抄録
セレンは、一般的には-2、0、+4及び+6の原子価(酸化数)を持つ形態をとる非金属元素である。元素態セレン(0)は水に不溶性であり、酸化や還元作用が受けにくく、安定な形態である。セレン化物(-2)は、水素化物、有機物、金属との化合物として存在する。一方、急性及び慢性毒性を持つ酸化物であるセレン酸(+6)および亜セレン酸(+4)は、安定な水溶性イオンとして存在する。セレンの工業的利用は、化学薬品から冶金用途に至るまで多岐に渡っている。人的活動がセレン循環に大影響を及ぼすことから、高濃度セレン汚染を防止するために、排水基準が0.1ppmに定められている。発表達はこれまでセレン酸(+6)を特異的に元素態セレン(0)に還元する異なる2種類のセレン酸還元細菌を分離、機能解析してきた。セレン酸(+6)を排水中から直接除去することは現時点でも容易ではないことから、上記の微生物の還元作用を利用すれば、比較的容易にセレン酸(+6)から元素態セレン(0)に還元し、物理化学的処理を必要としない経済性の高い、除去回収プロセスに応用できるのではないかと考えられる。このような金属代謝に関与する微生物機能を探索・駆使して利用するテクノロジーは、今世紀の元素戦略の重要な役割を担うと考えている。