成するかんらん岩の場にH2O,CO2などの存在が要請されている。Sr,Nd同位体比などからグループ1とグループ2に区分されるが、大多数を占めるグループ1はBulk Earthの値の周辺に集中する。またHe同位体比は、ハワイなどのOIBと同様の値を示す。これらから、キンバーライト1のマグマ源は下部マントル内で相対的に未分化で脱ガス程度の少ない部分に存在することが示唆される。
  • 清水 健二, 常 青, 中村 謙太郎
    原稿種別: 口頭講演
    専門分野: 火成岩の地球化学
    セッションID: 1A26 16-14
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/30
    会議録・要旨集 フリー
    高温電気炉を用いて岩石粉末のみを完全溶融し、均質なガラスにし、そのガラスを従来のHF+HClO4を用いた酸分解し、四重極ICP-MSで微量元素組成を分析した。本手法をGSJとUSGSの標準岩石粉末に応用した結果、Pb, Tlなどの一部の揮発性元素を除き、推奨値や公表値と非常によく一致した。本手法を用いると多量の花崗岩(~0.5g)を迅速かつ完全に分解(溶液化)できる。
  • 堤 之恭, 堀江 憲路, 白石 和行, 横山 一己
    原稿種別: 口頭講演
    専門分野: 火成岩の地球化学
    セッションID: 1A27 16-15
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/30
    会議録・要旨集 フリー
    野母崎半島北東部・茂木の近辺のスラスト近傍に小規模な花崗岩質岩塊が確認されていた。
    この岩塊について、極地研究所のSHRIMP IIでジルコンのU-Pb年代を測定した。その結果は、その荷重平均は117.0 ±0.4 Maを示した。この年代は花崗岩質岩の形成年代と考えられ、その産状からスラストに混じりこんだ構造岩塊と考える方が自然である。また、110-120 Maのジルコン年代を示す花崗岩質岩は西南日本では稀であり、現在までに肥後帯・宮の原岩類からしか報告されていない。年代的側面からも、この構造岩塊が肥後帯に帰属する可能性は高いと考えられる。
放射性廃棄物と地球化学
  • 山口 耕平, 河田 陽介
    原稿種別: 口頭講演
    専門分野: 放射性廃棄物と地球化学
    セッションID: 1B01 02-01
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/30
    会議録・要旨集 フリー
    深部地下水の挙動を実測した研究報告は限られている。このため、地下深部への放射性廃棄物処分を計画立案において、深部地下水の滞留時間の実態把握とデータ蓄積が望まれている。本研究では、地下深部における地下水の停滞状況を把握する手法として、H-3法、C-14法、Cl-36法などの複数の地球化学年代測定手法を地下深部から採取した地下水に適用した。地下水試料は、地下数百mのボーリング孔を利用し、マルチパッカーシステムを設置して、地表付近から深度350m付近まで、深度別に採水した。
    その結果、深度別の地球化学年代には明瞭な差が確認され、地下水流動系が層状を成していることが示唆された。
  • 山本 祐平, 青才 大介, 水野 崇
    原稿種別: 口頭講演
    専門分野: 放射性廃棄物と地球化学
    セッションID: 1B02 02-02
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/30
    会議録・要旨集 フリー
    地下水中に存在するコロイドは様々な元素の挙動に影響を与えることが予想され、高レベル放射性廃棄物の地層処分に関わる安全評価では、コロイドによる元素の挙動への影響を評価する必要性が指摘されている。しかし、地層処分が想定される深度300m以深におけるコロイドに関する研究例は少ない。これは、被圧・嫌気状態で存在している地下水中のコロイドが、採水時の圧力解放による脱ガス、空気暴露による酸化、掘削時の人為的な汚染等により変質するという問題の他、コロイドの存在量が希薄であるために分析に必要な量を回収することが困難であることに起因する。本研究では、地下水中のコロイドの化学的特性を把握することを目的として、その回収および分析手法の検討を行った。コロイドの回収および前処理では、試料が酸化されないことを確認した。電子線、赤外線、X線を用いた分光分析を実施した結果、少ない試料量でコロイドの元素組成やその酸化状態を把握できることが示された。本研究で採用したコロイドの回収・分析手法を用いることで、コロイドが元素の挙動に及ぼす影響評価のために必要な化学的特性の情報を取得できることを示した。
  • 南條 功, 天野 由記, 岩月 輝希, 村上 裕晃, 佐々木 祥人, 吉川 英樹
    原稿種別: 口頭講演
    専門分野: 放射性廃棄物と地球化学
    セッションID: 1B03 02-03
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/30
    会議録・要旨集 フリー
    JAEA幌延深地層研究所では,地下施設の建設が周辺地質環境に与える影響を評価するための技術開発を目的として,地下坑道で地下水の採水と間隙水圧及び物理化学パラメーター(pH,電気伝導度,溶存酸素,酸化還元電位,水温)の同時連続観測が可能なモニタリング装置を製作・設置し,観測を行っている。観測の結果,観測区間すべてにおいて立坑掘削の影響に伴う水圧低下の傾向が示され,立坑により近い区間において大きな水圧変化が確認された。また,地下水中の微生物群集について遺伝子解析を行った結果、深度が深くなるにつれてメタン生成菌が優占する群集組成であり、地下水の酸化還元状態を反映した微生物組成となっていることが示された。今後の連続観測により地下水湧水量と水圧・水質の変化量などの関係を整理していくとともに,水圧・水質モニタリング装置の改良を行い,観測技術を整備していく。
  • 福永 栄, 宮坂 郁, 吉川 英樹
    原稿種別: 口頭講演
    専門分野: 放射性廃棄物と地球化学
    セッションID: 1B04 02-04
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/30
    会議録・要旨集 フリー
    深さ最大500mの井戸から採取した地下水の微生物利用性を評価するため、Ultimate BODなどを測定した。地下水中の有機物が微生物により利用されうること、ただしその分解は酢酸塩より遅いことなどがわかった。
  • 大貫 敏彦, 香西 直文, 姜 明玉, 宇都宮 聡, 桑畑 進
    原稿種別: 口頭講演
    専門分野: 放射性廃棄物と地球化学
    セッションID: 1B05 02-05
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/30
    会議録・要旨集 フリー
    、微生物起源のナノ粒子の観察にイオン液体蒸着法を用いてその有効性を調べた。その結果、希土類元素ナノ粒子の観察では、親水性イオン液体および疎水性イオン液体で蒸着した試料とも酵母細胞と希土類元素ナノ粒子を確認できた。したがって、イオン液体による蒸着法は微生物起源のナノ粒子を電子顕微鏡で観察するための有効な蒸着法であると考えられる。
  • 山下 光雄, 清 和成, 惣田 訓, 池 道彦
    原稿種別: 口頭講演
    専門分野: 放射性廃棄物と地球化学
    セッションID: 1B06 02-06
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/30
    会議録・要旨集 フリー
    セレンは、一般的には-2、0、+4及び+6の原子価(酸化数)を持つ形態をとる非金属元素である。元素態セレン(0)は水に不溶性であり、酸化や還元作用が受けにくく、安定な形態である。セレン化物(-2)は、水素化物、有機物、金属との化合物として存在する。一方、急性及び慢性毒性を持つ酸化物であるセレン酸(+6)および亜セレン酸(+4)は、安定な水溶性イオンとして存在する。セレンの工業的利用は、化学薬品から冶金用途に至るまで多岐に渡っている。人的活動がセレン循環に大影響を及ぼすことから、高濃度セレン汚染を防止するために、排水基準が0.1ppmに定められている。発表達はこれまでセレン酸(+6)を特異的に元素態セレン(0)に還元する異なる2種類のセレン酸還元細菌を分離、機能解析してきた。セレン酸(+6)を排水中から直接除去することは現時点でも容易ではないことから、上記の微生物の還元作用を利用すれば、比較的容易にセレン酸(+6)から元素態セレン(0)に還元し、物理化学的処理を必要としない経済性の高い、除去回収プロセスに応用できるのではないかと考えられる。このような金属代謝に関与する微生物機能を探索・駆使して利用するテクノロジーは、今世紀の元素戦略の重要な役割を担うと考えている。
  • 嶋本 洋子, 高橋 嘉夫, 天野 由記, 松崎 浩之, 村松 康行, 岩月 輝希
    原稿種別: 口頭講演
    専門分野: 放射性廃棄物と地球化学
    セッションID: 1B07 02-07
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/30
    会議録・要旨集 フリー
    放射性ヨウ素が高濃度に含まれる放射性廃棄物は地層処分される予定であるため,地下環境でのヨウ素の移行挙動の理解は重要である.本研究では,日本原子力研究開発機構幌延深地層研究センターで掘削された堆積岩コア試料と地下水のヨウ素の濃度分析,化学形態分析,ヨウ素同位体比分析を行った.地下水中のヨウ素濃度は地下深部で高く,塩素濃度と良く相関した.岩石中のヨウ素の濃度は,稚内層(珪質泥岩)と声問層(珪藻質泥岩)の境界付近で急激に濃度が低くなる傾向が見られた.ヨウ素は地下水中ではヨウ化物イオンとして存在し,堆積岩中では有機ヨウ素と無機ヨウ素の混合で存在していた.ヨウ素同位体比は,地下水よりも岩石から水抽出したヨウ素の方がやや高い値であった.これらのことから,一度岩石中に有機態として蓄積していたヨウ素が続成過程で特に稚内層においてヨウ化物イオンとして解離し,圧密などによって上位の声問層まで移動した可能性が考えられる.
  • 南 雅代, 吉田 英一, 浅原 良浩, 丸山 一平
    原稿種別: 口頭講演
    専門分野: 放射性廃棄物と地球化学
    セッションID: 1B08 02-08
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/30
    会議録・要旨集 フリー
    コンクリートの中性化進行の定量的な指標として放射性炭素(14C)を新たに提案し、14Cの化学的定量性・感度、および反応時間の指標としての検討を行ってきている(淺原ほか, 2009; 丸山ほか, 投稿中)。その結果、14C濃度は、フェノールフタレインの呈色反応によって評価される中性化フロントよりもかなり奥まで変化しており、中性化プロセスは単純ではないものの、14Cを用いることでコンクリートの中性化進行プロセスを推定できる可能性があることが明らかになった。これらの知見のうち、本講演においては、実構造物のコンクリートの表層の中性化領域から深部の未中性化領域にかけての元素移動の観察結果について報告する。
  • 石黒 勝彦
    原稿種別: 口頭講演
    専門分野: 放射性廃棄物と地球化学
    セッションID: 1B09 02-09
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/30
    会議録・要旨集 フリー
    原子力発電環境整備機構(NUMO)は,地層処分事業を推進するにあたって基本としてきた安全確保を中心とした取り組み方針・方策(安全確保構想)とそれを支える地層処分技術の信頼性の更なる向上について示す2010年技術レポート(仮称)を,2010年度末の完成を目途に取りまとめている。そのうち,安全確保構想については,2010年4月に「安全確保構想2009」として先行して公表した。2010年技術レポートは,「安全確保構想2009」の内容を更に拡充させた事業編と,地層処分技術の信頼性の更なる向上と事業の展開に必要な技術の整備状況を取りまとめた技術編から構成される。
    本報告では,2010年技術レポートの全体概要について紹介するとともに,その中で述べられているセーフティケース(安全性を立証するための証拠や論拠の統合)の考え方,研究開発分野間の連携・統合,基盤研究開発へのニーズなどの観点から,地球化学に関連する研究開発への期待について述べる。
  • 田中 剛, 片岡 良輔
    原稿種別: 口頭講演
    専門分野: 放射性廃棄物と地球化学
    セッションID: 1B10 02-10
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/30
    会議録・要旨集 フリー
    放射線量の違いが瞬時に検出される程の歩道の境がある(差がない所もある)ことがわかった。この線量の多様性を点字ブロックや階段の音楽のように、通路標識(Radio Guide Way)として利用出来ないだろうか?点字ブロックや音楽信号は,摩耗や故障することがあるかもしれないが、カリウムやウランからの放射線は数億年経っても変わらない。岩石を骨材とするブロックは、不要になれば自然に返すこともできる。骨材を選ぶだけで余分な工事費はかからない。
  • 徳井 佑樹, 鹿園 直建, 山川 稔, 藤井 直樹
    原稿種別: 口頭講演
    専門分野: 放射性廃棄物と地球化学
    セッションID: 1B11 02-11
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/30
    会議録・要旨集 フリー
    高レベル放射性廃棄物の地層処分では,現在多重バリアシステムによる処分方法が考えられているが,その一層であるベントナイトと処分層の地下水との水-岩石反応によるベントナイトのバリアとしての機能の低下が懸念されている.本研究では,地下水として高アルカリ性のものを取り上げ,またナチュラルアナログと呼ばれる手法を用いた高アルカリ地下水の生成メカニズムの解明および高アルカリ地下水とベントナイトの長期反応メカニズムの解明を目的とした.本発表では高アルカリ地下水の生成メカニズムの解明を中心に扱う.
  • 菊池 麻希子, 長尾 敬介, 馬上 謙一, 日高 洋
    原稿種別: 口頭講演
    専門分野: 放射性廃棄物と地球化学
    セッションID: 1B12 02-12
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/30
    会議録・要旨集 フリー
    中央アフリカ,ガボン共和国のオクロ・バゴンベウラン鉱床では,約20億年前に大規模な核分裂連鎖反応が起こったことが確認されている。これまでに発見された18か所の天然原子炉の中で,バゴンベ天然原子炉は地表から約12mの浅所に位置しており,激しい風化作用を受けている。原子炉上部を覆っている粘土層中の二次ウラン鉱物,ジルコンの局所同位体分析の結果から,これらの鉱物には原子炉部分またはその周辺に存在していたウランならびに核分裂起源軽希土類元素が再分配され固定されていることが明らかとなった。また,粘土層中に見出されるジルコンのウラン含有量(<0.01-22.2 wt.%)は非常に幅広いことが示されている。本研究では,バゴンベ天然原子炉上部に存在するジルコンを用いて,1)レーザー抽出法による一粒のジルコンの希ガス同位体分析法の確立,2)ジルコン内部に存在する核分裂起源Kr, Xeの検出,および希ガス同位体組成の変動に関与する核反応の特定,を目指し測定を行った。
  • 日高 洋
    原稿種別: 口頭講演
    専門分野: 放射性廃棄物と地球化学
    セッションID: 1B13 02-13
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/30
    会議録・要旨集 フリー
    本講演では,天然原子炉として知られるアフリカ・ガボン共和国オクロ鉱床の同位体研究によるこれまでの演者らのデータを総括し,その中でも特に高い核分裂生成収率を有する質量数85~105および125~145近傍の核種を含むRb, Sr, Zr, Mo, Ru, Pd, Xe, Ba, La, Ce, Nd等の元素(単核種元素をのぞく)について,その長期的挙動を考察する。
地球化学と生理学の融合:生体プロセスの研究から地球化学へ
  • 土屋 正史, 力石 嘉人, 大河内 直彦, 高野 淑識, 小川 奈々子, 藤倉 克則, 吉田 尊雄, 喜多村 稔, リンジー ドゥーガル, ...
    原稿種別: 口頭講演
    専門分野: 地球化学と生理学の融合:生体プロセスの研究から地球化学へ
    セッションID: 1C01 06-01
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/30
    会議録・要旨集 フリー
    海洋生態系は,様々な生物群集からなる構成されており,複雑な被食―捕食の生物間相互作用の上に成立しているため,その構造を明らかにすることは難しい。現在の海洋生態系は,様々な環境変遷を経てきた生物群集から構成されており,このような生物間の相互作用や進化を通して,現在の海洋生態系が形成されている。海洋生態系の構造を明らかにすることは,環境変化に対する生物の応答様式や温暖化に伴う海洋生態系の構造の変化の追跡,あるいは多様性の維持機構を明らかにする上でも非常に重要である。
    アミノ酸の窒素同位体比に基づく栄養段階の推定法は,複雑な生態系の栄養段階を明瞭に示すことができる重要なツールである。この手法は,海洋研究開発機構で開発された新たなツールであり,栄養段階に伴い食物連鎖の上位の生物ほど15Nの濃縮が見られるアミノ酸(グルタミン酸など)と,栄養段階によらずほぼ一定の窒素同位体比を持つアミノ酸(フェニルアラニンなど)を用いることで,生物の栄養段階を正確に求めることを基盤技術としている。アミノ酸の窒素同位体比の変化は,生物個体内の代謝による同位体分別の影響により,栄養段階の上昇が生じるという生物の生理学的特性に起因しているため,同位体分別の背景を理解した上で栄養段階を推定できることに大きな利点がある。
    われわれは,アミノ酸の窒素同位体比分析技術を用いて,海洋生態系のダイナミクスと生態系を構成する海洋生物の進化や共生現象を介した環境への適応様式を理解し,資源などのエネルギーが表層から底層への梯子を段階的に連鎖する「梯子モデル」が,どのように成立しているのかを検証する。具体的には,1)海洋生態系の構造を明らかにすること,2)海洋生物の共生系の仕組みを明らかにすることであり,前者では,被食―捕食の関係から食物網構造を明らかにするとともに,生態・生化学・進化生態学的な解析をあわせることで,海洋生態系の構造と役割,進化を明らかにする。後者では,遺伝子からその代謝機能を推定するとともに,共生系内での物質の流れを安定同位体から明らかにし,宿主あるいは共生生物の依存度を明らかにし,共生を介した生態や進化を理解することを目指している。 これまでに,海洋の化学合成生態系や光合成生態系などを構成する真核生物の栄養段階を推定するとともに,共生細菌などの共生生物と宿主との関係を窒素同位体比と遺伝子から得られた代謝機能との関係を推測した。相模湾の底層生態系では,甲殻類などが光合成生態系由来の生物に依存する生物を捕食するとともに,化学合成生態系に依存する生物を捕食する。このように底層生物は複数の生態系に依存した栄養摂取形態を持つと考えられ,各アミノ酸の窒素同位体比は,利用する資源の由来を推測できる可能性がある。また,冷湧水系の化学合成生態系では,海底下からの湧水に依存するため軽い窒素同位体比を持つのに対して,光合成生態系では重い値を示す。アミノ酸窒素同位体比は,各生態系における栄養段階を理解するだけではなく,光合成生物の化学合成系依存の割合を理解することもできる。発表では,相模湾を中心とする海洋生物のアミノ酸窒素同位体の結果とそれを基にした栄養段階について紹介する。
  • 力石 嘉人
    原稿種別: 口頭講演
    専門分野: 地球化学と生理学の融合:生体プロセスの研究から地球化学へ
    セッションID: 1C02 06-02
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/30
    会議録・要旨集 フリー
    生物に含まれるアミノ酸には,代謝メカニズムの違いにより,食物連鎖に伴い窒素同位体比が上昇するもの(グルタミン酸など)と,食物連鎖の影響を受けずに同位体比が変化しないもの(フェニルアラニンなど)が存在する。すなわち,生物に含まれる両者の同位体比を比較することで,その生物の栄養段階を見積もることができ,また,後者のアミノ酸の同位体比は,その生物が属する食物連鎖網のベースにある生物(一次生産者)の同位体比といえる。発表では,アミノ酸の窒素同位体比分析法の概要と,これまでに我々の研究室で得られた結果を紹介する。
  • 李 娜, 山田 桂太, 服部 良太, 柴田 裕樹, 吉田 尚弘
    原稿種別: 口頭講演
    専門分野: 地球化学と生理学の融合:生体プロセスの研究から地球化学へ
    セッションID: 1C03 06-03
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/30
    会議録・要旨集 フリー
    In this study, we developed measurement methods of intramolecular carbon isotope ratio of acetaldehyde. First we examined the experimental conditions by an off-line method, which consist of the sealed tube pyrolysis following a gas chromatography / combustion / IRMS (GC/C/IRMS). Next, based on the results of off-line method, we developed an on-line method for a simple, time-saving, high precision (0.5‰ or better) and small sample-size (nanomolar level) procedure measuring the intramolecular carbon isotope ratio of acetaldehyde using gas chromatography / pyrolysis / gas chromatography / combustion / IRMS (GC-P-GC-C-IRMS) coupled with solid-phase microextraction procedure (SPME). This method enabled us to determine stable isotope ratio at the low concentration (10 nmol) with high precision of +0.5‰. This also implied that the on-line method could be applied on determining the intramolecular isotopic ratio of environmental samples. We applied the on-line method on leaves samples.
  • 中村 英人, 沢田 健, 高橋 正道
    原稿種別: 口頭講演
    専門分野: 地球化学と生理学の融合:生体プロセスの研究から地球化学へ
    セッションID: 1C04 06-04
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/30
    会議録・要旨集 フリー
    陸上古植生復元は化石記録に基づいて行われてきたが,中生代などの古い時代においては被子植物の出現と初期進化過程などをはじめ,未解明な部分が多く残されている。陸上植物の生体テルペノイドに由来するテルペノイドバイオマーカーは大まかに被子植物や裸子植物などの起源分類群と関連づけられるため,演者らはテルペノイドバイオマーカーを用いた古植生指標,特に被子植物植生指標を検討するため,中生代以降の被子・裸子・シダ植物化石の詳細なテルペノイド組成分析を行った。植物由来テルペノイドの続成過程は芳香族化が卓越し,芳香族化合物を用いた被子/裸子植物植生指標ar-AGIが分類群の違いをよく反映する指標として有望であることが示された。さらに,他の分類群に特有の化合物についても探索を行い報告する。
  • 沢田 健, 中村 英人, 荒井 高明
    原稿種別: 口頭講演
    専門分野: 地球化学と生理学の融合:生体プロセスの研究から地球化学へ
    セッションID: 1C05 06-05
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/30
    会議録・要旨集 フリー
    陸上高等植物の表皮や樹皮などの疎水的で硬い組織を構成する高分子量有機物は,抵抗性高分子と呼ばれる。抵抗性高分子は細胞壁や植物体に物理的強度を付与したり,微生物や昆虫の作用に対して植物体に抵抗性を与えるなどの働きをもつ。このような有機物は、植物体が堆積した後の微生物分解や続成作用に対しても抵抗性があり,古代堆積物中でもよく保存されている。演者らの研究グループでは,植物化石の抵抗性高分子の有機・生化学分析から,古植物の分類や植物生理,環境応答を復元する方法,さらに古植生あるいは生息した当時の古環境・古気候を復元する方法を開発・検討している。本講演では,これまでの研究成果をまとめて,現時点で考えられている植物化石や堆積物中の高等植物起源の抵抗性高分子の地球化学的特徴と地球科学的指標としての潜在性,さらに今後の研究の展望について紹介する。
  • 池田 慧, 沢田 健, 高橋 正道
    原稿種別: 口頭講演
    専門分野: 地球化学と生理学の融合:生体プロセスの研究から地球化学へ
    セッションID: 1C06 06-06
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/30
    会議録・要旨集 フリー
    植物体を構成する抵抗性高分子は,化学的に安定で微生物分解や続成作用に抵抗性をもち,植物化石体や植物由来の堆積有機物粒子を構成する主要成分と考えられている。その抵抗性高分子の構成分子ユニットの組成が分類群によって異なり,それらの組成が続成過程を経た植物化石においても保存された場合,起源となる植物を特定する化学分類指標として応用できる可能性がある。一方で,抵抗性高分子の分子ユニット組成が植物の生育環境または続成作用によって変化する場合,その組成分布はそれぞれ古環境指標または続成指標にもなる可能性がある。このような化石試料の抵抗性高分子の構成分子組成の変化がどのような作用・要因で決められるかについては,未だよくわかっていない。そこで本研究では,白亜紀の単一の炭層に含まれる分類・部位の異なる植物化石の抵抗性高分子分析を行い,その構成分子ユニットの組成分布の多様性について検討した。
  • 井上 麻夕里, 日下部 誠, 日下部 郁美, 酒井 一彦, 鈴木 淳, 川幡 穂高
    原稿種別: 口頭講演
    専門分野: 地球化学と生理学の融合:生体プロセスの研究から地球化学へ
    セッションID: 1C07 06-07
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/30
    会議録・要旨集 フリー
    造礁サンゴの炭酸カルシウムの骨格は、これまで無機的な化学平衡を前提に、その化学成分の変動が温度や外界の元素変動などに規定されていると考えられていた。特に骨格中の元素・カルシウム比は海水温のよい指標として精密な気候復元の研究に貢献している。しかしながら、サンゴ骨格はサンゴの生物活動を通して形成されるため、骨格を試料として扱う場合、生物学的な観点からも骨格形成について理解することが重要である。これまでの研究から、アザミサンゴについて、骨格の成長に酵素の一種であるCa2+-ATPaseが影響していることが示唆されており、またこのCa2+-ATPaseは光によって活性化されることが報告されている。しかしこれまでに環境復元に重要な塊状ハマサンゴについては、このようなサンゴの生理学的側面からの研究はほとんど行われていない。そこで本研究では、温度や光などの環境を制御して飼育したハマサンゴを用いて、これら制御要因と骨格成長率、またCa2+-ATPaseの発現量の変化を比較した。さらに飼育期間中に成長した骨格中の元素・カルシウム比変動とも組み合わせることで、環境指標としてのハマサンゴ骨格の形成機構の解明と指標としての有用性についての検証を目的とした。試料は沖縄県瀬底島周辺海域から採取されたサンゴ(P. australiensis)3群体からそれぞれクローンサンプルを作成し,温度、光量をコントロールして飼育を行った。飼育期間中は定期的にサンゴ試料の水中重量を測定し,温度区毎の成長率の変動を群体毎に評価し,成長率と微量元素変動の関係についても考察を行った。
    実験の結果,温度変化に対する骨格成長、Ca2+-ATPaseの発現量は群体によって異なることが分かった.一方、温度と骨格中の微量元素変動の関係は群体により差があるものの,主に温度がSr/Ca比変動を律速していることが示唆された。さらに、本研究を通してこれまでに報告されていないハマサンゴからRNAを抽出する方法を確立した。
現世の有機物、微生物、生態系の地球化学的動態と過去の生命史の解明
  • 菊池 みのり, 海保 邦夫, 大庭 雅寛
    原稿種別: 口頭講演
    専門分野: 現世の有機物、微生物、生態系の地球化学的動態と過去の生命史の解明
    セッションID: 1C08 07-01
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/30
    会議録・要旨集 フリー
    <はじめに>
    カンブリア紀は生命の歴史において非常に重要な時代である。この時代、現在見られる動物門の殆どが出現した事が知られている。しかし、このような急激とも思える生物の進化が何によって引き起こされたかは、未だに議論が続いている。この時代について中国やオーストラリアなどで地質学的、地球化学的研究は行われているが、有機地球化学的な解析はまだ殆ど行われていない。
    <手法>
    今回私は、南中国雲南省昆明市梅樹村セクションの先カンブリア時代とカンブリア紀の境界(以下PC/C境界)近傍の海洋堆積物サンプルを用いて有機分析(主にバイオマーカー分析)を行い、この時代の環境変動の解析を行った。
    岩相:プレカンブリア系上部は主としてドロマイト、カンブリア系下部はほぼ黒色頁岩
    手法:各堆積物100gに対し(サンプルが少ないものについては50g)、ソックスレー抽出により有機溶媒に可溶なビチュメンを抽出し、シリカゲルクロマトグラフィで分画を行う。このうち、炭化水素画分と芳香族画分をGC/MSにより分析した。
    <結果・考察>
    PC/C境界下部のドロマイト層では、原核生物由来のホパン類が割合的に多く見い出されるのに対し、境界より上の層準では真核生物由来のバイオマーカーであるステラン類がより多くみられるようになる。これらの逆転の時期はちょうどPC/C境界直後であり、数回の逆転を経て、ステランが優勢の時代へと移行していく。これらの有機物の存在は、当時のバイオマスの推定に役立つため、PC/C境界における、カンブリア爆発へとつながる生態バランスの変動を復元できるかもしれない。
    また、この時期の海洋環境について、酸化還元指標であるプリスタン・ファイタン比、アリルイソプレノイド、そしてジベンゾチオフェン類を同定し、解析を行った。アリルイソプレノイドは絶対嫌気環境下でのみ生育する緑色硫黄細菌固有のバイオマーカーで、海洋有光域の還元指標となる。また、ジベンゾチオフェンは堆積場の還元環境を示唆する。
    その結果、アリルイソプレノイドでPC/C境界近傍で通常より2桁以上大きなピークを示し、短期間に増減を繰り返した後に黒色頁岩中で低い値へと戻る様子が見られた。これはカンブリア系下部の黒色頁岩中で還元環境を示す指標が得られたという先行研究の結果を支持せず、今後の考察が課題となる。この間隔の狭いピークは、ステラン/ホパン比の変動時期とタイミングが一致し、その変動が逆相関を示すことより、海洋の還元環境とホパン・ステランの増減には密接な関係があると考えられる。
    今後はより高解像度のデータを用い、詳細な環境変動を検討していく。
  • 大庭 雅寛, 海保 邦夫, 岡部 高志, ラモルダ マルコス A., ライト ジェームズ D.
    原稿種別: 口頭講演
    専門分野: 現世の有機物、微生物、生態系の地球化学的動態と過去の生命史の解明
    セッションID: 1C09 07-02
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/30
    会議録・要旨集 フリー
    スペインアローブスで採取された白亜紀セノマニアン期-チューロニアン期境界(約9300万年前、C-T境界)堆積物中の炭酸塩の安定炭素同位体比を分析した結果、炭素同位体比のポジティブシフトがC-T境界の約75万年前から始まっていることを明らかにし、さらにその期間中に、還元的水塊の発達を示す緑色硫黄細菌由来と考えられる2,3,6-トリメチルアリルイソプレノイドと、還元的堆積場の発達を示すジベンゾチオフェンおよびそのメチル誘導体の濃度において、2度の短期間(数千年から数万年間)の増大と1度の長期間(数十万年間)の増大があることが判明し、さらに2度の短期間の増大がそれぞれ異なる浮遊性有孔虫の絶滅と一致していることが判明した。
  • 朝比奈 健太, 熊谷 現, 浅野 純也, 小川 洋平, 三田 肇, 野本 信也
    原稿種別: 口頭講演
    専門分野: 現世の有機物、微生物、生態系の地球化学的動態と過去の生命史の解明
    セッションID: 1C10 07-03
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/30
    会議録・要旨集 フリー
    地層中には、炭素数 32 のエチオポルフィリンやデオキソフィロエリトロエチオポルフィリン ( DPEP ) などのアルキルポルフィリンが中心となるが、芳香環を有するベンゾポルフィリンや炭素数 33 以上のアルキルポルフィリンの存在も知られている。当研究室ではこれまでに、これらの形成についてクロロフィルのビニル基が反応に関与している機構を提案してきた。本研究では、地層中でのビニル基の反応を詳細に検討することを目的として、メチルビニルピロール骨格を有するポルフィリンを基質としたモデル地層反応を行った。その結果、ビニルピロール構造からそれらを生成する事を示唆する結果を得た。本発表では、ビニルポルフィリンの反応挙動について、ピロール側鎖のアルキル基の増炭および、モノメチルピロール、ベンゾピロール構造の生成機構について論ずる。
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