抄録
二枚貝などの軟体動物の硬組織は付加成長によって形成され,その殻断面見られる様々なオーダーの成長縞には個体発生を通じての殻成長や生息場の環境情報を記録している.日本列島周辺に広く分布するマルスダレガイ科二枚貝のカガミガイは,冬季の低海水温期に成長を停止させて成長障害輪(冬輪)を形成し,その冬輪の間には朔望日輪が観察される.よって,貝殻断面に年と日精度の時間軸を挿入することが可能である.東京湾周辺から得られた過去7000年間の化石カガミガイの微細成長縞解析および酸素同位体比分析結果から,その成長様式は完新世の気候変動に応答して変化していたことが明らかとなった.また,海水温の季節変動のほか,夏季のモンスーンの強度を反映していることが推定された.